馬鹿は死んでも治らず。故に中二病も治らず。~転生して自分の目指した格好良さを手に入れます~

饕餮

第1話 転生と反逆そして夢への羽搏き

人類は皆中二病である。

ばい。

僕。


だって、格好良いものは好きになるだろう?

これ一つだけでQEDだ。


だから僕が大人になっても中二病であることは必然である。

だって、全人類中二病なのだから。


だから、今ここで死にたくない。

まだ、僕は格好良い存在に成れていないから。


あのアニメのような格好良い人物に。

遥か遠くまで語られる格好良い人物に。

自分が思い描く理想の格好良い人物に。


血が流れている。

腹のあたりからどくどくと。

とっても赤い。


どうやったらここから助かるだろうか。


人気のない路地裏。

帰り道をショートカットしただけなのに。

それだけで不運が訪れる。


まぁ、仕方ないか。

誰かが殺人を犯す時、犠牲が必ず生じる。

だって殺人なのだから。


今の今までニュースで殺人事件を何度も見て来た。

その度に何度も人間が死んでいる。


偶々偶然仕方なく死んでしまう。

あぁ、嫌だ。

こんな汚く、みっともないまま、死んでしまう。


美しくも、格好良くも無い。


格好良くないな。

格好良くないまま終わってしまうな。


最後に何かできないだろうか。


テキトーに血で魔法陣を書いてみるのはどうだろうか。

世界で唯一の変死体。

あぁ、格好良いじゃないか。


朦朧とする意識の中テキトーに血でなぞっていく。

書き込むたびに何かを失う感覚がある。


とても小さな魔法陣が完成した。


「Memento Mori」


いや違う。

最後に言うべき言葉じゃない。


最後に言うべきなのは、


「Carpe diem……………」


死の気配が僕を襲う。

段々感覚が衰え、痛みさえ無くなって。

最後に聞こえたのはパトカーの甲高いサイレン……ではない。


ただ、心地良い鐘の音だった。

ごーん、ごーん、と頭の中に何度も鳴り響いた


α)


眼が醒めたら。

そこが全く知らない場所で、

全く知らない人間がいる。


僕はどういう反応をすればよいだろう。

……現実逃避一択だ。


そもそも僕はもう死んでいるのだから。

夢みたいなものだろう。


死んだ後に見れる夢。

ちょっとおかしいが、無いことは証明できない。


生者と死者は互いに交わることなどできないのだから。


だから僕は眺めることにした。


一人一人の動きを見るだけ。

肺に空気を送り込むだけ。

眼の乾燥を防ぐだけ。


白衣を着た人間たちが僕の周りを動いている。


僕はベッドの上で寝かされていて、体を動かすことはできない。

唯一首だけを左右に動かせる。

だから自分の姿を見ることができない。


「あー」


声が出た。

それはとても自分の声とは思えない、可愛らしい声だった。

夢の中では女か。


女で格好良いものとはなんだろう?

やっぱり、悪の女性幹部だろうか。

謎に格好良い。


癖が出た。

単語から格好良いものを連想する思考力活性化ゲーム。


もし、この世界が醒めない世界だったら。

現実だったら。

そんな人生を歩んでもいいかもしれない。


まぁ、そんなはずないか。

夢は夢。

現実に縛られた中二病。


やっぱり世の中厳しいな。


「声が出たか。

ついに知性が宿ったのか。

……実験的には宿らないはずだが。

何か偶然でも起こったのか?

この空間には……………」


ぶつぶつ何かを語る科学者。


「つまり偶然が起きる環境ではない。

では何故?」


今気づいたがここは一続きの空間ではない。

私の周りはガラスで覆われている。

完全な密閉だ。


なのに、私は死んでいない。

夢だなぁ。

夢っていいなぁ。


そういえばガラス越しなのに結構聞こえるな。

この耳を使えば、諜報とかできるかもしれない。

遠くから情報だけを聞き取る機関のエージェント。


夢があるなぁ。


「お前が特別ということか?

一回目の検査でそれらしきデータは取れていないが。

もう一度検査をしてみるか」


β)


時間の感覚が狂った。

狂ってしまうほど私はここに囚われている。


夢にしては長いな。

長すぎて飽きてきた。

退屈だぁ。


怠惰。

字面だけで格好良い。

普段は怠惰でやる時はやるのも格好良い。


全てが格好良い。


だが、今の環境は格好良いのだろうか。

ただ寝ているだけ。

何も食べていないのに、息を吸っていないのに。

何故か生き続けている。


はぁー、死ぬのってこんなに長かったんだ。


「退屈だ」


もし、これが夢じゃなかったら。

もし、永遠に眼醒めなかったら。

もし、これが現実だとしたら。


格好良さを目指してもいいのなら。


「これ壊れないかな」


この世界で格好良い存在に成りたい。

心の底からそう思える。


そう決断をすると、不思議なことに体の束縛が解けた。

それだけでなく、私を覆っていたガラスが割れた。


私の周りには格好良いオーラが漂っていた。

黒くまるで翼のよう。

漆黒の堕天使っぽい。


「なにこれ?」


サイレンが鳴り響く。

周りにいた白衣の人間たちが驚きの目で私を見つめ、

我先に部屋から逃げている。


今思ったけれど、反逆する実験体って格好良いな。


「No.369が暴走した!!

至急戦闘部隊に連絡せよ!!!!

馬鹿なあの結界が溶けたというのか!?」


白衣の男が無線で応援を呼んでいる。


「シッッ、ッ失敗だッッ!!!

わ、わ、私の研究がガガガガガ。

アァァアアアアアアアアアッァァァアアアア!!!!

鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ、鎮まれ」


男の気が狂っている。


うん。

失敗した男が悪い。


「ばん!!」


右手を銃の形にして、右手からオーラを放つ。

男は悲鳴を上げることも無く、死んでいった。


命を奪ってしまった。

でも、一回死んだ者からすれば次があるの

だから気にしないで済む。


「夢を夢のままにしておくのは勿体ないよね」


何で僕に力が目覚めたのか。

そんなことはどうでもいい。


ここが醒めない夢なら、理想を歩むまで。


ようやく決心がついた。

死んでいても、理想は追い求めても良いのだ。


前世、実験体、少女、反逆。


「格好良いなぁああぁぁぁああ!?」


喜びのあまり、つい叫んでしまった。

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馬鹿は死んでも治らず。故に中二病も治らず。~転生して自分の目指した格好良さを手に入れます~ 饕餮 @naruhodotumari

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