第4話 皆で万歳
「何とか、デェトを取り付けられましたっ!」
薫の喜色の富んだ報告に、枢木隊の面々は「おおおお!」と歓声をあげる。
そして「やるじゃねぇか、柚木!」「良くやったぞ!」と次々と称賛を飛ばし、次から次へと薫の頭をわしゃわしゃと撫で回す手が伸びた。
薫はその全てを「えへへっ」とはにかみながら受け止め、「本当に良かったですぅ」と喜びを零す。
そんな中、「いや、まだそこまで喜んじゃ駄目だ」と、枢木隊の大歓喜に水を差す言葉がバシッと入った。
皆がその声の主を見ると。
「ここは第一関門を突破したって所だろ。あの人の事だ、きっとこれがデェトなんて思ってないぜ」
淡々と紡がれた諫言に、皆が揃ってハッと息を飲む。
勿論、薫も愕然とした表情で息を飲んだ。
そ、そうだわ。枢木教官、骨休めって言っていたもの……。
喜びから一転、沈痛な面持ちになって目の前の事態に佇んでしまった。
だが、「そんな深刻にならなくても大丈夫でしょ」と、朗らかな慰めが入る。
皆でその声の方を見ると、囲いの後ろ側にいた篤彦が自分を見据える面々に向かってやれやれと肩を竦めた。
「始めはそんな雰囲気じゃなくても、段々とそういう雰囲気にしていけば良い話ですもん。だからお互い、気楽に集まった方が良いんじゃないか?」
篤彦は周りの先輩、そして薫。それぞれに向かって、飄々と言葉を述べる。
「た、確かに。そうだな」「う、うん。篤彦の言う通りだと思うわ」
次々とあげられる賛同に、篤彦は「でしょ」と答えてから「じゃあ俺、もう戻りますね」と軽やかに背を向け、一人囲いから離れて行った。
……篤彦。アンタ、本当に良い奴よね。
薫は一人颯爽と戻ってしまう背に「ありがとう」と口元を柔らかく綻ばせてから、「アイツ、いつの間にあんなに格好良くなったんだ?」とやいのやいの言い始める先輩等に向かって「先輩!」と声をあげた。
「篤彦の言い分もありますけど。私が何をしたら、枢木教官をときめかせられると思いますか? 男の人って、どういう所でグッとくるとか……色々と、教えて下さいよ!」
ずいっと前のめりになって尋ねる薫。
そんな薫に、枢木隊の面々はニマッと顔を綻ばせる。そして全員を代表する様に、隆久が「よっしゃ、お前等!」と声を張り上げた。
「我ら枢木隊の可愛い妹の為だ! 精一杯考えて、最高のデェトにしてやろうぜ!」
「おおおおっ!」
夜と言う閑静の包みを抜けない様に、少し押さえ込まれた胴間声が上がる。
だが、次々と上がる力強い拳は瞬く星に負けじと高く突き上げられていた。
そしてどんどんと熱さを増していく討論に押され、巣で眠りこけていたはずの鳥やリスが慌てて目覚め、わたわたとその場から遠のいていく。
彼等は、周りの異変なぞ何一つ気付かなかった。いや、薫と言う妹の為に一丸となっている彼等には、そんな事、どうでも良かったのである。
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