第36話 俺の最終地点

「な、なにが、どうなって」


  ルンは俺の動きを見て呆然としている。


 ルンの目は驚きと戸惑いで大きく見開かれ、まるで目の前に現れた異次元の生物でも見ているかのようだ。


 まあ、この世界じゃ第三級剣技は普通に英雄級レベルなのだろうが、俺からしてみると、こんな剣技は誰でも使える。


 薄々気づいてはいたんだが、どうやら前世のゲームの世界と、この世界では、俺の知っている常識は英雄級レベルなのかもしれないな。


「さてルン、角も入手できたし、ユキ達を探しにいくぞ」

 

「う、うん」


 俺の言葉に、ルンは急に現実に引き戻されたように頷く。


 ルンの表情には、緊張感と期待が交錯していた。


 まるで、旅の目的地が目の前に迫ってきたような高揚感だ。


 俺は剣をアイテムボックスに戻し、ルンを連れてユキ達を探すために足を進めていく。


 足元の地面は荒れ果てていて、所々に生えている草もひどく弱々しい。


 周囲には、魔物たちの息づかいや、遠くで響く獣の咆哮が耳に届く。


 だが、そんなことには気を取られない。


 俺たちには、仲間を見つけ出すという大切な任務があるのだ。


 すると、ルンが俺に向けて口を開いた。


 「アレンって何者なの~? どう考えても、普通じゃないでしょ」


 その問いかけには、単なる好奇心だけでなく、ルン自身の不安や期待が色濃く表れていた。


 俺の存在が、ルン達にとってどれほどの意味を持つのか、そう考えると少し胸が痛む。


「さあな、俺も自分自身がよくわかっていない」


  俺は一体何のためにこの世界に転生してしまったのか、未だに分かっていない。


 運命に翻弄されているような気がする。


 しかも、原作通りのシナリオではなく、完全に新しいシナリオが俺の前に次々と現れている。


 一体なぜ、俺は前世のアイテムが引き継がれているのか分からない。


(まあ、おそらくこの世界には天使や魔王がいるはずだから、そいつらを倒すのが俺の目的なのだろうか)

 

 ふと、俺の頭にそんな考えがよぎる。


 今のところ、俺は最終地点を少々失いつつある。


 具体的なビジョンが見えないまま、ただ流れに任せて、国内の情報を収集し、進んでいるだけだ。


(この世界には俺以外の転生者はいないのだろうか。もしいるなら、話してみたいな)

 

 もし転生者がいるのなら、彼らと共に情報を交換したり、助け合ったりできるかもしれない。


 冒険の仲間はもちろん重要だが、同じような境遇の者と話すことで得られる安心感は、何物にも代えがたい。


 この大陸は非常に広い。


 だから他国にもしかしたらこの世界に来たプレイヤー、転生者がいるかもしれない。


 そういう情報が欲しいのもあり、俺は各王国の情報を集めていかないといけない。


 まずはフィオガルラ王国の問題を知っていかないとな。


 そんな事を考えながら歩いていると、人影が現れる。


 今回は魔物じゃなく、人間のようだ。


「ユキか?」

 

 俺が声をかけると、影はこちらを振り返る。


 だが、その顔に俺たちは見覚えがなかった。


 一つ分かる事とすれば、片手にゴウの剣を持っていた。


 おそらく、俺たちが探していた人間ではない。


 周囲の静けさが一瞬崩れ、心の奥底に潜む不安がざわめく。


―――



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