第5話

「三条大橋で女が1人、首を吊ったらしいわ」

 Aは郵便局員からの話を、手紙を受け取りつつ聞き、その女はXだと結論付けた。

 彼は自身がその事象に対してプラスの感情を抱いていることに気づいた。それは、Xと自身が殺したKの時間が停止したことに起因するものだった。

 そんな感情を抱いてしまう自分自身にAは罪悪感を抱いたが、「自分のものにならないならば……」と思う気持ちは原始的な自然欲求ではないかと自身を正当化し、無理矢理に理性を押さえつけた。

 Aは受け取った手紙に目を通し、「なぜ俺にそんなことを頼むのか」と疑問に思った。

 その手紙は、Xからのもので、「Kがなぜ死ななければならなかった理由を求む」と記載があった。

 Aの心底には、プラスとマイナスの感情が同時並行的に発生したが、彼はプラスに身を捧げることにした。

 彼の頭には、駅の階段を足早に駆け上がり、不意に振り返ったXの姿が浮かんでいた。

 それは大学時代の彼女だった。

 日の逆光を受けて、髪を輝かす彼女はAにとってまさに「神」だった。

 

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