消えない後悔

悠真

 教育大学に通っていた僕は、三回生の秋に教育実習に行くことになっていた。

 大学付属の小学校へ丸一か月、毎日通い続け、見習いの立場で実際に子どもを前にして授業の実践を積む場である。


 実習に参加する学生は、受け持つクラスごとに班が編成された。

 僕の班は、四年生のとあるクラスだったが、五人体制だった。

 僕の他、男子学生はソウタの一人で、あとはキヨコ、ユミ、イズミの女子学生三人だった。


 僕らを監督する指導教員は、そのクラスの担任である、ハヤミという、見た目30代半ばといったワイシャツ姿もジャージ姿も様になる若々しい男性教師だった。


 自分の班員への伝達事項の連絡が主な仕事となる班長には、僕が選ばれた。

 ソウタが班長をやる気がないと見て取ったハヤミが、消去法的に僕を指名したというのが実情だが、情報が直接手に入るポジションは、タイムラグがなく正確なニュアンスをつかみやすいので、僕は僕で元から指名されたら受ける気ではいた。


 実習で四年生を担当することになったいきさつは、多分に初恋の相手、チハルのことがあったせいだが、僕が自分の小学生時代の中では一番楽しく過ごせた時期だったので、そういう年頃の子どもと過ごしたい一心で志望し、それがかなった結果だった。

 それで俄然、僕は意気込んだ。


 実習生の僕らは全員で全教科を受け持つこととなったが、当然一時間の授業で教壇に立つのは一人である。

 他の四人は、教室の一番後ろに控え、ハヤミは黒板横の担任教師用のデスクで授業の進行を黙って眺めていた。


 実習生はそれぞれ、大学での専攻で精通している教科があったため、自分の専攻が生かせるケースもあったが、その点、国語科専攻の僕と後は社会科専攻のソウタとイズミは授業の組み立て等は有利だったかもしれない。

 

 キヨコは障がい児教育専攻、ユミは五年生以降なら役立ったかもしれない家庭科専攻だったが、それでも全員が一通り全教科の教材研究の大学講義を受けた上で参加していた。

 

 僕はさらに大学では、国語科の中に位置づけられた書道を集中的に学んでいたため、書写の授業は当然僕が担当した。

 日中はそのように授業を進め、夕方、子どもたちが帰ったあとの教室でハヤミを囲んで授業の振り返りと指導を受けた。

 そしてハヤミが職員室へ戻ると、外が暗く肌寒くなるまで皆で時折雑談も交えながら、翌日の授業の準備をしていた。



 

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