第8話 愛桜さんのお悩み相談室 下

 鳥栖とりすと凛は、一瞬驚いた顔をしていたが、僕と愛桜あいらを見つけると、すぐに近づいて来た。

 

 鳥栖が、白地に青のストライプが入ったシャツを着ていて、凛も同様の色使いのスラッとしたワンピースを着ている。

 シミラールックで並んだ二人は、まるでお似合いのカップルのように見えたが、この時期の白×青のストライプは被りがちなので、たぶん何も無いだろう。

 

 それにしても珍しい組み合わせだと思いつつ、よく大学の人たちと来ていた店なので、こんなこともあるかもなと思い直す。

 二人で飲んでいる理由を聞くと、最初は僕も顔は知っている大学の友人五人で飲んでたようだが、残りの三人が帰ってしまったらしい。


 なお、凛は鳥栖と二人で飲む仲だと誤解されたくはないようで、ニコニコしながらも毅然とした口調で偶然一緒に飲むことになったことを強調していた。

 ドンマイ、鳥栖。

 

 ふと愛桜の方を見ると、さっきまで一緒になってふざけていたはずなのに、今ではその素振りも見せずに横で静かに会話を聞いていた。


、せっかくだし、二人と合流しませんか?」

「いいよ。楽しそうだし」


 愛桜がそう言うと、「ありがとうございます」と凛が嬉しそうに手を叩いた。


 特に理由は無いのだけど、こういう時には同性同士が隣になり、男女で別れて向かい合わせで座ることが多い気がする。

 僕たちも例に漏れずそのように座ると、ちょうど店員さんが大きなハイボールを持って近づいてきたので、人数が四人に増えたことを告げた。

 

 鳥栖は届いたハイボールの重量感に笑いつつも、一次会でわりと飲んできたのか普通サイズのビールを注文した。

 つづけて凛も、普通サイズの梅酒のソーダ割りを注文している。

 

 一通りの注文が終わると、凛が不思議そうに尋ねた。

 

「与一と愛桜さんは、どうして二人で飲んでいたんですか?」

「私たちも他の飲み会があって、その二次会って感じかな」

「そうだったんですね!」


 僕は赤べこのごとく、コクコクと横で頷いて同意した。

 注文した飲み物が届いてみんなで乾杯をした後、後輩との関係性に悩んでいるらしい凛が、すっかり先輩モードになった愛桜に相談を持ちかけ始めた。


「一個下の男の子なんですけど、うまくコミュニケーションが取れていない気がして……」

「そうなんだ。仕事はちゃんとしてくれるの?」

「仕事自体は一応やってくれます。でも、何を伝えても生返事なんですよね。目も合わないし……」


「その子、綺麗で優秀なOLの凛ちゃんに教えてもらって、照れてるだけじゃない?」

「そ、そんなことないですよ! あ、でも、たしかに女性慣れしてない感じはしましたね」


「うーん、じゃあ、ランチとか行って仲良くしてみなよ!」

「それはいいかもしれないですね」

「こうして、冴えない新入社員と一個上の可愛い先輩のオフィス・ラブが始まるのであった……!」

「いや、絶対始まらないです! 私が好きなのはもっと、頼りがいのある感じの人です! あとは優しくて……」

 

 最初は真面目な相談だったのに、いつの間にか脱線しまくって恋バナになっていた。ただ、最初は曇りがちだった凛の表情に笑顔が戻っていたので、これでよかったのかもしれない。

 さすがは先輩モード(?)である。

 

 僕と鳥栖は何も言わずに、すごい勢いで繰り広げられる会話に相槌を打つだけのマシーンとなり、この卓にもう一体の赤べこが誕生した。

 酒が回ってきて顔に赤みがさしている鳥栖は、本当に赤べこを体現しているのかのようだ。

 

 女性のコイバナが始まったのなら、男に介入の余地は無いのである。

 

 二人が話に花を咲かせるなか、鳥栖が僕にも職場での後輩の話を振ってきたので、愛桜のことを思い浮かべながら最近のエピソードを伝える。

 

「僕の後輩は、倉庫で資料整理を頼まれてなかなか帰ってこないから見に行ったら、キラキラした目で全然関係ない資料を漁って読みこんでた」

「うわー、いいねその子。掃除してて漫画見つけて、全然作業進まないタイプじゃん」

「そうそう。基本的には優秀な後輩なんだけどな。ちょっと抜けてるところはある」

「え、俺そういう子好きだわ。今度紹介してよ」

 

 どうやら、凛と会話している愛桜にも聞こえていたのか、机の下で思いっきり足を踏まれた。

 なお、冗談で紹介を承諾しようとしたところ、愛桜が表情を変えずに踵でグリグリしてきたので、断っておいた。


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[2024/12/8更新]

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