第8話 確かに私が悪いのだけど!
「いいか。魔物の中で名持ちはほぼ居ない」
私は地面に降り立って草の上で正座をしている。
銀色の大きな犬がどこか虚空を見ているような目で立ったまま動かなくなってしまったのだ。
そしてクロムは声をかけても何も反応しなくなった銀色の犬から私を肩に担いで地面に降り立った。
子どもの大きさとは言え、猫なのに私を担げることに驚いたのと、思ったよりも毛並みがビロードみたいにさわり心地が良かったのとで、私は何も言えず地面に下ろされた。
私の目の前で、肩を落として項垂れているクロムが、私に説明をしてくれているのが、今ここ。
「その魔物に名をつけるということは、その名で相手を縛るという意味になる」
「はい」
「フェンリルみたいな、災害級の魔物に名付けなんて普通はできない」
「災害級! ってなに!」
フェンリルって、北欧神話に出てくる大きな狼っていう感じだったよね。それが災害級。
災害級ってことは、その力を奮うと災害が起こったかのように何も残らないっていうことだよね?
「言葉そのままだ。いいか、普通はフェンリルみたいな魔物を縛るってことはできないことをお前はしてしまったのだ。自分が強者だと自覚を持つことは大事だぞ……としか俺は言えねぇ……」
凄く落ち込んでいる。もの凄く灰色の毛並みの猫が肩を落として落ち込んでいる。
確かに私が悪い。
「申し訳ございませんでした」
私は正座をしたまま地面に両手をついて、頭を下げる。謝罪は大事だ。これから、強制的にだけれども、私に付き合ってもらうのだ。良好な関係は築かないといけない。
それはわかっている。わかっているけど……釈然としない。
私は顔を上げて、私の心の内を吐き出す。
「確かに私が悪いのだけど! 一番悪いのは何も無い草原に召喚した人なんだからね! 好きでこの世界に来たわけじゃないの! だから絶対に元の世界に帰ってやるんだから!!」
そう……好きでこの世界に来たわけじゃない。絶対に帰る方法を見つけて、元の世界に帰るんだからね!
「雰囲気から、ここに来たくて居るわけじゃないことはわかる。これからは『カリン』と名乗れ、絶対に真名は言うなよ」
「はい」
返事をした私は立ち上がる。取り敢えず、クロムと約束をした凍らせた山を解かしに行こう。
『銀太』と名付けてしまった銀色の犬は放心状態のまま、回復しそうにない。だから、凍っているところまで歩いて戻ろう。
「おい、どこに行くんだ?」
「氷を解かしに行く」
私が目視できる草原の先でキラキラと光っている一角を指で差す。アレは太陽の光に反射している凍った草だと思う。
「はぁ、ついていく」
ため息を吐かれながら言われてしまった。これは問題児扱いをされている?
いや、いらないことをするなという意味だろうね。
結局、魔法というものがさっぱりわからない私は、凍っているところに向かって『解けろ』と言うだけにした。すると、白かったところが、緑の草や山に変わっていった。
魔法ってなんだろうね?
「いいか? 魔法っていうのはだな」
クロムが魔法のことについて話をしてくれているけど、私には手渡された何の肉かわからないものに釘付けだ。
銀太と名付けてしまった銀色の大きな犬は、現実を受け入れることができたのか、今では何かの生肉を食べている。
そして、クロムによって熾された火にあぶられている肉が私の手元にある。
齧ってみる。
臭い。この肉臭い。
腐っているというよりも、肉自体の臭さだ。
せめて下処理とかできないの?
クロムを見ると、私に説明しながら肉を食べている。
もしかしたら、噛んでいくと旨味が出て美味しくなるのかも……齧ってよく噛んでみる。
臭く味があまりしない肉でしかない。こんな状況で贅沢は言いたくないけど、せめて塩ぐらいは欲しい。
「ねぇ、その魔法の話の呪文のところが、全く聞き取れないのだけど?」
私が肉のことに思考が傾いてしまうほど、途中からクロムの言っている言葉が理解できなくなった。言っていることが理解できないのではなくて、話している言葉自体が理解できなくなったのだ。
「ああ、魔法は基本的に人族が使うからな」
これは私には普通の魔法は使えないと言っている?
「俺達が使うのは精霊術だ。魔族は魔術だな」
種族によって使う形態が違うってことか。だったら私が使っているのは何になるのだろう?
「魔人が使うのはなに?」
「知らねぇよ。魔人に会ったのはカリンが初めてだからな」
「ソウデスヨネー」
私以外の魔人は魔王なら、それは会ったことはないよね。
「まぁ、魔人が通ったあとは何も残らないという話も聞くから、普通の魔法じゃないのはわかるな」
……それ魔王だからという前置きがつくんじゃないのかな? そんな怖そうな人と私を一緒にしないで欲しい。
私はそんなことはしていないから……たぶん。
そして結局魔法がどういうモノか分からなかった。
_________
小話
冒頭のところまで戻ってきました。
この時に勇者召喚が行われましたが、カリンと召喚された者たちに時間差があるのは、女神という者から説明をされていた時間です。神という者にとって二日間の時間差は瞬きする感覚でしかありませんでした。
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