人助けをしていたら隣の部屋に住む同級生に懐かれたらしい

@Ka-NaDe

両親の死と父の親友

高校入学までの春休み。

同じ職場で共働きをしている両親から遅くなると連絡があった。頻度は多くないがたまにあることなので別に気にせず晩御飯を作る。

「亜美ー、何食いたいー?」

「ハンバーグ!」

パタパタと走ってきたのは歳の離れた小学2年生の妹である佐藤亜美だ。

「手伝うー!」

「亜美はいいこだな!」

撫でてやるとえへへーと笑った。

うん。可愛い。今日も天使である。

妹と一緒にハンバーグの種を作る。

パン粉は事前に牛乳に浸しておく。こうする事で焼き上がりが柔らかくなる。

その間に玉ねぎを炒める。

玉ねぎを炒めたらボールに入れて一度氷水で冷やしておく。事前にわかっていれば今朝のうちにやっていたんだが、熱い玉ねぎを入れるのは捏ねる時に危険だから必須である。

暫く妹の宿題を見てやって、パン粉を確認すると丁度いい感じになっていた。

ナツメグ、塩胡椒、卵、隠し味に味噌とマヨネーズ。そして玉ねぎと肉を入れて捏ねる。

妹もとても楽しそうだ。これはきっといい嫁さんになる。変な男にはやらんけど。

フライパンでハンバーグを焼いて皿に移す。

肉汁の残ったフライパンに水、ケチャップ、バター、ソースを入れて煮詰める。

簡易的だが子供の食べやすいソースだ。

別のフライパンで焼いていた目玉焼きを乗せてソースをかける。

サラダは適当に冷蔵庫から出す。

『いただきます!』

声が揃って端を伸ばす。

「美味しい!にーに天才だね!」

天使に褒められて顔が綻ぶ。

「亜美が手伝ってくれたからさ。ありがとうな。」

頭を撫でてやるとえへへと笑う。この時はこんな日々がずっと続くと思っていた。

その日の夜。父さんと母さんが死ぬまでは。

居眠り運転のトラックに突っ込まれて即死だった。親戚もおらず、助けてくれる大人はいない。

両親は俺たちのことを思って貯金をしてくれていた。保険金も入ったし、お金に困ることはない。施設に入ることを考えたがやめた。

妹と楽しく過ごせるだけの金はある。

高校を卒業してすぐに働けば妹を大学に行かせる事も可能だろう。

家族だけで行こなった葬式の時、妹は泣いていた。施設なんかに行って辛い思いなどさせられない。妹は必ず守る。

そう思っていたらチャイムが鳴った。

時刻は22時。こんな時間に人が訪ねてくることはない。不安になりながら玄関に向かう。

扉を開けると父さんの親友である藤原涼介(ふじわらりょうすけ)さんがいた。

家に招き入れてリビングへと案内する。

「久しぶりだね。智己(ともき)くん。」

「お久しぶりです。」

「あぁ…なんだ。この度は…いや。違うな。親友との約束を果たしに来たよ。」

「約束?」

涼介さんが頷く。

「自分たちに何かあったら手助けしてくれとね。後見人みたいなものさ。何か大人の力が必要な時は頼って欲しい。」

「そっか。助けてくれる大人はいないと思ってた。ほら、ウチは親戚とかいないし。」

「アイツもそれを心配していたよ。亜美ちゃんに聞かせる話でもないし…こんな時間に尋ねて申し訳ないね。」

おじさんは申し訳なさそうに頭を掻く。

「それならアパートに引っ越したいんだ。ここは広すぎるし、管理も大変だ。」

「そうか。だが売るのは勿体無い。貸家にするのはどうかな。定期的にお金も入るしね。優しい君が心配しているのは今後の亜美ちゃんの進路だろう?当然君だって大学に行った方がいい。そこでだ。」

おじさんが一枚の紙を出す。

そこには0がたくさん並んだ小切手があった。

「進学費用だ。受け取ってくれ。」

「どうしてここまで…。」

俺が言うとおじさんが苦笑する。

「おじさんは今は社長なんだけど、過去には色々とあってね。君のお父さんには本当に助けてもらったんだ。返せないほどの恩がある。ただ残念なことに海外を飛び回っているので、出せるのがお金しかないんだ。勿論、君達に何かあれば急いで日本に戻るけどね。君にはこれを渡す代わりに一つ約束をして欲しい。」

「約束?」

どんな事を言われるのかと身構える。

「あぁ。困っている人がいたら助けなさい。それは必ず君の元へと返ってくる。小さな手助けでいいんだ。その小さな手助けは、困ってる人からすれば大きな事だからね。君のお父さんとお母さんのようになりなさい。隣人を愛し、隣人のために行動できる人間になりなさい。」

その言葉を聞いて涙が溢れる。

「父…さん。母…さん!」

父さんと母さんは善人だった。

困ってる人を見かけたら手を差し伸べる。そんな人だった。

その一つがこうして俺達に幸運を運んでいる。

俺は涙をとめずに泣き続けた。

それは二人が亡くなって初めての涙だった。

妹の前で弱い自分を見せたくなくて、隠し通した涙だった。

ひとしきり泣いて俺はその紙を受け取った。

「約束します。二人のような大人になります。」

「うん。僕がいれるのは3日だけだ。明日から色々と進めようか。」

「はい。よろしくお願い致します。」

頭を下げる。おじさんは僕の頭を優しく撫でてくれた。


「ここはセキュリティーも万全で、日当たりも良くて新築です。どうですか?」

案内されたのはとてもいい部屋だった。

アクセスも良く買い物もしやすい。

「どうかな智己くん、亜美ちゃん。」

「すごーい!」

亜美がパタパタと走っていってしまう。

「こ、こら!亜美!」

「大丈夫ですよ。亜美ちゃんは私が見ておきますね。」

そう言って不動産のお姉さんが行ってしまった。頭を下げてお願いする。

「いい部屋ですが、高いのでは?」

「僕は日本にいないからね。せめて安全なとこに住んでもらいたい。お金は気にしないでくれ。余ってるんだ。」

そう言っておじさんが苦笑いする。

おじさんの気持ちはありがたく受け取りたい。

「じゃあ…。よろしくお願いします。」

「うん。おじさんのわがままを聞いてくれてありがとう。」

「いや、本当に申し訳ないです。」

「いやいや、こちらこそ。」

二人で頭を下げあっていたら戻ってきた二人に不思議そうな顔をされて苦笑した。

契約を終わらせて荷造りに3日。

その間に貸家周りもおじさんが手配してくれて、俺達はおじさんを空港に見送りに行った。

「じゃあ二人仲良くね。何かあれば直ぐに連絡。必ずだよ?」

「はい。」

「またね!おじちゃん!」

亜美が手を振るとおじさんは笑顔で去っていった。彼がいなければ不安で押しつぶされていただろう。

俺達はタクシーで家に帰って、我が家で過ごす最後の1日を二人で過ごした。


「亜美!準備できたか!?」 

「出来たよー!」

家を出ると同時に隣のドアが開く。

そこには長い黒髪の綺麗な女の子がいた。目が澄んでいて、いい人だと直ぐにわかった。制服を見る限り同じ学校のようだ。

それはともかくお隣さんとは不仲になりたくない。

「おはようございます。」

「おはよう!お姉ちゃん!」

「はい。おはようございます。」

頭を下げてエレベーターへ向かう。勿論同じエレベーターを使うわけだが、会話は特になかった。初対面だし当然だ。

俺は亜美の手を引いて、小学校の近くまで送っていくので彼女とは逆方向だ。

お互い玄関で頭を下げて別れた。

「綺麗なお姉さんだったね!」

「そうだな。でも綺麗すぎて話しづらいよ。」

「あははは!お兄ちゃんは女の子苦手だもんね!」

苦笑して歩く。そして学校近くの交差点まで来て妹を見送った。

急いで戻って学校へと向かう。高校の近くの部屋でよかったと走っていると重そうな荷物を持ってゆっくり歩いているお婆さんを見かけて声をかける。

「手伝いましょうか?」

「いいのかい?でも学校に遅れちゃうんじゃないかい?」

「いいんです。学校よりも大事なことがあるので。」

笑顔で手を差し出す。お婆さんは申し訳なさそうにしていたが偽善でもいい。

きっと父さん、母さんならこうするから。

勿論初日から遅刻した。言い訳は一切しなかったが、俺がやっていたことを見ていた生徒がいたらしくお咎めはなかった。というか逆に株を上げることになった。

やはりいいことをすると返ってくるらしい。

こうして俺の高校生活は始まった。

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