第36話
私は少し考えて、単刀直入に尋ねてみようと思った。
「やっぱり考えても分からないんだが、神谷が私をここに拘束する理由はなんだ。
まさか有給を取らせたいがためにここまですることはないだろう。………お金か? もしくは私を殺すことが目的? 」
神谷はぐっと押し黙る。どう答えるか迷っているようにみえる。
嘘をつこうか、ホントのことを言おうか、それとも真実と嘘を混ぜようか考えているのだろうか。
「それは、僕はただ………宮さんと一緒にいたかったから……」
神谷はそれを言ったきり、口を開かない。
まるっきり嘘では無さそうな雰囲気だが、これ以上他に言う気がないのは察せる。
「理由がそれだけだとは思えないけど」
そう言ってみたものの、なんの期待もしていなかった私だが、神谷は思いのほか神妙な面持ちになった。
「……そ、それだけでは無いけれど、嘘じゃないです。
仮にですけど、宮さんにずっと僕の家で暮らして、僕だけを見て、好きになって、甘えて過ごして欲しいなんて言っても嫌がるでしょう?」
「まあ、そうだね」
あっさりと肯定すると、神谷はちょっと傷ついた表情を浮かべた。
さすがにその告白まがいの例え話に私が首を縦にふるわけないのに。
「つ、連れてきたとしてもすぐ家を飛び出して、また危ない仕事をして、僕のことなんかすっかり忘れて何週間も会わずに過ごすなんてこともへっちゃらでしょう?
だから、今やってることすべて僕のエゴです。
拘束してしまっていることは本当に申し訳なく思ってます。でも、それ以外のことでは不自由させないと誓いましょう」
ちょっとムキになって、その結果俯いてしまった神谷に私はため息をつく。
でもまあ、しばらくは神谷の思惑に付き合ってもいいかとも思う。
呆れ半分、ほだされ半分。
「………わかったよ」
あんまり好意的な返事ではなかったが、神谷は嬉しそうに目を輝かせた。
なんでこんな私に愛想振りまいてるんだか、神谷なら女の子を選り取りみどりだろうに。
「嬉しいです、ちゃんと心も奪えるように頑張りますので!」
理解に苦しむ宣言に、とんだ変わりもんだなあ、と神谷に手をにぎにぎされながら思った。
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