竜魔伝説
融合
序章
序章
魔力樹。
それは、魔力を持つ者ならば誰しもが持っているその者の魔力量を示す樹であり、生命柱でもある。
個人によって樹々の大きさ、種類は多種多様に存在しており、魔力を宿す者たちは、己の樹が実らせる魔法の果実によって様々な魔法を習得することができるのだ。
十年前、緑豊かな広大な土地に、一本の巨大な大樹が誕生した。
魔力樹は、その者の成長とともに日々成長していくのだが、誕生したばかりでここまで大きい魔力樹は初代勇者以来であった。その大きさは、誕生したばかりと言えどあらゆる樹々の高さを超え、初代勇者の生まれ変わりではないのかと騒ぎ立てられた。
そして、魔力樹は樹自体が含有する魔力の大きさによって周囲の環境を豊かにしていくものでもあるため、当然この巨大な魔力樹を起点として大国ができていくのだが、それはまだ先の話。
巨大な魔力樹を持つ少年は、一見ごく普通の夫婦の間に生まれた一人息子。名を、『ユーラシア・スレイロット』。
古の存在である伝説上の存在「竜」が放つ炎を表すかのような真っ赤な髪をしており、透き通るような緑色の瞳をした少年。
つい五百年くらい前までは魔族と人間とが戦争していた時代であったが、魔王を討ち取ったことで今の時代に生きる人間たちは、神と呼ぶ存在と敵対する世の中となっている。
いや、敵対とは少し語弊がある言い方だったかもしれない。
神による一方的な蹂躙。それが今の世の中を表す適切な言葉だろう。
しかし人類はただ蹂躙されているわけではない。かつて魔王を倒すために勇者となる力を人類へと与えてくれた神々だったが、人類は今、明確に人類に仇なす神々を敵であると認識している。
そのため、『ゴッドスレイヤー』と呼ばれる者たちが誕生し、二百年ほど前からその存在が各地で次々と確認され始めていた。
そしてユーラシアの両親もゴッドスレイヤーと呼ばれる存在であった。
ゴッドスレイヤーと言っても、未だ人類に神を倒せた実績はないが、しかしそれでも未曾有の危機はゴッドスレイヤーたちのおかげで食い止められていた。
それ故に人類は錯覚していたのかもしれない。ゴッドスレイヤーたちのおかげで平穏な日々が保たれていたということを。どんな危険なことが起ころうとも必ずゴッドスレイヤーがなんとかしてくれるのだと。
そうして悲劇は突如として訪れた。
突如天から降り注いだ人間の体を一撃で貫通させる雨は、どんな魔法でもどんな防具でも防ぐことができず人類に絶望の二文字を刻み込んだ。
後にこの事件は「ゴッドティアー(神の涙)」と呼ばれることとなる。
人類は愚か、希望の光であったゴッドスレイヤーたちでさえも成すすべなく次々と散っていった。そんな時立ち上がったのがユーラシアの父アトラ・スレイロットと母メイシア・スレイロットである。
彼らは自身の命を犠牲として『ラストイルミネイト(最後の光)』を発動させ、ゴッドティアーから人類を救った。二人は後に、魔王時代以降失われていた『勇者』という名で語り継がれていくことになる。
それは二人にとってはとても光栄なことであるが、残してしまった息子ユーラシアだけが心残りであった。しかし、不安ではなかった。なぜなら、最も信頼のおける者に託したのだから。
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