第15話 招き猫




そして始まった親睦会。


買い置きして置いた1.5リットルのジュース類とオードブルプレートは、ニャトランに食われて全滅だった。


なので実家の方の冷蔵庫から冷凍唐揚げとポテチ、先程と同じで悪いが麦茶を用意して持って行く。


両親は僕を残して2人で海外主張中だ。それに両親が普段暮らしているマンションは都会にある。


この家はお祖父ちゃんが住んで居た家で、学校に通うにもコチラの方が近いのだ。


だからこの家には実質僕だけしか居ない。家でも無愛想な僕が、女の子を2人も招いたと知れば驚く事は必至だろう。



「最終のバスが夜の9時だから、それに間に合う様に切り上げなくちゃ」


今日は親睦会だ。何とか国分さんと親睦を深めて、例のモノを手に入れるための布石を置く。


正直言ってニャトランには期待していない。

短い付き合いだがあの猫の猫となりは分かったつもりだ。


まああの猫が相手では、国分さん達が愛想を尽かし帰ると言い出すのも時間の問題だろう。


だから最悪でも、アドレスの交換が出来る程度には彼女とお近付きに成りたい。


内気な僕に出来るか分からないけど、ホムンクルス創世のために頑張らなくてはならない。



「…… 待たせたね、また麦茶だけど良かったら飲んで」


そんな感じで僕が地下室に入ると、そこにはトランプで盛り上がる国分さん達の姿があった。


トランプには勿論ニャトランも加わっており、ババ抜きで盛り上がっている。



「二…… 分……」


「本当にニャトランは分かりやすいね。そんな事じゃ、ババは引いて貰えないよ」


どうも単純な猫頭のニャトランには騙し合いの精神は皆無らしく、ババを思いっきり意識してしまい丸わかりなのだ。



「ニャ!……また、最下位ニャン………」


「弱……」


「大丈夫、大丈夫よニャトラン。今度やるゲームは簡単な記憶ゲームだから」


ガクリとばかりに項垂れるニャトラン。そんなこんなで今度は、誰でも出来る真剣衰弱をする事に。


僕は魔術書の術式のせいで記憶力は洒落にならないレベルだ。その説明も面倒なので、見学だけで参加はしない。



だが所詮は猫頭なニャトラン、まるで覚える事が出来ずにまたまた最下位になってしまう。



「がっくしニャン……」


がっくしと項垂れるニャトランだが、周りの皆は彼が開いて当てたカードに驚愕している。


「だけどニャトラン5ペアも取ってるじゃない、それも……」


「凄……」


僕は傍から見ていただけだが、適当に開いていたのに当てている様に見えた。


そんな彼が開いたカードは、エースのペア2枚とキングのペア2枚、そしてジョーカーのペアという、有り得ない確率のカードの組み合わせだったのだ。


神経衰弱にカードの強い弱いは関係無いが、それでもである。



「ニャトラン、その5枚のペアの場所は覚えて当てたのか?」


「偶然ですニャ、適当に開いたら当たってたんですニャン……」


前から思っていたが、このニャンコは運が強い。


村から追い出されて飢えで限界な時に、ゴブリンに追われる形で食べるのに困らないコチラの世界にやって来た。


その際にも彼の身代わりにゴブリンが生贄になっている。強運と凶運の好バランス、禍が福に転じて福となす。


お祖父ちゃんから聞いた話しでは、異世界人は何らかのスキルと呼ばれる力を持って居ると云う。

 

このニャンコもひょっとしたら、何か強運系のスキルを持っているのかも知れない。



「なあニャトラン、何かスキルの様なモノ持ってたりする?」


「えっ、なになに? ニャトランはスキルなんて持ってるの?」


流石は大の異世界好きの国分さん、スキルという言葉に速攻で反応した。



「スキルですかニャン?」


ニャンコが顎に人差し指を当て、上を見上げ唸っている。何とも可愛らしぐさだが、彼だと滑稽に見えるのは何故だろう……



「確か『good luck on your end』(貴方の行く末に幸運あれ)』という、意味の分からないスキルですニャ」


この猫やっぱり持っていやがった。それも『good luck on your end』(貴方の行く末に幸運あれ)』なんて凄そうな物を。


実はこのスキル、彼は知らないが持ち主が望む通りの未来が訪れるというとんでもないスキルだったのだ。


そのためもしニャトランが世界制服を望めば、このスキルは凶運を絡めてその願いを叶えてくれるだろう。



惜しむらくはニャトランの願いが、『食う事に困らずのんびり暮らせる』だという事か……


お腹いっぱいにご飯を食べられて、好きなだけ寝る事が出来る。それだけで彼は充分満足なのだ。まるで欲の無い猫頭の彼にそんな望みを抱く考えは無い。


そんな彼のスキルは、何故かは分からないがコチラの世界の英語で表記されていた。そのため向こうの世界では、翻訳も出来ず役立たずのスキルと思われていたのだ。


そう、実際にニャトランは小さな頃からこのスキルに助けられてきた。


先ず幼少期に魔法が使えない彼を、奴隷として売ろうとした両親が魔物に食われて死んだ。


その際に彼の父親が偶然にも村長を守り、幸運にも村で面倒を見てもらえる事になる。


生活費は優等生の妹が稼いでくれるため、彼は食っちゃ寝の気楽な生活を送れた。


村を追い出された際も、実はあの村は近々魔物のスタンピートに巻き込まれて滅びる運命にあったのだ。


彼の妹のニャーレンだけは彼の後を追って村を出たため奇跡的に助かるが、他の村人は全滅してしまう。


その後の彼の経緯は語るまでも無い。


一見凶運に見えて強運の持ち主、それがニャトランで、彼の持つスキルの力なのだ。


て言うかニャトランが居た世界の神様は、間違いなく元はコチラの世界の人間だろう。


それもかなりの猫好きな……



「ニャトラン凄い! そんなスキルを持っているなんて」


「凄……!…… 」


いつも沈着冷静な三池さんもニャトランのスキルには驚きを隠せない。


「そ、そうですかニャン? 吾輩は凄いんですかニャン!?」


褒められた途端に有頂天になるニャトラン。という事で早速彼の凶運度をトランプで試してみる事になった。


先ず運の要素が左右する大貧民をやってみたところ、一番強い2のカードが3枚、エースが2枚、その他が全て絵札という強運ぷり。だが、ルールを理解出来ずに最後まで2を残して自爆……


ならば次はポーカーだとカードを配れば、スリーカードやフルハウスは当たり前。ロイヤルストレートフラッシュなんて初めて見た。


運が左右するカードゲームでは惜しみなくその凶運を発揮するのだが、いかんせん猫頭なニャトラン。


ルールを覚えるまではその強運も活かせない。


だが、これがもしカジノのルーレットやスロットだったなら、彼は一晩で億万長者に成れるだろう。


麻雀で天和で九蓮宝燈も夢じゃ無さそうだが、危ないのでやらせない。それ以前に彼の頭では複雑ルールの麻雀は不可能だろう。



「ニャトラン凄〜い!」


「猫……能……!(猫の隠された能力!)


ただの堕落した猫ではなく、凶運持ちの招き猫だったニャトラン。



「こ、コレが吾輩の隠された能力ニャ!? (この能力が有れば一生食べるのに困らないニャン!)


だが悲しいかな、彼にこのスキルを活かすだけの頭脳は無い。神はニャトランに2物を与えなかったのだ……


そんなこんなでニャトランの実験も終わり、時計を見れば8時半になる所、もう彼女達が帰る時間だ。


ニャトランは未だに自身のスキルの高揚感に浸っており、天を仰ぎながら何々が食べたい、何々に包まれて眠りたいとブツブツ呟いている。



「…… もうこんな時間、バスの停留所まで送って行くよ」


「そうだね、そろそろ帰ろうか」


「帰……」


国分さんはまだニャトランに未練がありそうだが、帰り支度を始めた彼女達。僕もアドレスを聞きたいがそのタイミングが掴めない。



「ああそうだ薬師寺君、もっとニャトランの実験をしたいからまたここに来てもいいかな?」


突然の国分さんからの申し出、三池さんは眉を寄せて彼女を見ているが、ここはチャンスかも知れない。



「え、ああ、勿論いいよ。そ、それじゃあ連絡が取りやすい様にアドレスの交換をしよう」


流れに乗っていい感じに言えた。


三池さんがテメェといった感じで睨んで来る。物凄く怖いがそんな事は知った事ではない、後は彼女の返事を待つだけだ。



「ああ、じゃあ交換しようか」


三池さんが渋い顔をしているが、後は携帯でピピである。



「じゃあ都合がいい時にでも連絡ちょうだい」


「ああ分かったよ」


コレでホムンクルス創りに向けて前進である。

三池さんの突き刺す様な視線が痛い。だが何度でも言うが、アドレスさえ分かればコチラの物である。


そして彼女達を送るため、僕達が地下室の外に出るための重厚な扉を開けたその時だった。


僕の見知った人物達が地下室に飛び込んで来たのだ。

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