第8話「剣士の矜持」

「能力発動ッ!!『剣士の矜持アカイド』!!」


 器用にも馬の上に立ったヴィバンは、荷物入れから出した紙飛行機をリクターに向かって飛ばす。

 紙飛行機には魔力が付与されていた。


「なんだァ!?これがお前の能力か!?

 ハッキリ言うがチンケだぜッ!」バザァッ!


 リクターは紙飛行機を軽く払う。

 

 グジュァッッッ!!! 


 すると紙飛行機から無数の鉄剣が飛び出す。

 迂闊にも紙飛行機に触れていたリクターは手を貫かれる。


「ぐ、グアァッッ!!舐めやがってェ!!」


 リクターが初めて経験する激しい痛みに悶えている隙に、二投目の紙飛行機が投げられる。


「ちょ、ちょっとヴィバン!!

 このまま殺す気じゃあないでしょうね!!」

「そ、そうだよヴィバン!

 あの馬は国営ギルドの印があるから、多分アイツは冒険者なんだよ!?」

「世界冒険法に、正当防衛は無いんだよ!!?」


「安心しろお前ら、今狙っているのは」

「『馬』だッッ!!」


 バルルルルグギャァッッッ!!!

 鉄剣は馬の頭にモロに入る、リクターは落馬した。


「...倒れたままで動かない、恐らく気絶したんだ」

「このまま逃げ切るぞ!」


 ドダッッッッドドドドッッッッ!!!




「...頭が痛ェ、あれがリストに乗ってた『ヴィバン・ルスティール』の能力か、

一本取られたってやつだなァ〜」


 リクターは懐からボードを取り出す。


「どんどん離れてくな〜

『鉄剣を生み出す能力』厄介だなァ〜!!」


 彼の周りの波は勢いを増す。


「だが俺の能力は敵を逃がさねぇッッッ!!!」


 リクターはボードで波に乗るッッ!!

 馬の時速は約70km、

 対して今のリクターの時速は"100km"。

 能力の効果範囲は半径30m、領域内に持ち込めば馬の脚も波で飲める。

 オーク一向に追いつく事は造作も無いのだッッ!


[一日前]

「――――――え!?張り込み!?」

「あぁ、奴らは必ず冒険で資金調達に出る」

「ふーん...団長はどうすんの」

「王国内を探し回るよ」


 南門には『リクター』

 北門には『ライアン』

 西門には『ブッカーバ』

 東門には『リエン』

 それ以外の団長らは王国内を探し回る事となった


「でも団長ォ...南門って一番出入りが激しい所だろォ?なんでそんな重要な所に俺を...?」

「...それはな、リクター――――――――


 ――――ドドドドドドドドッッッッッ!!!!


「(あの後、なんて言われたんだっけな。

 すっげぇ緊張してて聞いてなかったかもな)」


「おい!あのガキ追ってきてやがる!」

「しかも早ェ!!!」


「(まぁいいか、今はコイツらを殺す。

 俺は冒険者じゃない、だから世界冒険法は適用されずに冒険者の殺人を犯せる。

 アイツらを殺した後に冒険者になれば殺人の前科は全部チャラだ。

 俺の能力で波を起こせば地面に潜る事だって可能、それで気づかれずに馬だって奪った。

俺は何も気にせず、ただコイツらを殺せば良い)」


「ヴィバンさん!早く紙飛行機を投げッ!」

「もうやってる!だが...!!」


 グニャァッッッ


「空気に波を起こし、紙飛行機の軌道をズラしてやがるッ!!これじゃ紙飛行機は通用しねェ!!!」


「なら僕の魔法で!『炎の魔法ファイアボール』!!」


 リルは炎の球を飛ばす、それは波によって作られた空気の防壁を突き抜けたッッ!!が...


「―――――魔法だとしても、それは炎なんだ。

 吹き消すんなら造作もねェだろ」


 リクターは、波を渦状に激しく動かす事で、

 炎の球を吹き打ち消す暴風空間を作り出した!!

 それは小型サイクロンジェットであるッッッ!!


「おめェ本当にA級冒険者なのかリルゥ!?

 本番であるべき思考と工夫が足りてねェ!!!」


 トプッ――――


「き、消えた!地中に消えた!!」

「リル!なんか魔法は無ェのか!!」

「...ち、地中に潜ってるなら空気の供給が必要になるはず!モグラってさ...周りの土壌を緩くして呼吸するスペースを確保するんだって...空気が通りやすくするとか...なら、だったら!

『水』だってッッ!!!」


 リルは水を辺り一面にバラ撒く。

 数秒後、水面と地面が揺れ、リクターが飛び出す。


「(『リル・グライドール』、それは逆効果だぜッ。

どうせ俺を生き埋めにしようとか、窒息させようだとか、そんな魂胆で水を出したんだろ?)」

「俺を地上に出したのは褒めてやる、だがッ!!

水が加わった事でお前らを丸ごと飲み込める位の津波を起こせるようになったッッ!!ありがとなァ『リル・グライドール』!!」


「み、皆ァ!」 

 彼の起こした津波はヴィバン一同を飲み込む...

ように思えたが、間一髪でオークが全員を助ける。

 しかし馬を抱える事は出来なかった。


「お、オークテメェやるじゃねぇか!」

「いいから早くリクターを倒して下さい、

ヤツは殺さない限り地の果てまで追ってくるッ」


「馬は四匹中三匹が地中に飲み込まれた、

一匹残したのは全て終わった後の帰る用かな」

「ごめんなさい...僕が水を出したから...」


「―――ッ!!!いいや...!!

 あながち無駄でも無かったようだぜ、リル」

「アイツ、津波なんてデッケェもんを起こしたものだから、魔力切れを起こしているッッ!!」


 リクターの周りの波は静かに引いていく。


「この...クソオーク...ッ!!ハァハァ...

 お前が出しゃばらなければ...ハァハァ...全員...

 一気に殺れたのによォ!!えェ!?」ゼェ...


 ズォォォッッッッ!!!

 彼の怒りは魔力の増幅を起こした。

 引いていた波は激しさを増す。


「...お前ら、その馬に乗って先に行け。

 オークてめェは走るなりしろ、バイクにも追いついたんだろ?」


「で、でもッ!」


「大丈夫、後で追いつく。

 どうせサボ大林で一週間くらい滞在すんだろ?

 お前らは体力残しとけ」


「待てよヴィバン!お前死...ッ―――

「早く逃げろッてんだよテメェら!!!!」


「行きましょ、彼はそうそう死ぬ人間じゃない」

「ヴィバン、これ...」

「...?あぁ、ありがとな」

「――クッ!死ぬなよヴィバン!」


 ダダダダッッ!


 夕日で輝く平原、

 そこには一騎打ちに臨む男が二人居た。


「...本当に逃がして良かったのか?

死ぬかもしれねんだぜ?ヴィバン・ルスティール」


「あぁ、そうかもな」


「お前...死が怖くねェのか?」


「何言ってんだ?俺に死ぬ気は無ぇよ」


「そうか、まぁ俺も同感だな」


 ズォォォァァッッッッッッッッッ!!!

 ドグァァァッッッッッッッッッッ!!!


 魔力の音や波の音が沈黙を壊す。


「うらァ!!行くぜヴィバンッッッ!!!」

「うおおおッ『剣士の矜持アカイド』ォォ!!」


 ヴィバンは鉄剣を両手に出し、左手の鉄剣をリクターにブン投げる。右手の鉄剣はガッシリと握り締め、ヴィバン自身はリクターへ突撃する。

 しかし波で足を取られるので、大剣状に作った鉄剣をサーフボード代わりにして波乗りをする。


「(早い、投擲に自信があるようだな。

それに魔力もありったけの全力を籠めたらしい、

これでは小型サイクロンも突き抜けるだろうな。)」

「それがどうしたァッッッ!?

 避ければ良いだろうがッ、舐めてんのかァ!?

 俺が地中に潜れる事忘れてねぇだろォォォ!!」


 トプッ...


 リクターは水によって地中での呼吸が出来ない。

 魔力を出して能力を維持しながら、という激しい運動下で出来る潜水の時間は実に18秒。

 しかし、ヴィバンを地中に引きずり込むには充分な時間だった。


「掴んだッッ!!てめぇを地中に引きずり込むッ!            苦しみでクソ漏らすんじゃねぇぞォォォォ!!」


「あぁ、そうだな...苦しみでクソ漏らすかもな。

 ――――なァおい、お前の事だぞ?クソガキ」


 ガッッッッ!!!


「なッ!俺を掴み返しやがった!!

(マズいッッ!このままだと鉄剣で刺される!

コイツと俺は今ゼロ距離だッ、自滅の相打ち覚悟で直接サイクロンをぶち込むしか...!!)」


「ただ鉄剣で切られるだけ...その程度だと思っているのか?」


 グッ!!

 ヴィバンは全身でリクターに組み付く。


「な、何をする気だッッ!!」


「これは剣士の矜持だ...痛みだって覚悟すりゃ乗り越えられる...それが仲間を救うのであればッッ!」


 ヴィバンの魔力は増幅する。


―――――ズサ!ドゥサ!グシアァ!ドグシャッ!


 瞬間、ヴィバンの全身から鉄剣が飛び出す。

 それは密着していたリクターも串刺しにした。


「グアッ...ガハッッッ!!」

「グッ...ウゥ...」


 ―――――波は静まる。


「ゴホッ!グホッ!」

「グ、ガハァッ!」


「正気なのか...?お、ガハッッ!...おめェ!

死ぬ気は無かったんじゃあなかったのかよ!!」


「よく...喋るな、良い...体力してるよお前」

「その通り、死ぬ気は無い...俺にはこれがあるからな」


 そう言うヴィバンの手元には生命玉が有った。


『生命玉』

A級以上の魔術師が作れる生命力の塊であり、

生命玉を取り込めば身体のありとあらゆる怪我を治し、魔力は回復する。

(魔術師側はかなり疲弊し、場合によっては寿命が減ってしまうのがデメリット)


「これで...完治ッ!」

「―――さて、お前のトドメを刺さなければな」


「あぁ――そうだったな...」

「(団長があの時言ったこと、思い出した)」


―――それはな、リクター。

可能性を感じているんだよ、

お前はこれからの闘いを通じて『覚醒』を果たす。


「(団長ごめん、俺期待を裏切っちゃった...)」

「だ...が...ただじゃ...死なねぇ...!!」


「ッ!?魔力が増幅し...ッ!!」


「団長ォォォォォ!受け取ってくれェェェ!!!」


 リクターは最期の輝きを放つ。

 それは死に際で達した完全なる覚醒であった。

 その金色の光は辺り一面を数秒間包む。

「...ガハッ!」


 リクターは息絶える。


「今のは...なんだったんだ?」

「でも倒せたって事で良いんだよな、

 ―――――それなら早く追いつかねぇとだよな」


 夕焼けはとっくに沈み、夜空が広がり始める。


 [To Be Continued....]

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