理不尽ダンジョン
テルト
第一話『理不尽な内容の招待状』
とある日の午後11時頃、スマホに一通のメールが届いた。
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差出人:ダンジョンマスター
件名:当選おめでとうございます!
本文:
アキト様。当選おめでとうございます!
弊社独自の審査により、貴方はダンジョン冒険者に選ばれました!
我々運営委員会が提供する至高のダンジョンで一獲千金が狙える冒険の旅へ!
更に究極の朗報! 最深部に眠る伝説の大秘宝を手に入れた暁には、一生涯働く必要がない程の富が手に入りますよ!
一瞬にして大金持ちになることも夢じゃない!?
明日の午前9時に渋谷駅までお越しください! 詳細な場所については添付先をご確認頂きますようお願い致します!
約束の時刻までにお客様がお見えにならない場合、アキト様の個人情報をSNSにて公開致しますのでご了承ください!
↓↓↓
添付ファイル 顔写真.png
名前:アキト
年齢:19
住所:○○県△△市××町
貯金額:1000円
職業:自称小説家
最終学歴:高等学校卒業
恋愛:彼女いない歴=年齢
趣味:コスプレイヤーの写真撮影
最近はまっていること:結露ったガラス窓にお絵かき
家族構成:父、母、妹、ハムスター
————etc……。
※尚、キャンセルは出来かねます!
・マップ検索
https//www————————。
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発行元 ダンジョン運営委員会
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「ナニコレナニコレ」
差出人から本文に至るまで、全てが突っ込みどころ満載な内容。最早メールというより怪文書に近い。ここまで手の込んだ悪意ある迷惑メールは人生初だ。
何かの懸賞や抽選に応募した記憶は一切ないのだが、ダンジョン……このキーワードに心当たりはある。というか滅茶苦茶知っている。
俺は所謂
「ダンジョン探索して富豪になれるなら苦労はしないさ」
世の中は不条理と理不尽で成り立っている事を、俺は未成年ながら既に知っている。知り尽くしている。この怪文書もまさに理不尽の極みと言えるだろう。
やたらと一獲千金を煽ってくる割に、ダンジョンについての詳細は記されていない。100人中99人は不審に思ってメールを削除するだろう。
「うん。消そう」
編集ボタンを押して……チェックマークを付けて……ゴミ箱に……ポイっと。
『ゴミ箱に捨てることが出来ませんでした。再度やり直してください』
「はっ? 怖い怖い。呪いのメールじゃん」
何度か繰り返したが結果は変わらず。試しに他のメールを削除してみると、何故かゴミ箱へと移動できている。
故障しているのか。いやいや、ついこないだ機種変更したばかりだし……。流石に壊れるには早すぎる。
◆
消せないメールの謎は、仕方ないから一旦置いとくとして、表記されている待ち合わせ時間について言及する必要がありそうだ。
集合時間が明日の午前9時は舐め過ぎてる。感覚が狂ってるとしか思えない。
「もう少し時間に余裕をもってだな……」
残り一時間弱で日付が変わる時刻となる。太陽など当の昔に沈んでしまった。そんな夜中に送り付けられた糞みたいなメール。
東京都渋谷区までの距離は単純計算3時間掛かる為、始発に近い電車に乗らなければ間に合わない。
「マジで準備する時間与えないじゃん!」
明日は推しコスプレイヤーの写真撮影を楽しみにしていたのに。俺のスケジュールは完全無視……。
◆
まあ百歩譲ってここまでは許そう。問題はこの後に続く本文にある。
つまるところ遅刻は許されない。絶対的時間厳守。仮に遅刻をしてしまうと、個人情報の全てを世に放たれてしまうのだ。
個人情報のみならず、自身の汚点、黒歴史、ありとあらゆる恥ずかしい過去を盛大に暴露される。何という辱め。
「別にいいんだよ? 彼女いない歴=年齢とか、俺だけじゃないし、悔しいとかないから!」
モテ期と呼ばれる時期は確かにあった。バレンタインチョコを貰ったあの日。青春を十分に謳歌していたさ…………。
幼稚園生の時だけどね。
ちなみに、最近ハマっていること(結露ったガラス窓にお絵かき)この項目に関しては家族しか知らないと思う。
冬の寒い季節。リビングの大きな窓は結露に覆われ白くなっている。その窓に可愛らしい”象さん”を書いたんだ。トイレに行ってる間にあわてて親父が消してた姿は記憶に新しい。
俺の芸術作品の価値が分からないとは残念だな。自信作の絵、無事死亡の瞬間。
◆
とまぁ、ここまで一人でボケ突っ込みを行ってきたが……結論。只の脅迫文。刑事事件に成り得る案件。
「個人情報駄々洩れだし、どこから情報漏れてんだよ!」
これを見て落ち込まないのは多分俺だけ。唯一の美徳でもある鋼のメンタル。これだけが胸を張って自慢できる長所なんだ。
とにかく今日はもう寝よう。
常日頃から愛用している枕に顔を埋め、静かに眠りに付いた。
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理不尽度合 ★★★
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