第32話 ユキ・ヒイラギの視点
わらわは今、愛しのコキュートスを失ったことへの悲しみなど忘れ、驚愕に震えている。
何と哀れで滑稽なことか。
閉じていた視界が開けた瞬間、目の前には砕け散るコキュートスの姿があった。そして目の前にはユーラシア・スレイロットの姿。
奴が倒した?
そんなわけがなかろう。ユーラシア・スレイロットの魔力量はたかが知れている。正しく弱者代表に相応しき男よ。
それならば、ミラエラの仕業か?
いや、それも違う。
どうやらこの白銀色の景色が、わらわの隔絶空間を破った証拠らしいが、コキュートスが砕け散る際にはまだあの女の力は感じなかった。
そもそも、魔力の反応自体がなかったようにも思える。
まさか・・・・・本当に勘違いではないと言うのか⁉︎
考えてみればおかしなことだらけよ。
ユーラシア・スレイロット。奴は補欠として学園に入学しながらも、僅か数日の内に学園のトップクラスへと昇格して見せた。
剣聖らの娘や、校長、四天王でさえ奴を贔屓する始末。
そして何よりも気にかかるのは、ミラエラ・リンカートンの家族であるという点。どうやら実の家族ではないようだが、あの女と関わりがある段階で気づくべきであったわ。
今までは表面的な力だけに捉われすぎてユーラシア・スレイロットという人物像を見誤っていたようだ。
確かめよう。
奴はまだ幼き子。これから幾千もの成長する選択肢が用意されておる。
もしも、わらわたちでは手のつけようがなくなるほどの真の脅威となる存在であるならば、そうなる前に始末してしまおう。
しかし慎重に行動しなければならない。
わらわの存在がミラエラに知られてしまった今、下手な手出しは神による侵攻を早める事態になりかねない。
『断罪の雨』から約十年。わらわの力が完全に回復するまで後少しの辛抱だと言うのに、ここでヘマするわけにはいかないのじゃ。
けれど、わらわは覚悟しよう。
真の力を見せぬ段階で、見事わらわにミラエラ以上の真の脅威だと思わせられたならば、その時は躊躇わず其方の命をもらうとしよう。
例えそれが、意図しない侵攻の合図になろうともだ。
そしてミラエラ・リンカートン。
其方も脅威ではあるが、全てが終わった後に美味しくいただくわらわのメインディッシュじゃ。
その時が、わらわの愛しきペットを二度も葬った罪に対する復讐となり、其方の最後となるであろう。
わらわは、今からその時の情景を鮮明に脳内に思い描き、胸の高鳴りからくる回避不可避の満面の笑みを頭上に佇む奴へと向ける。
そして目が合い、聞こえる奴の口から懐かしき我が名を呼ぶ声。
「思い出したわよ。ユキ・ヒイラギ・・・・・貴方のこと———」
「ようやく、思い出してくれたようだな」
コキュートスの死は、無駄ではなかったと言うことか。
わらわは歓喜で涙腺が緩みつつも、頭上のミラエラから視線を外すような真似はしない。
「それでは遊びは終わりとしよう——————人類よ、神々の侵攻の時は、すぐそこまで迫っておるぞ」
わらわは、小さく呟く声で真実を語るのだった。
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