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みゅうの目指しているアイドルはひらひらのカラフルで派手な衣装を着て歌って踊るようなアイドルではなかった。(そんなアイドルも素敵だと思うけど、そうじゃなかった)みゅうの目指しているアイドルは本格的な歌とダンスでファンを魅了するようなアイドルだった。だからこそ、自分の実力のなさをみゅうは気にしていた。努力をしても、なかなか結果もでなかった。みゅうが評価されるのはいつもいつも顔だけだった。(顔だけならいつもみゅうは百点だった)
あんずの歌はみゅうの空想する、みゅうの思い描く理想のアイドルの歌だった。(その歌声はまるで女神ディーヴァのようだと思った。強くて、繊細で、個性があって、そして粗削りだった。美しくて、素晴らしかった。そしてなりもりも女性的だった)私もこんな歌が歌いたかった。あんずの歌を聞いて、みゅうはそう思ってしまった。隣に立っている同い年の十三歳の、今日はいってきたばかりの後輩の練習生の歌に、その声に、みゅうは憧れてしまったのだ。……、すごく悔しかった。だから、感情を隠すことがへたなみゅうはいつのまにか、そこで立ったままで泣いてしまった。(自分が泣いていることに、最初は全然気が付かなかった。ばかみたいにそこにつったっていた)みゅうは自分の顔を見て、驚いた顔をしたあんずの顔をみて、ようやくはっとして我に返って、レッスン場にある壁一面の鏡を見た。するとそこに映ってくる自分の顔は泣いていた。それは間違いなく、どこからどう見ても、負け犬の顔だった。
「……、あの」ととても個性のある強い声であんずは言った。
そのあんずの声を聞いた瞬間、まるで逃げ出すようにして、(実際に逃げ出したんだけど)みゅうは思わずレッスン場から走って飛び出してしまった。みゅうのうしろでばたん! とレッスン場のドアが閉まった。みゅうは走る。音のない世界の中でばたばたとみゅうの走る音だけが(真っ暗闇の中で)聞こえている。レッスン場のドアは開かない。誰も逃げ出したみゅうのことを追いかけてはくれなかった。
その日から、みゅうはアイドル養成学校にいけなくなってお休みした。それは学校に入学してからずっと優等生としてずっと頑張ってきたみゅうのはじめてのお休みだった。
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