第拾陸話 旅半ば お喋り多めに 森の道

 サーガワンから次の街であるファーステップまでには二通りのルートがある。


 一つは「旅立ちの平原」を通るルート。多数のプレイヤーと多数のモンスターが一堂に会する広大な平原マップを通るルートであり、大人数でのパーティープレイを前提としてデザインされている。


 もう一つは「旅立ちの森」を通るルート。こちらは平原とは打って変わって、周りを木々に囲まれた一本の狭い道を進んでいくルートであり、ソロや少人数でのプレイを前提としたデザインがされているのだ。


 零門達が今回選択したのは「旅立ちの森」ルート。二人パーティーだったこと、既に平原で遊んだこと、そしてためモンスターとの遭遇機会の少ない後者を進むことにしたのだ。


=====


「あれ? 零門見た目変わってる!」


「ちょっと装い変えたからね」


 今の零門が身に纏っているのは熊を模したポンチョではなく黒いロングコート。この「夜渡りの衣装」は「熊羆の衣装」と同じく、装備の上から着込む外套タイプのアクセサリー。全体のシルエットから細部に至るまで蝙蝠の翼のような意匠が施されており、装備してると夜の間だけモンスターに気付かれなくなる効果を持つ。無論、その効果は「出来損ない」の補正を覆い隠せるほどではないのだが。


「いいじゃん! その白い髪と眼帯に凄くマッチしてるよ!」


「白い髪……眼帯……あ、ありがと」


「私も呪術仮面とか魔法鎧とかじゃなくこういうの買っとけばよかったなぁ……」


 アマオーはむくれながらショートを呼び出しウィンドウを操作する。


「そうそう、私ちょっとステータス振ってみたんだけど見てもらってもいい?」


「了解」


――――――――――


Player Name:アマオー


Level:7


Species:ハーフエルフ

(種族補正値)

HP:0.95 / MP:1.15

ATK:1.0 / DEF:0.95

MAT:1.15 / MDE:1.15

AGI:1.0 / DEX:1.0 / LUK:1.0

(その他補正)

植物の心得(植物系アイテムの使用・生産に若干のプラス補正)

半森人の宿命(エルフ族NPCの初期好感度:低/その他種族NPCの初期好感度:微高)

理論魔法適正:◎


Job:魔法使い(見習い)

(ジョブ補正値)

HP:1.0 / MP:1.0

ATK:1.0 / DEF:1.0

MAT:1.0 / MDE:1.0

AGI:1.0 / DEX:1.0 / LUK:1.0

(その他補正)

見習い(見習い状態である限り各種補正無し。ジョブの熟練度を上げることで解除される)


States

HP:143 / MP:184

ATK:10 / DEF:33

MAT:121 / MDE:40

AGI:25 / DEX:25 / LUK:15


States Point

HP:10 / STR:0 / VIT:5

INT:20 / RES:5 / AGI:5

DEX:5 / LUK:5 / Stock:3


Weapon:魔法使い見習いの杖

Hed:魔法使い見習いの帽子

Torso:魔法使い見習いのローブ 上

Arm:魔法使い見習いの手袋

Waist:魔法使い見習いのローブ 下

Leg:魔法使い見習いのブーツ


Passive Skill

無し


Battle Skill

瞑想

魔力吸収

めった打ち


Magic

ファイアーボール

サンダーアロー

アイススピア

ヒール

キュア

etc……


――――――――――


「どうかな?」


「う~ん……まあ、いいんじゃないかな? とりあえず、まずは自分のプレイスタイルを見つけることから始めていこっか。そうすればどんなステータスの振り方が良いかも見えてくるだろうし」


「うん! わかった!」


 話も一段落着いたところで2人は出発した。


~~~~~


 脳天目掛けて振り下ろされるホブゴブリンのこん棒。零門はそれを大剣のガードスキルで真正面から受け止め、鍔競り合う。だが、レベル1相当のSTRでは当然押し負けてしまう。


「それは承知の上っ!」


 剣の腹を支える左腕を少し下げて大剣を傾ける。こん棒が剣の上を滑っていき、ホブゴブリンは大きく体勢を崩した。


「チャンス!」


 ゴブリンが体勢を崩している間に零門は大剣を構えなおしスキルを発動。黄色いエフェクトを纏った渾身の一撃がホブゴブリンの頭部に炸裂すると、即座に横へ跳びアマオーの射線を確保する。


「アマオー、とどめ!」


「了解! ファイアーボール!」


 よろけるホブゴブリンにアマオーの火球が命中し、腰布とこん棒を残して焼失した。


「ナイス連携! この調子でってあいた!?」


「零門!?」


 2人が油断した隙を突く形で、アルミラージの体当たりが零門に炸裂する。さらなる追撃は大剣でガード。だがここでまたも予想外の事態が零門を襲った。


「やばっ! 耐久限界!」


 先ほどのホブゴブリンで少し無茶な使い方をしていたせいか、大剣の耐久が使用可能域限界まで削れてしまっていたのだ。そこにアルミラージの攻撃を受け、大剣に亀裂が入る。


「仕方ない!」


 零門は大剣から手を放し、アルミラージが突いた亀裂部分目掛けて蹴りを見舞う。耐久限界を迎えた大剣が砕け散り、その破片がアルミラージに突き刺さる


「吹き荒べ!」


 さらに追い撃ちの風属性魔法でアルミラージと剣の破片もろとも近くの壁に叩きつけとどめを刺した。


「……とまあこんな感じで、装備の耐久値が0になっちゃうと壊れちゃうから注意ね。」


 唖然とした様子のアマオーに対し私は言葉を続ける。


「……まあでも、ちゃんと装備がある程度原形を留めてたら、鍛冶屋で直してもらうこともできるから……」


「今みたいに粉々になったら?」


 足元に転がる金属片を拾い上げ、零門はこう言った。


「……良くて金属素材インゴットかな?」

 

~~~~~


「零門ってこのゲーム久しぶりなんだよね?」


「ん? そうだけどどうかした?」


「久しぶりなのに凄く動けてるなって思ってさ」


「まあ、このゲームを遊んでなかったってだけで他のゲームやアプリはやってたりしたからね」


「そういうものなのかな……?」


 零門の答えに対してアマオーは少し納得がいかない様子を見せる。アマオー――苺花は今までレトロゲームコンシューマーゲームしか遊んだことがないからこそ、そこの感覚について零門とズレがあった。


「アマオーがやってるレトロゲームってゲーム毎にボタンの操作とかアクションが全然違うでしょ? フルダイブのゲームってさ、動かすのは自分の身体だから他のゲームで身につけた経験やテクニックもそのまま流用しやすいの」


「あ~……なるほど!」


「まあ、私はアマオーの方が凄いと思うけどね。レトロゲームって複雑なのばかりだし」


「そんなことないよ~」


 レトロゲーム消滅の危機が叫ばれる昨今。柚葉は苺花の家で何回かそういったゲームを遊ばせてもらったことがある。

 フルダイブのゲームに慣れ切った柚葉には、ゲーム毎に操作方法が全く違うことや、画面の向こう側にいるキャラクターを動かすということに激しい違和感を覚え、馴染むまでにはかなりの時間を要したのだ。


「それを違和感なくプレイ出来るレトロゲーマーは私たちフルダイブゲーマーとはまた違った技能を持ってるんじゃないかな? まあこれは推測だけどね」


「う~ん、そういうものなのかな……でもよかった~」


「よかったって何が?」


「私はてっきり零門が運動神経バツグンだからあれだけ動けてるのかな? って思ってたよ」


「あー……まあ、それもあるかもね」


「じゃあ運動音痴の私は向いてないってこと!?」


「う~ん……現実ではあまり動けないけどVRだと凄く動けるって人もいるらしいからたぶん大丈夫でしょ」


~~~~~


「安いよぉ~……安いよぉ~……お買い得だよぉ~……」


「あ、商人だ! もしかして他のプレイヤーの人かな!?」


「残念、NPC」


「ありゃりゃ……」


 最初の休憩地点チェックポイントに到達した零門たちの前に広がっていた光景……それは少し開けた場所にポツンと露店商(NPC)が一人佇むというなんとも寂しい光景だった。


「アイテムとかは足りてるけど……寄ってく?」


「寄ってこう!」


 言うが早いか、アマオーは露店商の元へ走っていく。ふと零門の脳内にあの老婆がよぎるが、流石に初心者用のエリアであんな罠みたいなことは起こらないだろうと振り払う。


「久しぶりのお客さんじゃぁ~……最近めっきり来てくれなくなってのぉ~……お嬢ちゃん達、何か買ってくかい?」


 露店の店主は目を輝かせながらカーペットに商品を並べていく。薬草や傷薬といった回復アイテム、MP回復のための聖水等々。値段は街のアイテム屋で買うよりも割高だ。


「このテントグッズみたいなのは何ですか?」


「それは“りんじせぇぶ”ってのをするためのテントでな? 街にいなくても安心して“ろぐあうと”ってのが出来る優れもんよ」


「いいじゃん! ね? これ便利じゃない?」


「確かに……」


「ちなみにここでしか使えんぜ?」


「「じゃあいりません!」」


「おお……それは残念じゃ……」


「う~ん……何か買ってあげたいんだけどなぁ……」


 お人好しのアマオーでも流石にこれは買えない。


「何か他に売り物とかあったりしませんか?」


 そう問いかけるアマオー。店主はうんうんと一考した後、こう切り出した。




「お嬢ちゃん達、“びーじーえむ”ってのを変えてみたくはないかい?」

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