第8話 闇夜の告白(2)
沸々と怒りで煮える心に押し上げられ、薫は「どうせ私は普通の女じゃないですよ!」と、いきり立った。
「化け物だし、
「なんだ、急に怒りだしたな」
雅清は急に荒々しく立ち上がる薫に向かって、ボソリと突っ込む。
薫はその言葉にキッと引っ張られ、雅清の涼しげな顔をギロリと睨めつけた。
「普通じゃなくて、花影なんて言う面倒な女は除隊決定ですよね! 今までお世話になりましたっ、荷物を纏めて参ります!」
「待て」
あまりの鋭さと物々しい声音に、駆け出そうとしていた足が直ぐさまピタッと止まる。
「俺がいつ、お前に除隊処分なんて申しつけた?」
「……え?」
飛んで来た言葉に面食らい、薫は間の抜けた顔で雅清を見つめた。
雅清は出て行こうとする薫の姿を睨めつけ、「勝手に出て行こうとするな」と物々しく告げる。
「俺の許可なしに除隊出来るとでも思っているのか」
薫は飛んで来る威圧にビクリと身を縮め、「で、でも」と恐る恐る口を開いた。
「私なんか居ない方が」
「良いと? そんな事、俺は一言も言ってないぞ」
薫の言葉を荒々しく遮って先取ると、雅清は毅然と告げる。
「今も、これからもお前は枢木隊の一員だ」
分かったか! と、突然張り叫ばれる怒声に、薫は条件反射の如くビシッと素早く敬礼した。
「ハイッ!」
……って、思わずハイって答えちゃったわ!
薫は自分の口からポンッと飛び出してしまった言葉にハッとし、撤回しようとしたが。
「よし、ならこれで話は終わりだ」
と、淡々と打ち切られてしまった挙げ句
「明日の早朝訓練、お前は今日抜け出した罰からだからな。絶対に遅れるなよ」
と、地獄の宣告を下される。
うげっ……最悪だわ!
薫は纏まった話に思いきり顔を顰めた。そして何とか、この話を折り曲げようと策を練り始めるが……。
頭にポンッと軽やかに乗った手によって、ハッと薫の全てが止まった。
「お前が無事に戻ってきてくれて、本当に良かった」
自分だけに向けられる柔らかい微笑み、さっきの怒声とは打って変わった甘く優しい声。
薫の心が一気に塗り替えられたばかりか、バンッと弾ける。
「……う~、好きっ! 大好きですっ、枢木教官!」
前から溌剌とぶつけられた告白に、雅清はフッと笑みを零した。
「あんな鬼大っ嫌い、じゃなかったか?」
「そ、それは一時の感情って言うもので……」
薫はもごもごと弁解してから「本当は、大好きなんです!」と、張り叫んだ。
「今もこれからも私が枢木隊の一員である様に、私はずっと貴方が好きです! 憎まれ口も叩き続けるかもしれませんが、どんな事があっても嫌いになんてなりませんから!」
「……柚木、俺は」
「あっ、じゃあこれで失礼しますねっ! お時間頂きまして、ありがとうございましたっ!」
薫は前からの言葉を荒々しく遮り、口早にまくし立ててから、ダッと駆け出す。
そうして一人、ダダダッと夜道を駆けるが。とんとんと積み上がる
嗚呼、もう。また一方的に告って、一方的に打ち切っちゃったわ。
薫は肩を上下させて、はぁはぁと小さくきれる息を整えた。
……でも、向こうの返事は「無理」だって決まっているから。
私はこうして逃げるしかないのよね。分かりきっている事とは言え、本人の口から聞くのは辛さと悲しさが格段に違うもの。
薫はふううと長々と息を吐き出して、天を仰いだ。
濃藍の空には満天の星が広がっていたが。まん丸と太った満月の側には、たなびく暗雲の姿があった。
そのちぐはぐさに、薫の胸にはじくりと不安が突き立てられる。
そうして、翌日。早朝訓練に出席した薫に待っていたのは、普段と何も変わらない態度の雅清と、地獄の訓練だった。
「柚木っ、最後まで気を張り続けろっ! 腕立て伏せ百回追加だっ!」
……ひゃ、百回追加? ! 信じられない、なんて鬼畜なの!
あの鬼教官、本当に大っ嫌い!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます