懲罰人事で離島に飛ばされた新人錬金術師ですが、便利な魔道具作ってのんびり開拓(スローライフ)していこうと思います
森田季節
0 学年最優秀なのに連行される
「続いて、今回の試験で最優秀の成績を収めたフレイア・コービッジさんに抱負を語っていただきます」
学園長が私の名前を指名したので、私は生徒の方々の間を縫うように堂々と歩き、演壇に向かう。学園朝礼の時間は私のハレの舞台だ。
最高学年で最優秀の成績!
つまり私こそが王立錬金術学院における最高の生徒ということ!
ここは全校生徒の模範になるような素晴らしいスピーチをしなければならないな。
「皆さん、私たちはもうすぐ長い学院での生活を終えて、各地の錬金術の工房へと羽ばたくことになります。そこで実際に働くことの厳しさも学び、さらに錬金術師として飛躍していくわけです」
壇の横に控えているミスティール教授をちらっと見た。
教授はこの国には珍しい、長い黒髪が印象的な大物女性錬金術師だ。
教授は「うんうん、ここまでは悪くないぞ」という顔で腕組みしていた。
よし、この怖い指導教官に怒られないということは、もはや何も怖くないことだ。
「では、ここで皆さんに問いたいと思います。錬金術師になる目的とは何でしょうか?」
私はゆっくりと同級生たちの頭に視線を送ってから続けた。
「それは――安定した生活を送るためです!」
断固とした調子で私は言った。
少しばかり同級生たちがざわめいた。
失敬な。ほかにどんな理由があるだろうか?
「私は物心ついた時には親も親戚もない立場でした。将来が不安どころの騒ぎではありません。ですが、錬金術に興味を持ち、幼い頃から施設の近くにあった工房に出入りしたおかげで才能を開花させ、無事にこの王立錬金術学院に入学することもできました! あとは成績順に場所を決められる就職先の工房選びで、最も立地条件のいい工房を指名して、徹底して安定した生活を送るだけです!」
ああ! これまでの苦労の日々が走馬灯のように駆け巡る!
「人間が突如として食事不要になることがありえないように、錬金術が突如として人々の生活に不要になることはありえません。皆さんも場所は違えど工房に就職して、安定した生活を送ってください! 人生にトラブルは不要ですから! 毎日三度のおいしい食事と追加のおやつ、ほどほどの労働に、できればお昼寝、それで人生は幸せに満たされ――うぅっ! 教授、襟元を引っ張らないでください! 首が、首がっ!」
「こっち来い! 強制退場だ!」
スピーチの途中でミスティール教授に引きずられた。
首が締まって、本当に走馬灯が見えそうだ。それは困る……。
「そ、そんな……。まともで夢のある演説だったはずなのに……」
「わかった、わかった。言いたいことは教官室で聞くからな! そこまでおとなしくしていろ!」
「それって犯罪者を連行する時の言葉ですよね? 私は犯罪者じゃないですよ! ねえ、聞いてくださいってば!」
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