第23話
途中、宮さんは「悪かったなあ、巻き込んで。重いだろ」と掠れた声で言った。
「いえ、そんな。……もっと食べた方がいいです」
「重かったら捨てていってもいいよ」
「そんなことしません」
お腹の傷を盗み見ると、どうやら血は止まっていそうだった。
深部にまで達していなかったことが、僕を唯一安心させた。
「神谷、私はちょっと後悔しているよ。あの日、あの雨の日、声をかけるんじゃなかったなあってさ」
「なんで今更そんなこと……」
宮さんは僕の顔をじっと見つめる。
さっきのような鋭い眼光は見る影もなく、
月光に照らされた真っ黒な瞳がやわらかく僕をとらえていた。
やがて宮さんが口を開いた。
「………神谷、そんな顔するなよ」
僕は今、どんな顔をしている?
華奢な身体を抱え、傷が開かない程度に急ぎ
はかなく消えてしまいそうな宮さんを前に僕は、ただ。
泣いていた。
声も上げず
流れ滴る涙を構わず
宮さんの心音に耳を傾け
「私の事なんかで泣くなよ」
と、こんな時でも平気な顔で僕を慰める宮さんの代わりに、泣いた。
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