第6話

 AからのKの殺人案件の理由開示が火人間防止協会から拒絶されたのは、開示請求から10日目のことだった。

 Aは開示請求拒絶書を手に取り、協会の京都支部の上司に談判した。

「君は」

 上司は椅子に座り直すと、机越しにAを見ながら口を開く。

「殺人の理由を開示しないのは、火人間防止法23条で定める『火人間を処理する場合は、その理由を当該火人間に明示しなければならない』に違反するというのだ。だから、理由を開示しなければ、火人間事件訴訟法に基づき、利害関係者の立場で協会に理由開示の訴訟を起こすと」

 Aは上司の言葉に頷く。

「それは違う。君の解釈が間違っている。その先に但し書きがあるだろう。『ただし、当該明示をすることにより、第三者に害が及ぶ蓋然性の高い場合はこの限りではない』というやつだ。今回の場合はまさしくこれにあたる」

「解せないです。判例によれば、『蓋然性の高い』とは『危険性が具体化されている』まで必要なはずです。判例データベースを調べた限り、今回の案件はそれに該当しません」

 Aの言葉を聞くと、上司は笑う。

「君こそがその具体化された危険性ではないか。全体主義の中でこのような反抗はまさに異常で危険だ。それに、君は少々英雄的な気持ちでここにきているだろう。しかし、それは違う。君は英雄にはなりえない。君は絶対的な力を持ち、仮に軍隊が相手だろうと君の火で消すことができると理解した上で行動を起こしているからだ。強者は英雄になりえない」

「……答えは変わらないですか」

「変わらない。両手両足を消し飛ばされてもな」

 Aは少し考えてから、

「そうか、ではそうさせてもらう」

 と上司に右手を向けた。

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大地 @kaya-owl

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