死体を埋めた

春野訪花

曇天と花壇とあの子の死体

 死体を埋めた。

 土で顔が汚れないように、小石で傷がつかないように、濡れタオルで綺麗にした後で大きな布で包んで。

 場所は庭先の寂れた花壇。昔は花が咲き誇っていたそこを、綺麗だねって言っていたのを覚えていたから。花なんてとっくに枯れ果てて、当時の花が落としたらしい種がぽつりぽつりと芽吹いているだけだ。

 彼女がいるのだからこれからは手入れをしよう……そんなことを思った。

 ――土をかける前に見た彼女の顔は、綺麗に微笑んでいて……それが、僕と共に死ねたと思っているからだと思うとズキズキと胸が痛んだ。だけど、もう、遺されてしまっては、彼女を追って肉体を壊す勇気なんて出なかった。

 だからせめて、彼女の亡骸を綺麗な場所に置いておきたかった。

 花壇の手入れなんてしたことがない。何から手をつければいいかも分からない。とにかく、種を買ってこよう。

 ああ、どんな花がいいかも分からない。聞いておけば良かった。

 生き残ってしまって、今頃彼女は怒っているだろうか。早く来いと言っているかもしれない。

 手首の傷が痛痒い。ガリガリと爪を立てれば、少し血が滲んだ。このままかきむしり続けたら、いつか、彼女を追っていけるのだろうか。

 ボロボロな財布を持って、僕は種を買いに出る。灰色の重たい雲が空を覆い隠していた。

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