死霊組成

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第1話 マスターメナス

死霊組成1 地下室の怪



僕の名前は薬師寺清司(ヤクシジセイジ)、今年高校に入学したばかりの冴えないモブ男だ。見た目も普通のそこら辺にいるモブと変わらない容姿。


成績も中の中とまさにモブの中のモブ、キングオブモブだ。


趣味はない。幼少の頃から学校以外での時間はある事に取られている。それが趣味とも言えるが、どうなんだろう?


それはお祖父ちゃんが残した魔導書『死霊組成』を使った様々な実験だ。


そう僕は魔導書『死霊組成』の所有者なのだ。



お祖父ちゃんから魔導書の話しを聞いた時は少なからず戸惑いもあったが、最近では暇な時は常にこの魔導書を読んで過ごしている。


今では趣味の領域を超えて、生業といっても過言ではない程に僕の一部とかしているのだ。


実際に現存する材料で作る事の出来る薬品や魔道具を、お祖父ちゃんの知り合いに買ってもらって小遣いを稼いでいる。



実験はもっぱらお祖父ちゃんが作った秘密の地下室で行っているため、他の者に見つかる心配はない。


それにこの地下は、防音、対衝撃などの処理が施されており、対魔法の防壁まである。


魔法なんて本当にあったんだね。



地下室へ続く扉もアダマン何とかという異世界製の金属を使用しており、軍で使うレベルの物を遥かに凌駕する物なのだ。


核シェルターと大して変わらない性能。

お祖父ちゃんは、この地下室以外では実験するなとも言っていた。



『ここなら余程の事がない限り外に迷惑はかかるまい。思う存分に楽しんでおくれ』


資産家でもあったお祖父ちゃん、死ぬ前に僕にこの地下室を残してくれたのだ。


たった1人の孫の僕にはとにかく優しくしてくれたお祖父ちゃん。



お祖父ちゃんから譲られた魔導書『死霊組成』は、またの名を"オスクリタ.ネグロモント"といい、かつてはかのネクロノミコンと双璧を成したと言われている魔導書だ。


何でもこの魔導書は、紀元前3000頃にどこかの世界に存在したという国アキロン、その王族が記したとされている品物。


眉唾物の話しだが、何故かその魔導書が代々我が家に伝わっている。嘘か誠か、異世界人が僕の薬師寺家の祖だとお祖父ちゃんが言っていたが……



この魔導書はすでに、お祖父ちゃんによって翻訳と改訳がされており、僕にも分かりやすい様にコミカルな絵柄の補助も付いている。


お祖父ちゃんは昔に漫画家だった過去もあってか、古典的な絵だが躍動感ある絵柄の補助には大満足。


そして1冊の魔導書を全9巻に分ける。それは魔導書の強力過ぎる力を分散させて、拙い僕にでも扱える様にしてくれたのだ。


そのサイズもコンパクトになり、かつカモフラージュの役割もこなしている。


何でも魔導書が放つ波動を表紙の七芒星が抑えているため、持ち主以外ではその内容を認識する事は出来ないとの事。


本来の原本はあまりの禍々しさに、耐性の無い人間は見ただけであの世行きか、脳を破壊されて記憶を失う。


それをこんな形の本に変えてしまうお祖父ちゃんの力量は、とてもじゃ無いが計り知れない。初心者の僕にでも扱える様にしてくれたのだ。



この魔導書、一見では漫画にしか見えないため、通学中や学校内でも読む事が出来る優れ物だ。


1〜2巻は用語の解説と魔導書の世界観の説明。いわゆる入門編というやつだ。この魔導書の創成神話は一見の価値あり。



3〜4巻は様々な薬品や魔道具と魔導武具の作成指南と使用法方。


様々な薬品や魔道具や魔導武具の効果と材料の入手手段、作り方まで書かれており、この2冊はかなりのページ数なため覚えるのには苦労をした。


魔導具は攻撃的な物から防御、補助とかなりの数に及び、それらの扱い方や作り方が載っている。


攻撃系だと周囲の魔力を一点に集めて解き放つ魔導砲なる物から、自動で敵を迎撃する7つの球体を操る魔導具がある。


"プリズム.レイ''と"セプテム.アイ''と呼ばれるこの2つの魔導具は、お祖父ちゃんが残してくれた物の中にも有る。


攻撃系の魔導具は攻撃力があり過ぎるため防御系の魔導具より取り扱いが難しく、その殆どの魔導具の作り方が封印されている。


その封印を解く方法は今のところは分からない。待っている攻撃系魔導具も、封印されているのか現時点では扱う事は出来ない。



その点扱い易い防御系だと、相手の悪意を察知して知らせてくれる魔導具や、悪意を跳ね返すカウンター系の魔導具なんかもある。


認識阻害や透明化などの効果がある魔道具も有り、素材はお祖父ちゃんが集めたストックがある。そして魔導具の性能もなかなかに役立ちそうな物ばかりだ。


魔導武具は狙った対象を追尾する槍や、自動で敵を攻撃する刀などがある。因みに今のところは魔導武具も封印されているため作る事は出来ない……



魔導具の作り方も、本来なら錬金術を極めた者で無ければ作れない品物。


だけどお祖父ちゃんが僕でも作れる様に、錬金術が組み込まれた術式をプログラミングし直してくれてある。そのため僕にでもそれらの魔道具を作る事が出来るのだ。


高度の魔導具作りに何より必要な物は錬成、精錬された高レベルの素材。それらの素材作りが1番の肝なのだ。


超重力によって集積された未知の金属を、3千度から1万度の超高温で加工しなくてはならない素材も有る。


今は低レベルの物しか作れないが、これから制作数をこなして段階を踏んでレベルアップしていけば良い。


素材さえあれば後は魔導書による強化と付与付けをするだけでいい。今はまだその段階の章を読んでいないため出来ないが、焦る事もないので気長にやって行くつもりだ。



コレ等の魔道具は魔導書から分かれた分霊の様なもので、魔道具を扱う事は魔導書を扱うに等しい事でもある。


ちなみに魔道具は他の者でも使う事が出来る。その場合でも魔導書の力を使った事に成るだしく、魔導書の生贄の要求が強まるデメリットもある。


流石は僕のお祖父ちゃん。感謝を込めて今度、大好きだった日本酒をお供えしよう。



5〜6巻は召喚陣の描き方と、召喚に必要な素材の説明、小型生物限定の召喚方法と退陣方法、様々な効果の術式などが記されている。


この2冊で召喚術の基礎を学ぶのだ。元に僕は、数匹の小型生物の召喚に成功している。


中には小型とはいえ危険な生物もいるだしい。だが隔離された地下室で実験を行い、退陣の呪文も同時に覚えるため今の所は問題ない。


術式には聴力や視力などの五感を上げる効果のあるものや、対象に低級の淫魔をくっ付けたり出来る嫌がらせのものも有り、なかなかに面白い。



7〜8巻は中型〜大型の生物の召喚、アイテムボックス習得の術式、暗記力向上の術式、高速思考の術式、ホムンクルスの作成、退陣呪文やそれらに必要な魔道具の説明が記されている。


この7巻と8巻には後に必須となる技術が載っているため、習得には時間をかけろとお祖父ちゃんも言っていた。


特に便利なのはアイテムボックス。異空間に物をしまう事が出来る大変便利な品物だ。


作った魔道具や素材も、あらかた貴重な物からこの中に納めて管理している。このアイテムボックスは持ち主の魔力量によって容量が決まる。


僕に魔力が有るのかは分からないが、扱えるという事は僕の中にもそんな不思議な力が有るという事。


お祖父ちゃん曰く、「地球人と異世界人では感覚が違う為、魔力が有ってもその存在に気付けない。


現に未だに僕は魔力が何たるかを理解出来ていない。お祖父ちゃんもそうだったと聞いているので、そうゆう物と納得するしかなさそうだ。



それと暗記力向上の術式はもっと早くに習得したかった……


まあ一巻から順番通りに読まなくては内容を理解出来ないため仕方ないのだが。


それに僕のためにお祖父ちゃんが、段階を追って覚えていける様にしてくれたのだと思う。魔導書の能力にあまり頼り過ぎるなという事だ。



そして最後の第9巻には生者、死者、生者の組成。生まれ変わった生者、死者の制御、消滅。異世界へ続くゲートの開き方、渡り方、戻り方のゲート三原則。


異空間から超位の存在を呼び出す術式。壊れた魂を再生、修復する方法。一度に3つの考え事が出来る様になる『並列思考』の術式。魔導書言語、異世界言語の翻訳能力などが記されている。


この第9巻が魔導書『死霊組成』のクライマックスにして、この魔導書の真髄が書かれた最重要な一冊だ。


そしてこの9巻だけは魔導書それ自体が『死霊組成』など様々な術式の土台となっているため、他の者には見ることすら出来ない。


この9巻が9冊ある魔導書の本体と言っても過言では無い。



異世界への行き方なんて危険な香りがプンプンするし、生者、死者の組成と消滅なんてとてもヤバそうだ。


魂の再生、修復なんて、そうそう使う機会は無いだろう。


それでもお祖父ちゃん曰くこの魔導書の原本には、異次元の亜空間に漂う太古の神々などを呼び出す禁断の秘術も記されているという話だ。


だがそれらの秘術、行為はあまりにも危険な行為のため、記載はせずに魔導書の原本は異空間に厳重に封印されているという。



過ぎた力は身を滅ぼす、持たぬが吉という事だ。

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