第五話「追撃者から逃げて」

突然、正門の方から足音が聞こえてきた。瑠奈は顔を上げ、動きを止めた。黒髪の少女と茶髪の少女が、中庭の埃っぽい光景には不釣り合いな黒いスーツを着て近づいてきた。二人とも彼女より少し年上に見えるが、一人は十五歳くらい、もう一人はせいぜい十七歳くらいだった。彼女たちの顔は険しく、決然としていた。二人とも白いフェドラ帽をかぶっており、それに鋭いスーツが合わさることで、何か不穏な権威を漂わせていた。年上の少女は腰のホルスターに手を置き、瑠奈の目をまっすぐに見つめた。


「隠して」と、黒髪の少女の声は低く、冷静だが鋭い緊張感が含んで言った。瑠奈は一瞬、耳を疑った。


「今すぐ」左の少女はもう一度繰り返し、今度はさらに力強く言った。彼女は手を銃に伸ばし、瑠奈の額に向けてまっすぐに突きつけた。「隠さないなら撃つから」


瑠奈の心臓が激しく鼓動した。なぜなのか、何が起こっているのかを問いただしたかったが、額に押し付けられた冷たい金属の感触が、今は質問の余地がないことを告げていた。彼女は両手を上げ、すぐにうなずいた。「ついてきて」声が震えながら、彼女はささやいた。


二人は彼女について中庭を抜け、庭園を通り、屋敷の裏手にある倉庫へと向かった。年上の少女は銃を瑠奈に向けたまま、引き金にかけた指が危険なほど近かった。「早くして」若い方が神経質に周囲を見渡しながらせかした。「やつらが来るわ」


瑠奈は急ぎ足で進みながら、頭の中で疑問が渦巻いた。彼女たちは誰なのか?なぜ追われているのか?そして、なぜこの屋敷に来たのか?彼らは倉庫にたどり着いた。そこはかつて穀物や道具を保管していた大きな古びた建物だった。瑠奈は震える指で鍵をいじりながら、扉を開けた。中は暗く、埃っぽく、古びた木箱や何年も触られていない道具が山積みになっていた。


「入って」年上の少女が銃で指し示しながら命じた。瑠奈は一瞬ためらったが、すぐに倉庫の中に入った。少女たちも続き、扉を閉めた。彼らは古い木箱の後ろに身をかがめ、息を潜めた。しばらくの間、重苦しい沈黙が続いた。瑠奈の心臓の鼓動だけがその静寂を破っていた。やがて、かすかに足音が聞こえてきた。それは外からのものだった。重く、ゆっくりとした足音。低い声も聞こえたが、それは瑠奈には理解できない言葉だった。少女たちは体を硬直させ、まるでバネのように準備が整っていた。瑠奈は胸が締め付けられる思いで、外にいる者たちが日本語でも、彼女の知っているどの言語でも話していないことに気づいた。その声はどこか喉から絞り出されたような、異質な響きがあった。彼らは息を殺し、足音が大きくなり、次第に小さくなり、やがて消えるまで、じっと待っていた。


「行かなきゃ」年上の少女が急いで立ち上がり、瑠奈に従うように促した。「裏口から。今すぐ」


瑠奈は何も言わずに従った。彼女たちとともに倉庫の裏口から外へ出ると、まだまだ夕暮れが広がっていた。その瞬間、薄日が差す中、奇妙な声が再び聞こえてきた。中庭の反対側から聞こえてきた。


「あそこだ!」左の少女がフェンス近くに停められた二台のバイクを指差した。彼女は瑠奈に向かって目を見開いて叫んだ。「運転して!」


瑠奈の胃がひっくり返るような感覚がした。「わ、私は……運転なんて……」


「運転しろ!」少女は叫び、銃を瑠奈の胸に向けたまま震える手で指差した。


言い争う時間はなかった。瑠奈の頭は一瞬で過去に飛び、父親がバイクの運転を教えてくれた日々が思い出された。何年も乗っていなかったが、基本的な操作は同じはずだ。彼女は近くのバイクに駆け寄り、震える手でイグニッションをいじった。エンジンが轟音を立てて動き出し、少女たちは後ろに乗り込んだ。年上の少女はまだ銃を握りしめていた。


「行け!」二人は声を合わせて叫んだ。瑠奈はハンドルを握りしめ、心臓が激しく鼓動する中、アクセルをひねった。バイクは急発進し、彼女たちは砂埃を巻き上げながら疾走した。風が彼女の白髪をなびかせ、エンジンの轟音に少女たちの叫びがかき消された。


バイクのハンドルを握る瑠奈の指は震えていた。エンジンは唸りを上げ、彼女の背骨を振動させ、体の芯まで揺さぶった。彼女がスロットルをひねると、バイクは猛烈な勢いで前進し、タイヤはその下の緩い土を引き裂いた。彼女の心臓は胸の中で鼓動を打ち鳴らし、その鼓動はエンジンの重たい音や周囲の轟音と同期していた。風が髪をなびかせながら、瑠奈の心は回転した。黒髪の少女と、青白い肌と鋭い目をした少女が、彼女をこのような状況に追い込んだのだ。考える暇も、質問する余地もない。彼女たちはどこからともなく影のように現れ、自分が申し込んだわけでもないゲームに彼女を押し込んだのだ。彼女の足元でバイクが急発進し、タイヤが砂利道に激突した。躊躇している暇はなかった。背後からエンジン音が大きくなってきた。瑠奈は一瞬だけ肩越しに目をやった。


黒い車。もう一台。二台の車は、滑らかで不気味な影を引き連れ、彼女の後を正確に追ってきた。ヘッドライトが薄明かりを切り裂き、まるで遠くから獲物を狙う捕食者の目のように光る。追跡が始まったのだ。振り切らなければ、と彼女は必死に考えた。頭の中に、父から教わった教訓がよぎる。何年にもわたる厳しい訓練で磨かれた技術。速さだけが鍵ではない。そうではなく、予測できない動きをし、世界のリズムをどう崩すかを理解することだった。できる、私はやれる。目の前の道は次第に曲がりくねり、瑠奈はハンドルを握り締め、カーブに身を委ねた。スロットルをさらに押し込み、エンジンがうなり声を上げるのを感じた。バイクはコーナーで自然とドリフトしやすいが、彼女の父はその動きを予め予測し、制御する術を教えてくれた。風が体を押し返してくるが、彼女の手は安定しており、目は鋭く、周囲を見逃さない。


もう一度後ろを確認すると、すでにわかっていたことが明らかになった。車はさらに近づいてきていた。冷たく、統率された動きで追い詰めてくる。音一つ立てず、不気味に滑らかなエンジン音が彼女の背筋を凍らせる。黒い車は、効率的な機械のように彼女を追い詰めてきていた。しかし、彼女はもっと速かった。瑠奈は急に左へ切り込み、大きな穴を間一髪で避けた。バイクの後輪が一瞬横滑りし、今にも彼女を振り落としそうになったが、すぐに体勢を立て直した。本能が働いたのだ。彼女はただ逃げているのではなかった。追わせているのだ。再びスロットルを押し込み、バイクは前方へと猛スピードで突進した。先に見える狭い田舎道は二手に分かれていた。一つは森の奥深くへと続き、木々が密集し、重々しい影を落としていた。もう一つはネオ東京の外縁へと向かう開けた道。リスクは高すぎ、あまりにも開けすぎていて無防備だった。しかし、木々の中では逃げ場がない。彼女は決断した。

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