第39話 リベンジ

 人通りの多い駅前の広場。

 のぞは早足で待ち合わせ場所へと向かった。少しだけ時間に遅れたことを気にしながらも、ワクワクとドキドキで胸は高鳴っていた。今日こそは、二人きりのデートだ。

 しかし――

 リュウが立っている。その隣には、たまきがいた。


「……は?」


 のぞに気づいたたまきは明るい声で手を振る。


「のぞ、遅いよ〜!」


 ニコニコと笑っているたまき。のぞはそのテンションに合わせる気にはなれなかった。

 表情を曇らせながら、のぞはリュウに声をひそめて尋ねた。


「たまきのこと……呼んだの?」


 リュウは首を傾げる。


「え? 俺じゃないよ。和希ちゃんでしょ?」

「呼んでない。呼んでない」


 のぞは思わず手を振って否定した。


「二人とも早く〜!」


 たまきはそう言いながら、リュウの車の助手席に滑り込んでいた。

 のぞは一瞬だけ立ち尽くしたが、無言のまま後部座席のドアを開けて乗り込んだ。

 閉めたドアの音が、ほんの少し乱暴になる。

 視線は真っすぐ窓の外へ。唇をきゅっと結んだまま、言葉を飲み込んだ。


(……なんで当然みたいな顔して来てんの?)


 運転席にリュウが座ると、助手席のたまきは、元気よく声を張り上げる。


「レッツゴー!」


 はしゃぐようなその声に、のぞの眉がぴくりと動く。

 そのテンションの高さが、のぞにはますます癇に障った。



 川面は、やわらかな秋の陽射しを受けて細かく光っていた。

 岸辺に沿って、さらさらと水が流れていく。遠くでは鳥の声が断続的に聞こえ、時おり風が木の葉を揺らす。

 たまき、のぞ、リュウの3人は、そこで釣りをしていた。


「またかぁー……」


 たまきが釣竿を上げると、針には何も掛かっていなかった。餌だけが見事に消えている。唇をとがらせながらも、どこか楽しげだ。


 その声を少し離れた場所で聞きながら、のぞとリュウは並んで釣り糸を垂らしていた。

 リュウが小さく呼びかける。


「和希ちゃん」

「ん?」


 のぞが顔を向けると、リュウは耳元で何かを囁いた。のぞの表情がわずかに揺れる。


「でも……」

「大丈夫、大丈夫。一人でも帰れるでしょ、あの子」


 リュウは軽く笑った。その言い方にのぞもつられて笑う。


「だね」


 のぞは、たまきの方へ声を掛けた。


「たまき! ちょっと飲み物買ってくるね!」

「え、あ、うん! わかったー!」


 たまきは後ろを振り返って手を振る。釣り糸を気にしながら、気軽に答えた。


 のぞとリュウはまるで共犯者みたいにそそくさと釣竿を持って、その場を離れていく。


 

 リュウの車の助手席に乗り込んだのぞは、シートベルトを締めながら、自然と笑みが溢れていた。


(ざまぁ)


 リュウはエンジンをかけ、のぞに微笑む。


「じゃ、行こっか」

「うん!」


 やっとリュウと二人きりになれて、のぞの心は踊っていた。



 一方、川辺では――。


「うーん……また取られたかも?」


 たまきがもう一度竿を引き上げる。やはり、餌は消えていた。


「おっかしいなぁ……」


 ひとりごとをつぶやきながら、無邪気に川面を覗き込んでいた。



 のぞとリュウは、途中でドライブインに立ち寄り、食事を楽しんでから帰路についた。

 のぞのアパートの前にリュウの車が停まった頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


「今日、楽しかった」


 のぞは素直に言葉をこぼす。


「過去形?」


 リュウの思いがけない返しに、のぞは一瞬、言葉を失う。


「……え?」


 リュウは真剣な目でのぞを見た。


「俺はもう少し和希ちゃんと一緒にいたいなって」

「それって……」


 のぞは胸の奥がじわりと熱くなる。鼓動が早まっているのが自分でもわかる。


「ダメ?」


 のぞは返す言葉が見つけられないまま、リュウの瞳を見つめた。



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