2 王と王女様
騎士に連れられ恒久達が通されたのは、赤い絨毯が全面に敷かれた長方形の大広間だった。その中央には欧米諸国の宮殿や御屋敷で見られるような純白のクロスが敷かれた長いテーブルが置かれている。大広間には恒久達と二人の騎士がいるだけで、他には誰もいない。恒久達は騎士に促されるままに長いテーブルの中央に並べられた椅子に腰かけた。三人の目の前にはそれぞれお皿とナイフやフォーク等の銀食器類が、高級フレンチレストランよろしく並べられている。
「なにか食べ物が出てくるのかな?」
倉本の空のお皿を見つめる眼差しが熱い。
「めぐみ、もうちょっと危機感持ちなさいよ」
卜部は呆れ顔だ。
「だってお腹ペコペコなんだもん」
それにしても、このお城といい部屋の内装や家具、目の前の食器類に至るまで現実の世界にあるものと全くと言っていいほど同じものに見える。それなのに、人間は一人も見かけない。それ以上に恒久が気になっていたのは、街で住人達から向けられた眼差しだった。あれは明らかに好意的なものではなかった。怖いものを見たがるような、怖れのなかに好奇心が入り雑じった眼差し。あれが意味するものは……。
そこで恒久の思考はストップした。向かって右側の扉が開いたからだ。
「いやいや、お待たせしてすまない。会議が長引いてしまってのう」
そう言って入って来たのはやはり、人間ではなかった。数名の騎士を伴って現れたのは、二本の巨大な角を生やした恰幅の良い動物だった。そしてその後ろ。風も吹いていないのに、腰まで届きそうな紺碧色をした長い髪をふわりとなびかせて一人の少女が現れた。いや、少女ではあるのだが、やはり人間ではない。頭に角は生えていないが、シンプルなドレスの袖から見える腕には触り心地の良さそうな青みがかった短い体毛が生えている。しかし顔つきは人間のそれである。ドングリのような大きな瞳に少し高い鼻筋。ふっくらとした桃色の唇に人間よりも少し尖った耳。人間と同じように歳を取るかは分からないが、見た目からは恒久達と同じか少し上のように見える。そして、なにより美しかった。その表現が正しいのか定かではないが、厳しい自然の中で必死に生きようとする動物の儚くも輝く姿を見て誰もが感じるように、人間では一生辿り着けない美の境地に、恒久は目を奪われてしまった。
「人間達、起立し頭を垂れよ。王の御前であるぞ」
そう強く言い放ったのは、少女の後から部屋に入ってきた筋骨隆々の動物だった。鼻頭から二股の角が伸びた厳めしい顔つきは、どことなくサイを思わせた。それを制したのは最初に入ってきた恰幅のよい動物だった。
「よいよい。彼らもこの世界に迷い込み右も左も分からんのだよ。さて自己紹介から始めようかの」
恰幅のよい動物は、恒久達の目の前の中央の席に座りながら落ち着き払った棘の無い声でそう言った。
「私はメガロケロスを祖に持つフィヨルド=アンクライト。このコルヌ王国を治めておる。それから」
目の前の恰幅のよい動物はこの国の王様だった。フィヨルド王は右手に座る少女の方を向く。
「この子は私の孫娘で、名をリコレッタという。さあご挨拶を」
そう促された少女は恒久達をその澄んだ瞳でじっと見つめる。
「リコレッタ=アンクライトです。先ほどは失礼しました。手荒な真似をしてしまって」
手荒な真似?こんな美少女にそんなことをされた覚えはないが。恒久達はお互いに顔を見合わせた。その様子を見てフィヨルド王はにこやかに笑う。
「ホッホッ。リコレッタは我が国の騎士団長も務めておるからの」
騎士団長……。
「あっ」
恒久達は同時に声をあげた。リコレッタはこちらを見て微笑んでいる。確かにあのとき鎧の奥から響いたのは凛と澄んだ女性の声だったが、もっともっと年上だと思っていた。それは全身に纏った鎧のせいだったのだろう。王女様が騎士団長だということは、お城に来るまでの道中で村人達が言っていたことを聞いていたから何となく分かっていたが、まさか目の前にいる同じような年頃の少女が騎士団長を務めているとは思いもしなかった。
その後もフィヨルド王からの紹介が続き、筋骨隆々のサイのような動物が護衛隊長のビーンズという名だとわかった。
「して、そなたらの名はなんと?」
次は恒久達の番だった。恒久が始めに名乗り、卜部、倉本の順に自己紹介を終えた。そして恒久はこの世界に迷いこんだ経緯を話し出した。
「僕たちは行方不明の友達を探しているとき、あの怪物にこの世界に連れてこられました。そして僕たちの友達の一人があの怪物に大怪我を負わされました。その友達は無事でしょうか?あの怪物はなんですか?それにここはどこなんですか?あなた達は一体……。人間、ではないのですよね?」
恒久は矢継ぎ早に問いかける。
「まあまあ落ち着きなさい。君たちの質問に一つ一つ答えよう。まず怪我を負った友達だが、現在治療中で命に別状は無いそうだ。丈夫な身体を持っておる」
恒久達三人の顔に安堵の表情が広がる。
「それからこの国、いやこの世界のことだが……」
ぐるるるるる。
聞き慣れた音が部屋中に盛大に響いた。恒久の隣で倉本がお腹を押さえて顔を赤らめている。
「ご、ごめんなさい。安心したら我慢できなくて」
「ホッホッ。夕食には少しばかり早いが、残りの問いは食事のあと答えよう。長くなるのでな。君、厨房に連絡を」
そう言われた兵士は右手で左肩を触る仕草をし、急いで部屋を後にした。
食事が運ばれてくる間にフィヨルド王に尋ねられ、恒久達は人間の世界についていくつか話した。百を裕に越える国と言語があること。恒久達はその内の日本という国から来たこと。学校という様々な知識が得られる施設があること。フィヨルド王は特に様々な国の文化や歴史について知りたがり、恒久達はたった十五年という短すぎる人生経験の中で得た、限りある知識をフル動員して、答えられることはなるべく答えていった。その間、隣のリコレッタ王女は眉ひとつ動かさず静観していた。
フィヨルド王からの質問の猛襲も尽きかけた頃、恒久達の左手側のドアが開かれ、両手に大皿を乗せた給仕の動物達が数人とコックらしき帽子を被った動物が寸胴鍋を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。
目の前のテーブルの上に次々と料理が並べられ、給仕達が手際よく王様、次に王女様、そして恒久達とそれぞれの前に置かれたお皿に料理を取り分けていった。テーブルを埋め尽くすかのような料理の数々。肉料理に魚料理。煮込みやスープ。ソテーやフリッター。しかしそのどれもが、どこかで見たことがあるような、嗅いだことがあるような料理ばかりだった。だからこその安心感からなのか、まだ食べてもいないのに恒久達はよだれをこらえるのに必死だった。いや、倉本は我慢できていないようだ。恒久が王の方を見ると、王は隣の王女とテーブルの上で手を繋ぎ、目を閉じていた。数秒後二人は目を開き、フィヨルド王が口を開く。
「さあ、今日もこれだけの恵みを頂けることをこの世界に感謝し、残さず楽しく食そうではないか。君たちも遠慮なく召し上がれ」
王の挨拶を皮切りに、周りにいた兵士達も兜を脱ぎ、席に着いて王達と同じように黙祷をしてから食べ始めた。倉本はナイフとフォークを持ち、既に満面の笑みでモグモグしていた。卜部もスープに口をつけ、顔を輝かせている。恒久も手前の、見た目は肉であろう茶色の料理をフォークで口に運んだ。それは紛れもなく肉だった。ほどよい甘味と酸味がするとろっとしたソースが絡んだジューシーな肉。『酢豚』の味がした。隣に添えられている黄色いものは、よく見るとパイナップルだ。ピーマンもニンジンも見つかった。『酢豚』の隣にある料理を見る。赤茶色のソースがかけられ四角く切られているそれは、黄色っぽい生地が何層にも重ねられ、その間を挽き肉が埋めている。ナイフで一口サイズに切り、フォークで持ち上げると白っぽいものが糸を引いた。口に入れる。それは紛れもなく『ラザニア』だった。新鮮なトマトの味も感じられた。そしてその隣は、見た目は『チャーハン』だが、食べてみるとエスニックの味がした。『ナシゴレン』だ。二種類あるスープは『コーンポタージュ』と『ビシソワーズ』だった。他にも見知った料理がいくつも並んでいる。
「ねぇ、この料理って」
卜部は戸惑いを隠せないでいる。
「うん。どれも知ってる料理だ」
「うん。どれもスッゴク美味しいね」
倉本のとなりでは給仕が忙しなく動いている。前を向くと、王も王女も何の躊躇いもなくフォークで器用にパスタを巻いている。恒久達に合わせた料理という訳でもなさそうだ。
「余り食が進まないようだが、口に合わなかったかね?」
周りをキョロキョロと窺う恒久を見て、フィヨルド王が声をかけた。
「いえ、どれも美味しいです。ただ、慣れ親しんだ味ばかりで驚いてしまって」
「ホッホッ。それはそうだろう。元々はそなたらの世界の料理だからの。食材は少々違うが」
「え?それはどういう意味ですか?それに、あなた達は僕たち人間のことをよく知っているようですが」
「詳しい話は食事の後じゃ。『食事中は静かに』が我が国のマナーなのでの」
恒久はそれ以上は諦め、一先ず目の前の料理に集中することにした。他の兵士達も一言も喋らず、途中広間に入ってきた兵士が王と王女に何やら耳打ちした以外、二人も黙々と食べ続けた。
テーブルの上の料理があらかた平らげられ、役目を終えた食器類が片付けられると、代わりにティーカップがそれぞれに配られた。ティーカップにカラメル色の液体が湯気をたてて注がれる。香りから紅茶だと分かる。
「さて、本題に入ろうかの」
目を開けたフィヨルド王は紅茶で喉を潤してから続ける。
「まず始めに、そなた達も既にわかっていることではあるが、ここはそなたら人間の住む世界ではない。もちろん、そなた達が人間であることは初めから皆わかっておる。一目瞭然じゃ。角も持たず牙も生えておらず、翼もなければ鰭も鱗もない。そんな生き物は人間だけじゃろう。ご覧の通り、我らには大なり小なり頭から角が生えておる。この国は主に角を持つ生き物が暮らす国なのじゃ。そしてこの世界には他に、牙の国、翼の国、そして鱗の国がある」
国王はそこでまた紅茶を一口飲む。国王が言ったように、ここが人間の世界ではないことは恒久達も分かっていたが、それが理解できるかどうかはまた別の話だ。
「じゃあここはパラレルワールドってことなの?」
そう言ったのは卜部だった。恒久は卜部の口からそんな言葉が出てきたのが意外に感じられた。
「弥生ちゃん、パラレルワールドってなに?」
倉本が尋ねる。
「同じ時間軸上に複数存在するとされる別の世界のことよ。もちろん、そんなのSF小説とか映画の中の話で、現実にはあり得ないって思ってたけど」
卜部の顔が曇る。倉本は腕を組んで小さく唸っている。
「ホッホッ。そういった世界があることは私は知らないが、それとは少し違うかもしれんのう。ここは夢の中にある世界なのじゃよ。そなた達人間が見る夢のな」
「夢の……中?」
そう言われても恒久には理解できなかった。まだパラレルワールドだと言われた方が何となく納得ができる。二人も同じ気持ちのようだ。困惑している恒久達をよそにフィヨルド王は話を続ける。
「我らが住むこの世界は、『ノア』とよばれておる。この『ノア』とそなたらが住む地球は、そなたら人間が見る夢で繋がっておるのじゃ。それも極めて細い糸での。我々『ノア』の住民は、そなたらが見る夢を、この世界にしかない特殊な道具を使って自由に覗くことができる。そなたら人間はまことに様々な夢を見る。先程食べた料理もそれで覗いて学んだのじゃ。一方、そなたら人間は我らの世界を夢で見ることはあっても、目が覚めればほとんど忘れてしまう。じゃが、極めて希なことではあるが、そなたらのようにこの世界に迷い込む者もおる。ある特別な通路を通ることでの」
フィヨルド王はそこで一息ついた。恒久達に頭の中を整理する時間を与えているのだろう。
「特別な通路って、私たちがあの怪物に襲われたときに落ちた大楠様に空いた穴のことよね?落ちたって表現は変だけど。じゃあその通路を通れば私たちの世界に帰れるってこと?」
卜部はこの世界のことに半信半疑ながらもフィヨルド王にそう尋ねた。
「確かに、通路はあるにはあるのじゃが」
王は何故か口ごもる。
「それはどこにあるの?ねぇ教えて!」
「その口の利き方、王に対して無礼であるぞ!」
荒くなる卜部の語気に、サイのような風貌のビーンズが身を乗り出す。
「ビーンズ、よいのじゃ。弥生と言ったかな。そなたの焦りはもっともじゃ。じゃがの、我らにも分からぬのじゃ」
王はそれでも憤りを隠せないビーンズを宥めて続ける。
「そなたらが通って来た通路は『霞の轍』と言っての。我らにもいつ、どこにそれが現れるのか全く予想がつかぬのじゃ。分かっているのは、何千年という年月を生き抜いた古木の虚や洞穴などの自然物にその通路が開かれるということじゃが、そんなものはこの世界には数えきれんほどある」
「では、今までにこの世界に迷い込んだ人たちは、今もここで暮らしているのですか?」
ビーンズの怒気に臆された卜部のあとを引き継ぎ、恒久が尋ねる。
王はかぶりを降る。
「いや、皆そなたらの世界に戻った。『ノア』の四国共通の法として、迷い込んだ人間は直ちに元の世界に戻さなければならない。もし故意に人間を匿えば、その者は厳罰に処される。じゃが、過去にその法が破られたことはない。皆『霞の轍』から帰ったのじゃ」
「では、あなた達でも分からない通路をその人達はどうやって見つけたのですか?」
そこでフィヨルド王は束の間沈黙した。慎重に言葉を選んでいるようにも見える。
「お父様、ここからは私が」
自己紹介以降一度も口を開かず、食事中も一切の物音も立てずに、その存在を消していたリコレッタ王女が口を開いた。
「あなた達の世界には神様はいますか?」
唐突な話題に、恒久達は言葉を詰まらせた。
「神様、ですか?えっと、そうですね。いると信じる人にはいるし、いないと信じる人にはいないとしか」
恒久は慎重に答えた。以前、学校の社会科の授業で他人と宗教について話すときは慎重にと教わったことを思い出したからだ。
「そうですか。私達の世界『ノア』には女神様がおられます。各々の心の中にという訳ではなく、実在しているのです。先ほどお祖父様が述べたように、この世界には四つの国があります。見た目は多種多様で、住むところや食べ物、思想や理念もそれぞれです。ですが、私達『ノア』の住人全てがその女神様を信じ、敬い、祈りを捧げているのです。ですが……」
リコレッタ王女もやはり話し辛いのか少し間を置いたが、すぐに話し出す。
「その女神様が突如姿を消してしまいました。そして、その女神様だけが唯一『霞の轍』の出現場所とタイミングを知ることができたのです」
「しかしその肝心の女神様の居場所が分からない、と」
恒久は緊張が伝わらぬよう努めて冷静に返した。
「はい。あなた達が来るまでは」
恒久達は顔を見合わせる。少し落ち着きを取り戻した卜部が王女に尋ねる。
「それはどういう意味ですか?」
「厳密に言えば、あなた達のお仲間がこの世界に来られたからです。怪我をされたあの御方が」
「谷崎君の、こと?」
倉本が少し身を乗り出す。王女は頷く。
「はい。あの方は谷崎様とおっしゃるのですね」
「谷崎君にどんな関係が?」
「あの御方は授かったのです。『女神の加護』を」
「女神の加護?」
倉本は首をかしげる。
「はい。砂漠で谷崎様が重傷を負いながらもあの怪物を退けられたのは『女神の加護』によるもの。それがなければ、谷崎様は命を落とし、あなた達はあの怪物に連れ去られていたことでしょう」
どうして谷崎が。それにまだ帰る方法が見えてこない。恒久は疑問を口に出す。
「それで結局、僕たちはどうやったら帰れるのでしょう」
「谷崎様に『女神の加護』が授けられたということは、女神様はまだご存命だということ。そして谷崎様と女神様との間に繋がりができたということ。その繋がりを辿れば、女神様を探し出せるかもしれません。そうすれば、『霞の轍』について女神様に教えていただけます。おそらく谷崎様には女神様の御声が聞こえているはずです」
「じゃあ谷崎君に聞けば、その女神様の居場所が分かって私達も帰れるのね。今すぐ谷崎君に会いに行きましょう」
卜部の声が少し明るくなったが、王女は静かに首を横に降った。
「それはできません」
「どうして?」
「谷崎様はすでにこの国を発ち、遠く離れた鱗の国へと向かっています。今頃はあの砂漠を抜けているでしょう」
「そんな!どうして谷崎君がそんなところへ?それにあなた方だって谷崎君に女神様の居場所を聞く必要があるんじゃないの?」
卜部の語気が再び荒くなる。王女の隣に座るビーンズの顔が厳めしくなる。だが確かに卜部の言う通りだ。この国、ひいてはこの世界のためであり、恒久達が元の世界に戻るための唯一の情報源である谷崎を、どうしてすぐに別の国へ連れていく必要があるのだろうか。恒久が疑問を口に出す前に王女が話を続ける。
「それは、仕方のないことなのです。その谷崎様から手紙を預かっています」
王女は卜部に一枚の羊皮紙を手渡した。そこには谷崎の字で傷が完治したことと何処に連れて行かれるのか分からないが大丈夫だということが書かれていた。
「谷崎様に授けられたのは『海の加護』。それを授けられた者は鱗の国に属すことになり、他国でその存在が確認された場合、速やかに鱗の国へと届けなければならない決まりなのです。それに加護を授けられた方が一人では女神様との繋がりが弱いため、声が聞こえても場所の特定までは難しいのです。そして長くなりましたが、今までの話は前置き。ここからが本題です」
王女は少しの間目を伏せ、決心を固めたようにその目を上げて続ける。
「実は、あなた方の他にもう一人、先にこの世界に来られた人間がいらっしゃいます。そしてその方も、女神様より加護を授けられたようなのです」
恒久は即座にそれが誰なのか気づいた。
(まさか!そうに違いない。いや、そうであって欲しい)
「その人は今どこにいるのですか?」
恒久は期待を胸に尋ねた。
「それが、分からないのです。その方がこの世界に来たときは、隣国の牙の国に数日滞在していたのは分かっていたのですが、その後の足取りが全く掴めないのです。そこで、その方の捜索をあなた方に協力していただきたいのです。どうか、お願いします!」
リコレッタ王女は頭を下げた。今まで冷静で気丈に見えた王女の必死の懇願に、恒久達は面食らった。「もちろんです」と言いたい恒久であったが、未だ疑問は残る。
「大丈夫だよ王女様。一緒に探そう!」
今の話のどこに感動したのか、倉本は目に涙を浮かべている。
「良かった。ありがとうございます!お二方もよろしいですか?」
倉本の言葉に緊張を解いたのか、王女様も少し鼻を啜っている。恒久と卜部は同時に頷く。
「ですが王女様、こちらからもお願いがあります」
恒久には聞くべきことがある。
「何でしょうか」
「始めに申し上げたように、僕たちはこの世界に来る前、突如行方不明になった友達を探していたところをあの怪物に襲われました。その際、その怪物が友達のことを何故か知っているようでした。そして、あなたの話を聞いて思ったのです。もしかしたらこの世界に来たもう一人の人間とは、僕たちの友達のことなんじゃないかと。王女様、何とかしてあの怪物を見つけて話を聞くことはできませんか?」
「そうだったのですね。実は私達もあの怪物が女神様を探す手がかりの一つではないかと、行方を探していたのです。あの怪物についてはまた後程お話いたしますが、奇遇にも私達の目標が一致しました。これであなた方はこの世界の客人であり、よき友人です。女神様の捜索という最重要事項への協力ということで、あなた方のこの世界での滞在と安全を、コニア王国が約束します。この国に滞在中は、御用があれば何なりと仰ってください」
そう言って微笑む王女の顔を恒久は何故か直視できなかった。
「さて」
これまで話の進行を王女に任せていた王が口を開く。
「話も纏まりお互い有意義な時を過ごせたが、すでに日が沈んで久しい。そなたらの不安や疑問はまだあるじゃろうが、そろそろお開きとしようかのう。もう一人の人間の捜索の段取りは、また明日話し合うとして。お前達、彼らを部屋に案内してあげなさい」
王がそう言うと、二人の兵が扉を開け、恒久達を外に出るように促す。
「すみません。あとひとつだけ、お聞きしたいことがあります」
恒久が王に尋ねる。
「何かね?」
「本当にこの世界には僕たちしか人間はいないのですか?」
「うむ。共に来た君たち四人と先に来た一人だけじゃ。君たちがこの世界に来て間も無くリコレッタ達が駆けつけたように、人間がこの世界に訪れると我々は分かるのじゃ。凄い音じゃからの」
「では、僕たちがこの部屋に通される前、待合室に置いてあった少女の像は誰を模したものですか?」
王が王女に目配せをする。王の代わりに王女が答える。
「女神様です」
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