第34話 ネクロマンサー5




だが私の決意とは裏腹に私の体の方は言う事を聞いてくれない。こんな時に限って病は私から自由を奪うようだ。



「グッ…… こ、こんな時に…… 」


足に力が入らずその場に崩れ落ちる私を彼女達が咄嗟に支える。常に私の状態を伺っていた彼女達だから反応出来たのだ。



「マスター!」


「ニャ〜〜!!」


「マスター! しっかりして……」


「マスター! 」


彼女達から悲痛な叫び声が上がる。



「…… だ、大丈夫だ…… わ、私は……」


立ち上がろうとするが足に力が入らない。どうやらこの体は、私の予想以上に病に侵されている様だ。



「大丈夫じゃないですよ!」


「そうニャ、マスターはじっとしてるニャン!」


「後の事は私達に任せてマスターは安静にしていてください!」


「私達が上手く収めて来ます」


彼女達はスーザンとレイラ、マーロとイルザの2組に分かれて行動するという。


治療術が使えるハーフエルフのイルザは、私と共に町に赴いた際に助けた町人達から、聖女と呼ばれ親しまれていた事もあり適任と言えよう。


マーロは4人の中で最も社交性に優れている。


4人の中で社交的なマーロとイルザが領主側との話し合いに赴き、スーザンとレイラの2人が私の看病と護衛としてここに残る。


私の指示ではなく、彼女達が決めた事だ。



「…… 無理はするな、何か有ったらとにかく逃げて…… くれ……」


領主側は信用出来ない、かと言ってチャンスでもあるこの機会を何とか活かしたい。



「大丈夫、私達なら100の兵に囲まれたって平気よ」


「必ずマスターに朗報をお持ち帰りします」


そして彼女達は小屋を発って行った。この土壇場で動けない自分に腹が立つ、どうかあの2人が無事であって欲しい。



だがそんな私の願いは脆くも崩れ去るのだった。



彼女達が発った後、スーザンとレイラに抱えられたまま私はベッドに横になる。


どれくらい経っただろう、何とか体調も落ち着いて来たので私は、ある能力を使うため極限にまで集中を研ぎ澄ました。


今から使う能力は、離れている死人形と感覚を繋げる事が出来る"心通信''という能力だ。


目を閉じると話し合いにの場に向かったマーロとイルザとの繋がりを強める。


こうする事でどんなに離れて居ても彼女達の状況が感覚として私に伝わって来るのだ。それと共に彼女達の視界を通したビジョンを見る事も出来る。


この能力には極限の集中が必要で、今の私の状態では2人の内の1人と視界を繋ぐ事しか出来ない。その時間も10分程が限界だ。


私が視界を通したのは4人の中で1番に判断力と行動力に長けたイルザ。彼女ならベストな判断をしてくれると分かっているからだ。



「…… (どうやら彼女達と領主側との話し合いが始まった様だが…… いや、こ、これは……)



彼女達の視界を通して見えるビジョンそれは、ズラリと彼女達を取り囲む様に立ち並ぶ兵士達の姿と、その先に居る兵士長と思われる男性が何かを話す姿。


聴覚は繋がって居ないので何を話しているのかは分からない。だが彼女達の感情が大きく揺らいでいる事だけは伝わる感覚で分かった。


辺りに伯爵だと思われる人物の姿は見られない事から、まともに話し合いをするつもりが無い様に見える。



やはり私達を誘き寄せる為の罠だったのだ。何と間抜けな話か、私は死地に彼女達を送り出してしまったのだ。



「…… マーロ、イルザ! その場から逃げるんだ!!」


私が半身を起こし叫び声を上げるのと同時に、彼女達に向けて何かの魔法が放たれたのが見えた。


それと共に隣に居たマーロを庇う様に動き、自らが盾となってその魔法を受けるイルザのビジョンが見える。


その映像を最後に彼女達との繋がりが途切てしまう。



「グッ!……た、助けに行かないと…… マーロ、イ、イルザ…… 」


立ち上がろうとするが体は言う事を聞いてくれない。それでも無理に立ち上がろうとする私を強引にスーザンが止める。



「ダメ、マスターは行かせない!」


「は、放すんだ!」


「ダメ!」


スーザンからは絶対に私を行かせないとの強い意思が伝わって来る。


そんな私とスーザンのやり取りを見て居た獣人族のレイラが、意を決した様に立ち上がる。



「ウチがマーロ達を助けに行くニャ! ウチに任せるニャン!」


基本マイペースな獣人族は自ら判断をする事をしない、だが今の彼女は違った。仲間を、家族を助けに行くと自らで決めたのだ。


そんなレイラにスーザンがお願いとばかりに強く頷く。


そして私の見張りをスーザンに任せると、もの凄い勢いでレイラは駆けて行ってしまったのだ。



「グッ、れ、レイラ! は、離すんだスーザン!」


「ダメ! 絶対に離さない。マスターは私達が守るの!」


凄まじい力で押さえ付けられて身動き一つも出来ない。生前の彼女もそうだったが、スーザンには酷く頑固な所がある。


こうなればもう私にはどうする事も出来ない……



「…… 行かない、行かないから、スーザン少し力を緩めてくれ……」


「いい、私達に任せて、私達を信用して。マスターはここで待っていて!」


「……ああ分かったよ。私はここに居るよ」


何よりも私の身の安全を第一に考える彼女達"死人形"。今は彼女達のその思いに従うとしよう。


気が気では無いが、今の私に出来るのは彼女達を信じて待つそれだけだなのだから。



それから暫く後に彼女達は戻って来た。


帰って来た3人は共に満身創痍だった。

私は動かない体に鞭を打ち、何とか彼女達に治療を施していく。



だがイルザの傷だけは私でも打つ手がなかった。


マーロを庇った事で光魔法をまともに受けてしまったイルザの体は、右半身が酷い火傷を負った状態だ。


そして彼女の体はチリチリと末端から崩壊を始めている。


光魔法を浴びた事で体を構成していた闇とのバランスが崩れ、細胞を維持する事が出来なくなってしまったのだ。


何とか私が居る小屋まで戻りそこで力尽きた様子。


私は彼女の体を何とか繋ぎ止めようと闇のエナジーを流し続ける。だが彼女の体が元に戻る事はなかった。



イルザの体は保ってあと1分、その後は徐々にチリとなり崩れ去るが定め。唯一の救いは彼女達が痛みを感じないという事か。



「…… すいません……マスター…… わ、私…… 失敗して… しまい……ました………」


こんな時にまで彼女は私を思い、私の役に立てなかった事を悔いているのだ。



「な、何を言うイルザ。お前の献身、イルザのおかげでマーロは助かったのだ。だから……」


「…… よ、良かった…… マーロを…… 家族を……助ける事が…出来て………」


私達の中で1番に家族思いだったイルザ。最後まで彼女は家族を思い、献身的に助けられた事を喜んでいる。



「イルザ…… 」


「ダメニャ……死んじゃダメニャン…… 」


「…… イルザごめんなさい、私のせいで…… 」


私が握る彼女の手がチリとなって崩れ落ちていく……



「…… み、皆んな…… マ、マスターを……お願……い………」


そして最後まで家族思いだったイルザは、笑顔のままにチリとなって消滅してしまった。

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