少女の夢
夢をみる。小学生の頃の夢。
お母さんと繋いでいた手が人にぶつかって離れる。お母さんを探す私、そしてお母さんが私を呼ぶ声。
だけど小さな私に人混みに抗う力は無く、ただ流されるだけになった。
「君?迷子かな?」
お母さんを呼びながら泣く私に女の人が声をかけてくれる。そうだ。この人とそのお子さんが私を助けてくれたんだった。
「迷子センターに行こうか?放送をかけてくれるから。きっとご両親も見つかるよ?」
「お母さん…。」
「そっか。お母さんと来たんだ。君の名前は?」
「しず…。お母さんは片山静恵(かたやましずえ)…です。」
この時、何故かよく友達に呼ばれるニックネームを教えちゃってたんだっけ。優しく頭を撫でられる。
「私は…だよ。息子もいるの。一緒に来てくれる?大丈夫。私の息子はとても優しい男なのよ?」
名前が思い出せない。大事な思い出だったのに。なんで忘れちゃったんだろう。
この時から男の子は嫌いだった。
意地悪をされるし、悪口も言われる。ジロジロと見てくるし、乱暴な子もいる。
でも彼は違った。真っ直ぐに目を見て微笑んでくれた。どの男の子とも比べられないレベルの大人びた子だった。でもハッキリと顔を思い出せない。
男の子に手を引かれて歩く。
彼は色々なことをお話ししてくれた。
不安な私を笑わせる為に面白かった小説の話、漫画の話、アニメの話、家族の事、最近あった嬉しかったこと。ずっとお話ししてくれた。
その間もずっと私の手を優しく握って、目を見て話してくれた。
彼がいたから私は寂しくなかった。
でもお母さんが来て彼の手が離れる。別れ際に泣きながら私は彼に叫ぶ。
「名前!私はしず!」
「僕は…。」
彼を少し間を開けて首を振った。
「縁があればきっとまた会うよ。その時は自己紹介をするから。」
そう言って寂しそうに笑って手を振った。
夢の中で手を伸ばす。君の名前が知りたい。
私は貴方みたいに人に優しくしたいの。
好きな人が君みたいに誰かに手を伸ばすから、私もしてあげたい!変わりたいの!
夢が白くなっていく。せめて…貴方の顔を…!
目を開ける。涙が流れている。
あぁ…。わからない。思い出せない。大事な思い出だったのに…。
でも、そうだ。彼は私のヒーローだった。
彼みたいになりたかったのに私には出来なかった。異性を嫌い、突き放した。
困ってる人にも声をかけるのが怖くなった。
善意に善意が返ってくるとは限らない。
悪意が返ってくることもある。
それを知って、そして諦めてしまったんだ。
腕の中の男の子を見る。彼は智己くんによく似ている。それは見た目の話じゃない。在り方が似ているんだ。優しくて、暖かい。
そして何より他人への愛に満ちている。
智己くんを抱きしめる。
(私ももう一度頑張るよ。彼のように、そして智己くんのようになりたいんだ。そして智己くんを笑顔にしたいんだ。そして彼に会えたら言うよ。私も君のようになれたよって。好きな人ができたよって。)
そう考えながら、私はもう一度目を閉じた。
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