第11話 人間界へ


訓練を積むこと2ヶ月、父と母の許しを得る程度に力の制御ができるようになった私はネフィアと共に城の前で父と母、フィーナに見送られていた


既に私は訓練でうっかり世界滅亡には至りにくくなっている、他にも瘴気の流出を押え人間に近いオーラを放つようになる魔法やそれの制御法、その他基礎的な魔法や体術を学んできた、とはいえやはりまだうっかりで簡単に大惨事は変わらないためできる限り戦闘やトラブルは控えたい。


「荷物はしっかり持ったな」


「大丈夫?忘れ物ない?連絡水晶忘れてないわよね?」


「大丈夫よ、お父様お母様」


「私も姫様と一緒に行きたかったのですが…」


そんなことを言われながら見送りに来た2人に手を振る。


フィーナはまだ魔族になったばかりで人間に化ける魔法を上手く扱えないため今回は泣く泣く魔王城にお留守番となった。


(転移魔法で定期的に戻ってくるんだからそこまで泣かなくても…)


2週間ほど前に兄を旅立ちに送り出すときも母はガン泣きだった、さすが親バカ魔王妃である


「ちゃんと帰ってくるのよ?じゃないとお母さんリアちゃんロスになっちゃうわ…」


「まぁそんなわけだ、リアナ、思う存分楽しんでこい、そしてネフィア、彼女の面倒をみてやってくれ、もし何かあったらすぐ連絡するように」


お父様は慣れているのかお母様を宥めている、微笑ましい光景だ


「旅先でのお話沢山聞かせてくださいね!私も擬態魔法を使えるようになったらついて行きますから!」


「はーい、じゃあまたね、お父様お母様、フィーナ」


「さて行きましょネフィア」


「かしこまりました、それでは失礼致します姫様」


そういい私の手を掴んで共に転移する私達、転移魔法は行ったことのある場所にしか行けないため今回はネフィアに転移魔法を使ってもらうことにした。



そして私達は到着した…人間界に、爽やかな風が吹いている草原、見覚えのある景色…始まりの村近くにある草原、グレイラ草原だ


「ふわぁぁぁあ…綺麗…」


「どこまでも草で充ちていますね、それはそうと姫様、人間に見つかる前に擬態魔法を」


「あ、そうだったわね、それっ」


そうして2人は人の姿に擬態した、私は動きやすそうな服を着たインナーブラックの白髪と白い瞳とまつ毛をした少女の姿に、ネフィアは冒険者風の服装と黒髪ショートの黄色い瞳の姿となった、どちらも魔族の特徴であるしっぽや翼が消えていて元の姿をそのまま人間風にした姿だった。


「あっ…冒険者風人間ネフィアしゅき…」


「?姫様…いまなんと?」


(ハッ…しまった…またやらかした…)


「ゴホン…なんでもないわ、さあ行きましょ!」


「はい、姫様」


うっかり素が出てしまいそうになったがこらえ、近に見えた村へと向かう、せっかく私達が作った世界に来たのだからたくさんのところを巡って楽しむのも大事だろう


(人間の食べ物を食べたいな…あの村なら食べられるよね)


そして村へ着いた私達はとりあえず何か食べられる場所を探すことにした、ワクワクしながら飲食店の看板を探している…しかし…


「あ、あれ…人間の村ってこんなにしずかなの?」


「確かにおかしいですね、昔通りがかった時は弱った私を討とうと追いかけてきた人間がいたほど賑やかでしたが…」


「あ、あはは…」


(うん、いろいろ聞かなかったことにしよう…)


流石にスルーをした私は洗濯物をしているであろうおばさんを見かけたので声をかけてみた


「あの〜すみませんここに住んでる方ですか?」


「ん?あなたたちは…冒険者かい?」


「いえ、まだ冒険者ではないんですがこれから王国へ向かう予定なんです、その前に何かここで食事をと思ったんですが…なんだかすごく静かだなって…」


「あら最近の事件知らないのね…お嬢さん達、最近は魔界の穴が空いたせいで瘴気が漏れ出て魔獣が活性化してるから外に出る人が激減してるんだ、あまり迂闊に出歩かない方が身のためよ」


(魔界の穴……心当たりしかない…)


明らかに私がやらかしたやつだ魔界は魔族達が日常的に放っている瘴気が溜まっており耐性の無い人間や天使が浄化魔法無しで近付くとその濃度によって正気を失ったり魔族に魅了される、天使の場合最悪焼け死んだりするそうだ、そんな瘴気が大量に流れ出れば様々な被害が人間界に出る、先程言っていた魔獣の活性化もその一つだ


(ご、ごめんなさい…)


とても申し訳ない気持ちになった、訓練中何度も空に穴を開けてしまい人間界はおそらく大騒ぎになっていることだろう、父と母がその穴を塞いでいたがすぐには塞がらず漏れ出た瘴気は多い、既に大きな被害が出ているようだ…そういえば


『ネフィア、私の瘴気漏れたりしてないわよね?』


『大丈夫ですよ姫様、完璧に人間に擬態できてます』


そんなことを訓練で覚えた念話魔法で話す、どうやら父曰く私の瘴気は魔界に溜まった瘴気よりも遥かに濃く多いようでうっかり漏らしたら大変なことになるようだ


(とりあえず人間に影響出ないなら良かった)


「どうしたんだい?2人とも」


「いや、教えてくれてありがとうございました、食事は諦めて王国へ向かうことにします」


「どうってことないよ、それじゃあ道中気をつけてね」


そう言い私達は歩を進める、先程の村人も私がデザインした服を着ていた、いかにも村出身のキャラですてきな服装だ、黄色いエプロンと少し黄色いシャツ、紺色のズボン…なんだか懐かしい気分だ


(ああいうキャラがゲームを引き立たせてくれるんだよねぇ…もっと眺めていたいな)


既に楽しくなってきた私は絶妙に変なニヤけ顔をする、そんな中唐突に耳をつんざく悲鳴が聞こえた。


「きゃァァァァァ!!」


「!?何事!」


先程色々と教えてくれたおばさんの声だった、どうやら巨大な蛇型の魔獣に襲われているようだ


「な、ど…どうしよう!ネフィア!」


「どう…とは?そのまま捨ておけば良いかと思いますが」


「へ?」


そうだ、忘れていた彼女は魔族…人間の事など眼中に無いのだ、私とは根本的に考え方が違う…


「ッ!!」


「えっ…どうされたのですか!!姫様!!」


私は考えるまでもなくそのおばさんの元へ走っていった、戦闘状態を意識したからか周りの時間の流れが極端に遅く感じる、速度ステータス21億の影響だろう、攻撃を意識すると体がステータスに応じた動きになり1ターンに行動できる回数に影響がある速度のステータスは私の場合相手の動きがとても遅く見えるのだ、それこそ時が止まっているように感じる。


大蛇の目の前まで一瞬で移動した私は戦闘の意識を解除する、そして蛇と睨み合った


(できれば攻撃はしたくない…こんなとこで災害を起こすわけにはいかないから…)


被害が出る行動を取らないように思考を巡らせる、上手いこと蛇だけを遠くに投げ飛ばしたいが…


「お、お嬢ちゃん!?危ない!早く逃げて!!」


「だ、大丈夫です!おばさんも早く隠れて!!」


「ッ!!わ、わかったわ!」


震えながら冒険者風の剣を持つ…明らかな殺意を持つ相手と戦うのは初めてだった、恐怖で足がすくんでしまうそれでも…


(これでいい…さぁ私についてきて…ッ!?)


私が攻撃を行うと破壊の波が辺りを巻き込んでしまう、何とかあの蛇をこの村から引き離さないといけないが…しかしその蛇は私ではなくそのおばさんを狙っていた、大きく私を逸れて彼女を喰らい尽くそうとする…


ザシュッ!


唐突に蛇の首に剣が突き刺さった


「大丈夫か2人とも!!どうやら間に合ったみたいだな」


そう言い冒険者らしき人が飛び出てきた、どうやらパーティメンバーもいるようで魔法使いと弓使いがいる


「アガセ!まだ倒しきって無いよ!油断しないで!」


「おうよ!2人とも行くぜ!」


そう言い攻撃を再開する3人


「リア様!無事ですか!」


駆け寄ってきたのはネフィアだった、人間の前で姫様呼びだと変に思われると思ったので事前に打ち合わせておいた呼び方だ、かなり渋々と言った感じだったが最終的に受けいれてくれた。


「大丈夫よネフィア、ごめんなさい、勝手に突っ走ってしまって…」


「そうですね…人間など捨て置けばいいのに無茶しすぎです、攻撃していたら正体がバレていたかもしれません」


「ご…ごめんなさい」


ここ1ヶ月ほど忘れていたがやはり魔族の考え方についていけていない、やはり人間を好きな魔族は異端なのだろう…とても寂しい気分だった。


「いやー久しぶりに骨のある相手だったぜ〜!」


「やっぱり瘴気の影響が酷い…根本的な解決はしないと思う」


「そうだねぇ、まぁ俺達にはどうにもならんけどっと、とりあえずお嬢さん方大丈夫だったかい?」


「え、ぇぇ大大丈夫よ、心配かけでごめんなさい」


「…チッ…余計な世話を…」


「ん?何か言ったか?」


「い、いえ!なんでもないわ!ありがとうございました!」


何やらネフィアがボソッと物騒な事を言っていたが何とかごまかせた、魔族怖い。


(いやまぁ…私も魔族なんだけど…)


そして彼等が助けたおばさんの所に外に出る時は短時間にするようにと警告したあと私達のところに戻ってきた


「で、お前さんたちは一体なぜ外に?もし言いたくないなら言わなくてもいいが…この瘴気騒動の最中外を子供とお姉さん2人だけで出歩くなんて危険すぎるぞ」


「うん、せめて護衛をつけるべきだよ」


「そうだな、ちなみに俺たちが護衛をしてやってもいいぜ?戦い見てりゃ分かるかもだが俺たちゃ腕の立つ冒険者やってるからな!」


「おいおいルーノ、調子乗りすぎだぞ?」


「彼はいつも調子乗ってる、気にしたら負け」


「おっと俺の悪口はそこまでだぜ2人とも」


そんな会話をしながら楽しそうに笑いあっている、護衛をしてくれるのならとてもありがたい限りだ、私はほとんど何もできないしネフィアも強い魔族の1人なため変に目立ってしまうと正体がバレる可能性が高い。


「その…護衛なんですけどもし良ければお願いできませんか?お金はあります」


「お、依頼かな?もちろん引き受けるが…お前さんはまだ小さいしそんなたくさんお金はいらないよ、とりあえず目的地をおしえてくれ」


「王都に行きたいんですけど…」


「いえ、必要ありませんご提案感謝します、それでは失礼致します」


「え、ちょ…ネフィア!?」


『姫様…少々話があります、着いてきてください』


『え?あ、うんわかったわ…』


何やら神妙な面持ちのネフィアがそこにはいた、何をやらかしたか分からない私は恐る恐る彼女について行くのだった。

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