オルタナティブ・ワールド・コーリング 略してオワコン ーーー黒歴史と相対するVRMMOーーー
でゅらはん
序章 少女は再び世界に立って
第零話 黒歴史 忘れた頃に やってくる
「ん~と、確かこの中にあったはず……」
靴、着物、トロフィー、バイオリン、参考書etc……
古城柚葉は押し入れに詰め込んだ荷物の山を退かし奥を漁っていく。
「あ~! こんなことならきちんと整理しとくべきだったぁ!」
部屋に積み上がる荷物の山。それらの大半は実家、もとい本家が出奔した彼女に送り付けたささやかな
ドレス、表彰状、道着、食器類、アルバムetc……
「あった!」
柚葉が押し入れの奥から無事に発掘成功したのはとあるゲームのパッケージ。その名は「オルタナティブ・ワールド・コーリング」(通称オルワコ/AWC)。かつては世界の覇権を握ったとも言われた伝説のVRMMORPGだ。
「もうかれこれ3年以上触ってないけど大丈夫かな……?」
パッケージの埃を払いつつ中からソフトを取り出し、自身の耳に装着したVRデバイスにソフトを読み込ませる。
「よし! 無事っぽい!」
問題なくプレイできることを確認した柚葉は早速ベッドへ飛び込みこのゲームを起動した。
―――――――――
「れ、
デバイスとゲームデータの更新や課金プランの設定等々を完了し、ようやくログイン画面にたどり着いた柚葉。そんな彼女の目に飛び込んできたのは、何やら不穏な気配の漂うアカウント名だった。
「そうか……このゲームやってたの3年以上前だから中学の頃か……」
中学時代……それは思いつく限り数多の手段を行使して忘れ去らんとした、柚葉にとっての暗黒時代。つまりは黒歴史である。その一端に触れることに柚葉はたじろいだ。
しかし約束がある。今から1時間半後の18:00にこのゲームで親友と落ち合うという約束が。初めてこのゲームで遊ぶという親友の案内するのだ。
柚葉は意を決してログインのコマンドを選択した。直後、身体がふわりと浮かび上がるような感覚と共に視界は眩い光に包まれ……
--- Welcome to Alternative World ---
ゆっくりと地面に降り立つような感覚と共に目を開けてみれば、そこは現実とは違う
門を見上げると「ネヴァーエンド」と書かれた看板が目に付く。それはこの街の名前であり、零門が最後にセーブした地点でもあった。
親友と落ち合うためにはまず「サーガワン」という最初の街へと移動しなければならない。幸いこの街には行ったことのある街へワープできる転移門(※追加課金プランもしくはキャンペーン特典必須)があるのでそこは安心だ。慣らしも兼ねて少しだけ散策しようと零門は歩きだす。
「それにしても相変わらずすごいクオリティだなぁ……」
門からまっすぐ伸びる大通りを歩みながら零門は呟いた。
街の風景、陽の光の暖かさ、風が運ぶ匂い、遊び回る子供達(NPC)の声といった直接的な感覚情報。それに止まらず町行く人々(NPC)の視線のようなあいまいな情報さえもそれとなく感知できてしまう。
オルワコはリリースからかれこれ7年以上が経つゲームだが、未だに技術分野では他の追随を許さないとされている。そもそも世のフルダイブ系VRコンテンツのほぼ全てがこのゲームのシステムを元に作られているからなのだが。
そのクオリティーの高さを堪能しつつ、ふと零門は道沿いのアイテム屋の方に視線を向けた。店前の呼び込み(NPC)がとっさに顔を背ける。
「んむぅ……」
零門は少しだけ違和感を抱いた。自身に向けられる視線の多さ、そして目線を向ければ顔を逸らす人(NPC)の多さにだ。
「あ、ちょうどいい所に!」
通りがかった装備屋の壁に姿見が配置されていたので、零門は身嗜みをチェックすることにした。
そこに映った自身の姿を見て零門は硬直する。
黒歴史が自分を殺しに来た
まず目についたのは真っ黒な左目。白目の部分が黒い、いわゆる黒白目や反転目と呼ばれる目。瞳は青く、蛇の様に切れ長な瞳孔が人ならざるモノの邪悪さを醸し出す。目尻と目頭に施された鋭い縁取りと、引っ掻き傷のような赤い刻印が尚更それを加速させる。
右目は六芒星を模した意匠の刻まれた眼帯に封じ込められてあるものの、その端から覗く縁取りや刻印から、中は左目のそれと同様であろうことが伺えた。
肌は命の温度を感じさせないほど青く冷たい色。髪は少し灰がかった白のミディアムボブ。中央右寄りの分け目には乾いた血の色をしたメッシュが一房垂れ、死体めいた印象を覗かせる。
そして頭全体のシルエットを大きく歪ませるのが頭頂部と側頭部の間から生えた紫黒の角。左の角は天を突くかのように捻じれ上がり、右の角は半ばで折れて断面からほんのりと紫色の光を放っていた。
色味やタトゥーを除けば整った目鼻立ちであり、顔を構成するパーツは現実の柚葉のそれと共通している。が、全体的な輪郭や配置といった要所要所から幼さのようなものを感じさせる。それはまるで中学生だった頃の柚葉の生き写しの様。
首に巻くのは七つの星があしらわれた黒いスカーフ。
左肩には山羊の骸のような肩当て。そこから伸びた三対の黒く細い羽根のようなものが現実よりも二回りほど小さな胸部を一周してワンショルダートップスのような形を成している。
むき出しの臍を囲うように燃え上がるのは、丹田から生じた炎の紋章。
小ぶりな腰のラインをはっきりと浮かび上がらせるタイトな黒いショートパンツ。その上から無造作に、そして幾重にも巻き付く蛇の様なベルト。
両腕の肘から先は呪文の刻まれた包帯が巻かれ、何かを必死に封じ込めんとするかの様。包帯は真新しいものから茶色く風化したものまで新旧様々。少し解けた人差し指の先端からは禍々しい邪気のようなものが覗く。両手の人差し指と中指には黒い宝石があしらわれた指輪がギラリと光る。
両脚に刻まれた呪印は左右非対称、左脚には乱雑に巻きつく黒い鎖。
両足のヒールブーツは黒革をひもで縛った一見オーソドックスなものだが、皮の破れた部分から内に宿る紅い何かが静かに脈動していた。
そこにあったのは中学時代の己ベースの容姿に詰め込まれた中二要素の欲張りセットで…
「な、な…ななな…」
声が震える。視界がぼやけ、全身が硬直し、心臓が激しく脈を打つ。
「な゛あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
街に絶叫が響き渡る。何事かと駆け付けた警備兵達(NPC)が見たのは
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