こうして始まる

彼女は強烈だった

第1話

音信不通か。それとも、やんわりとほのめかすか。いや、はっきり、か。







ワイングラスを傾けながら、目を細めて妖艶に笑う千春をまっすぐに見る事も叶わないまま、同じようにグラスを傾けると、横に座る俳優の大先輩である柴田さんが、出された食事についての持論を嬉々として語り始めた。










食通で知られる柴田さんが連れて来てくれた店だから、唸るほど美味しいはずなのに、それを千春の存在が邪魔をする。




俺の中ではすでに別れている元カノ、千春。









チラリ、千春を見れば柴田さんに注意を払っているように見せつつも、この後の甘美な時間を彷彿させるように、ヒールの先で俺の足に何度もコツンとぶつけてきた。









だめ、だ。めんどくさい。



すげえめんどくさい。









やっぱりこれ以上の茶番はごめんだから、はっきりとさせておこう。







今にも吐き出してしまいそうなため息を飲みこんで、千春を見れば“分かってるでしょ?”とばかりの笑顔を向けてくる。







分かってねえのはお前だよ。









この後に待ってるのは、お愉しみの時間じゃなくて、ただの陳腐な別れ話だ。








どこにでも転がっていそうな、何も珍しくはない別れ話。










目を輝かせながら、”ここのフレンチは築地に直送されてる山菜を使っていて”と語っている柴田さんだけに、ここから先は注意を一点させようと顔ごと視線を向けた。

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