極悪非道のラスボスに転生したので、平凡に楽しく生きていきます

今慈ムジナ@『ただの門番』発売中!

第1話 ラスボスに転生しました

 自分が何者かなんて知らないほうが、案外幸せなのかもしれない。


不笑王ふしょうおうオリン=エスキュナー……」


 鏡の中には7歳ぐらいの貴族の少年がいる。ボクだ。

 女の子のような中性的な容姿で、ひきつった笑みを浮かべていた。頭に本をぶつけたせいでおでこが赤く腫れているや。


 周りをぐるりと見渡す。ボクの部屋がそこにあった。

 昼なのに屋敷内はうす暗くて、テーブルには魔力があがるハーブ茶が置いてある。床には魔力矯正グッズに、むずかしい魔術書が乱雑に散らばっていた。


 いつもの訓練中、あいかわらず魔術が使えなくて本に八つ当たりしたんだよな。


 それで山積みの本が倒れてきて頭にゴチーンッ。

 雷に打たれたような衝撃のあと、前世の記憶があふれてきたんだ。


「笑わないオリン。魔術の使えないオリン。きずなしのオリン。そんでもってエスキュナー性かあ。地名も魔術の知識も思い当たることばかりじゃんか」


 ボクはうえーと頭を抱える。


「ここって【アークノファンタジー】の世界だ……」


 アークノファンタジーとは、ボクの前世ではまっていたソシャゲだ。


 キャッチコピーは『僕たちは一人だった』。


 身体のどこかにきずがなければ魔術の使えない世界。

 能力や種族差で人と人がなかなかわかりあえず、そんなときに世界を象ったとされる聖痕せいこんをめぐる戦争がはじまる。


 第一の聖痕『すべての始まりを叶える聖痕』を宿した主人公(プレイヤー名)が、聖痕の力(いわゆるガチャ)で仲間を集めながら世界を旅する学園ファンタジー冒険譚だ。


 好きなゲームクリエーターがディレクションを務めたから興味をもったんだよな。


 ダジャレっぽいタイトルだからと侮るなかれ、独特な世界観に陰鬱なストーリーは話題を呼んで、根っこにある人間賛歌は多くの人の心をゆさぶった。

 小さな企業発でありながらソシャゲ前線の人気上位で長らくありつづけた。


 だけど、まさか、なんで。


「よりによって不笑王オリン=エスキュナーなのかなあ」


 十数年先の未来をボクはなげいた。


 不笑王オリン=エスキュナー。

【アークノファンタジー】の諸悪の根源だ。

 心の隙をついて弱者をそそのかしたり、大勢の怒りを焚きつけたり、ときには悪意をばらまいた極悪人。


 一癖も二癖もある部下と共に、世界を破滅に導こうとしたラスボスだ。


 不笑王の名のとおり、オリンは滅多に笑わない。

 笑うときも極まれにあるのだけれど、印象にのこるシーンばかりだ。


『命は等しく価値のあるものだ。それがわからぬものは惨たらしく死ね』


 その台詞と微笑みと共に、女子供関係なく町一つ滅ぼしたシーンはファンのあいだで語り草になっていた。


 行動のブレなさ。最強の力をもっているのにコンプレックス持ち。中性的な美しい容姿もあいまってファンもいるが(わたしこそが彼を理解できる系の夢女子が多数)、悪辣なラスボスなのは間違いない。


 最終的にだが、ゲームそのものがソシャゲ界隈の進化についていけなくなったことによりサービス終了。

 ユーザー参加型のラストイベントで、主人公によって倒された。


「そのオリンかあ……」


 小説やアニメで知っているからか転生自体はわりと受けいれられたけども……。

 鏡の中のボクを見つめながら、オリンとしての今までの人生を思いだす。


 オリンは魔術がつかえない。


 どれだけ努力しても、有名な魔術師の教えをうけても、ずっと芽がでてこない。

 立派な魔術師の両親が重責がなっているし、コンプレックスの原因にもなっていた。


 だから、笑えなくなっている。


「……気持ちはわかるよ。ボクも役立たずだったし」


 前世のボクは病弱だった。

 生まれつき身体が弱くて、ことあるごとに身体を壊しては入退院を繰りかえす。陽の光に弱くて外で遊ぶことなんできず、学校での思い出なんてほとんどない。


 もちろん、友だちはいなかった。

 一人で遊べるゲームはずいぶんと心の慰めになったものだ。


 幸か不幸かオリンとはちがって、優秀な妹が生まれたおかげで両親の愛情はすべてそっちに向いた。裕福なこともあって経済的な負担にもならず、ボクは家族の飾りものになるだけで済んだ。


 もっとも、辛くなかったなんて言えば嘘になるが。


「最後の記憶は……。ああ……ボクの17歳の誕生日か……」


 病院のベッドで寝こんでいて、夜中あまりの寂しさに自分用の誕生日プレゼントをこっそりと買いに行ったんだっけ。

 その日は観測史上もっとも寒い冬になるともしらずに。


「大人になる前に死んじゃったか……」


 最後の記憶はおぼろげだ。寒さで体調をくずしたか、それともアスファルトのうえで冷たくなったのか。いろんなダメな自分を想像しつつ、意味のある人生だったか自問して虚しくなった。


 ははっ、飾りものとしても役に立ってないや……。


「その点では……オリン、お前さ。幸せものだよ?」


 鏡の中のボクに語りかける。

 今は前世の記憶が色濃くなったけど、オリンとしての自覚もちゃんとある。両親の期待にこたえられず、周りの冷たい視線に耐えていた自分オリンを知っていた。


「ま、今のままじゃあ絶対に魔術は使えないけどさ」

「――オリン様、どうされましたか? 大きな物音がしましたが」


 部屋がノックされて、メイドが入ってくる。

 彼女は魔術書で散らかった部屋を見るなり、眉をひそめた。


「オリン様……?」

「あ。ちょ、ちょっと魔術の練習をしていてさ」

「さようでございますか」


 わー……あわれみの視線を感じる……。

 どうしてあの両親から出来損ないが生まれたのだろうって視線も……。


 隠しているつもりだろうけど案外わかるものだよな、その手の視線。病弱だった前世のボクもひしひしと感じていたし。


「オリン様、魔力をあげる薬草のリストを商人からいただきました。注文するものがありましたらお申しつけくださいませ」

「大丈夫大丈夫。もういらないから」

「それは魔術師の道を諦めたということでしょうか……?」


 お可哀そうにという視線をほんのりと感じるなあ。

 実際、このままでは魔術が一生使えないことはゲーム知識で知っている。


 オリンは特殊。

 それもなんだ。


 ……まあ、周りを落胆させっぱなしってのもね。


「今ちょうどさ、魔術を使えたんだよ」

「は? ぼっちゃまが????」


 ボクはちょいと指を操って、風を発生させる。

 乱雑に置かれていた本がぱらぱらとめくれた。


「⁉⁉⁉」


 メイドは大口をあけて固まってしまう。


 あれ、特に反応なし???


 すると彼女はまぶたを超高速でパチクリさせたあとで腰をぬかしてしまい、尻をひきずりながら部屋から大慌てで去っていく。


「お、お、奥様!! だ、旦那様!! オリン様が! ぼっちゃまが魔術をおおおおおおおおおおお!!!!」


 ……そんなにー?


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