忘却のアルカ

綿流宮人

― プロローグ ―

 眩しい。前方から来る強い光のせいで上手く眼が開けられない。足元も覚束ないが、僕の足は何故かしらその光の方へと歩を進めている。この先に何があるかもわからないのに、一歩ずつ。確実に。

 三十分ほど歩いただろうか。急に足の裏の感覚が変わった。先ほどまでは硬い石の上を歩いているようだったが、今では柔らかい砂のような感触だ。それに、前方の光も少し弱まったようだ。いや、僕の眼が慣れてきているのかもしれない。それでもまだ眩しいことには変わらない。左腕で光を遮り、右手で前を探りながら歩いていく。さらに十分ほど歩いただろうか。唐突に右手が何かに触れた。硬いが、石のようには冷たくはない。もう一度その何かに右手を伸ばす。壁だ。いや、壁ならこの光は一体どこから。その壁のようなものを探ると、別のものに触れた。胸のあたりの高さに上下に伸びるように取り付けられた棒状のもの。日頃よく触るもの。それは紛れもなくドアノブだった。これは壁ではなく扉だ。この光は少し開かれた扉から漏れだしているものだった。ならこの扉は、どこに繋がっているのか。僕は少しの恐れと高揚感を胸にその扉を開け放ち、眼を見開いた。

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