二人で擦り合わせ
ガチャっと扉が開く。そこには着替えた静香が立っていた。白いワンピースは彼女によく似合っている。
先ほどの件があったからこそ、俺は彼女としっかり話すと決める。気まずいが千紗のアドバイスが俺の背中を押す。
「今日も綺麗だね。ちょっと話さないかい?」
「有難うございます。私も貴方とちゃんと話したい。」
そう言って横に座る。
「私からでいいですか?」
「あぁ。聞かせてほしい。」
静香の手が少し震えている。優しく包み込むと目を見て微笑んだ。
「私は男性が嫌いです。無遠慮な目線も嫌い。街中で話しかけてくる人も嫌い。何より体を不快な目で見られるのが嫌いです。私がスタイルを維持してるのは可愛い服を着るためで、オシャレが好きだからです。だからそんな目で見られるためじゃない。でも貴方は最初から私の目を見て話してくれました。私は見られることが多かったので目線には敏感です。だから嬉しかった。それからずっと貴方を見てきました。誰にでも優しく、亜美ちゃんを大事にしていて、暖かく綺麗な瞳で私の目を見てくれる。そんな事は初めてでした。」
静香は一気に話して少し黙る。途中で遮るのは失礼なので俺の話は挟まずに待つ。
「貴方と話すと心臓が煩くて、中々上手く話せませんでした。今だって緊張しています。最初亜美ちゃんと話していたのも下心からでした。でも毎日お話しして、私は亜美ちゃんの事が大好きになりました。そのお話の中で貴方のことも沢山聞きました。素敵なところを沢山。気付いたら貴方のことが好きになっていたんです。でも異性を好きになったのが初めてで、失敗してしまいました。たぶん私は焦っていたんです。」
静香が俯く。頭を撫でるとまた口を開く。
「今直ぐに答えが欲しいわけではないんです。だけど答えが出るまでは私だけを見て欲しい。嫉妬深くて、面倒な女です。でももっと私を知ってほしい。勿論嫌なところは治します。亜美ちゃんが一番でもいい。だから私にチャンスをくれませんか?」
その真っ直ぐな瞳を見つめ返す。
「うん。俺も今直ぐは結論を出せない。俺はまだ君をよく知らないからね。俺は亜美が一番大事で、成人するまでは特定の誰かを一番にはしてあげられない。基本は女性が苦手で、異性の友達は君と千紗しかいない。だから君にも色々アドバイスを貰いたいと思っている。もし付き合って別れたら君と疎遠になって亜美も悲しむ。君とは亜美の為に仲良くしたいと思ってたんだ。だから君とは付き合えない…とさっきまでは思ってた。」
そう。さっきまでは。千紗のアドバイスと真剣な静香の表情で、考えは変わっている。
「俺の事を好きだと言ってくれる君をただ利用しているのは心苦しい。君の事を真剣に考えるよ。もっと君の事を知る努力をする。亜美の為じゃなく俺の為に。だから友達以上恋人未満という関係じゃダメかな。もっと君の事を俺に教えて欲しい。俺も君に俺のことを教えたい。」
俺の言葉に彼女が涙を流しながらこくこくと頷く。
「よし、じゃあ勘違いをまず正そう。勘違いさせたままでは進めないからね。俺はちゃんと君に欲情している。君の嫌いな他の男達と変わらない。君の匂いも体の柔らかさも最高だと思っている。軽蔑するかい?」
静香は首を振る。
「私は智己くんだから触ってもらいたいと思ってます。触れたいとも思ってる。もっと私を見て欲しい。可愛いって思って欲しいです。私は貴方に匂いをつけたいと思ってます。嫌ですか?」
マーキングの事かな?それは別に構わない。
「好きなだけつけてくれればいいよ。仮にデートをするとなれば、亜美を連れて行くことになる。それでもいいかい?」
せめてもう少し大きくなるまでは一人で留守番もさせたくない。
「勿論です。たまに亜美ちゃんと二人で出かけたいのですが、いいですか?昔から妹が欲しくて行きたいところもあるんです。」
男がいては入り辛いところもあるよね。こちらとしても助かる提案だ。
「うん。ぜひ頼みたい。俺がいない方がいい時だってあると思う。学校から帰ったら亜美の事を少し見ていて欲しい。買い物の間とか。」
今までは一人で留守番をして貰っていた。荷物が増えれば歩くのは辛い。
自転車の二人乗りは危ないし、時間になった時のリスクもでかい。一人なら怪我をするのは自分だけだから連れて行くことはなかった。
「わかりました。夜は二人の時間を作って欲しいです。お互いの事を話す時間が欲しいです。あっ、勿論勉強の邪魔はしません。」
「わかった。ただ経営学の勉強をしてるんだ。その時間も1時間は欲しい。」
「理解しています。昨日私も少し読みました。それを私にも一緒に勉強させてほしい。将来的に貴方を支えたいんです。」
見られてたのか。枕元に放り投げていたから当然か。
「嬉しいよ。部屋にたくさん本がある。基本のやつから貸すよ。」
「ありがとうございます。はしたないと思われたくないのですが、もっと私に触れて欲しいです。エッチな意味じゃなく顔とか頭とか…。後ろから抱きしめられたりとか…。心がポカポカと暖かくなるんです。ダメですか?」
それくらいならまぁ許容範囲か?
「わかったよ。亜美と今後もお風呂に入ってほしい。一人だとやっぱりまだ心配なんだ。」
前までは母さんが一緒に入っていた。
正直この辺の匙加減が男の俺ではわからない。
「勿論です。亜美ちゃんに嫌がられるまで続けますね。最後に添い寝を許してほしい。昨日みたいに抱きしめて寝かせて欲しい。」
昨日のは少しだけラインを超えている気がする。でも二人っきりになれる時間は少ない。
手を出さなければ問題はない。
「そう、だな。でも俺も俺もちゃんと男だから多少は自衛してくれると…助かる。」
「わかりました…。気を付けます。」
何だろうこの表情。何か勘違いされてる気がする。
「嫌じゃないんだ。だけど理性がね。付き合うまでは程ほどの距離感をね。」
「わかりました。腕に抱き着くぐらいはいいですか?」
「うん。いいよ。」
静香が距離を詰めて腕に抱き着いてくる。柔らかい感触はするが、まぁこれくらいなら何も問題はない。
「もしかして千紗と俺の話聞いてた?」
静香がこくりと頷く。
「そっか。どこから聞いてた?」
あの二人に関するプライベートな部分の話は聞こえていない方がいいだろうと一応確認する。
「私との事を千紗に相談している所を聞いてました。」
あぁ良かった。生々しい話は聞かれてないわ。
「それで話に来てくれたんだ。ありがとう。でも盗み聞きはあまり感心しないから気を付けてね?」
怒られたと思ったのか静香がしゅんとしてしまう。慌ててその頭を撫でる。
すると直ぐにすりすりと擦り寄ってくる。本当に懐いた時の猫みたいな子だ。あざと可愛い。
二人に関しては説明が難しい。許してる俺もおかしい自覚がある。まぁいいか。わざわざ口に出して説明するのも憚られる。
朝の悩みはとりあえず消えた。長らく話したいたので少し疲れてしまい、それは静香も同じようで口を開かない。
(意外と気まずくないな。会話を探さなくていいのは楽かも。)
そんな事を考えながら、そのまま静香と二人でのんびりすることにするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます