第4話
それから暫くして、篠木目はスーパーの鮮魚コーナーでいいものを見つけた。牡蠣である。秋といえば牡蠣、牡蠣といえば秋。それぐらいに、篠木目は牡蠣が好きであった。
早速購入し、スキップしかねない勢いと幸福さで家に帰る。篠木目の脳内では、すでに生牡蠣をさまざまな調理法で食べる自分が想像されている。
生で食べる他にも、牡蠣の旨い食べ方はたくさんあった。酢とレモンで漬けても旨く、醤油に漬けても無論美味い。カキフライという手もある。バター焼きにすると意外と美味い。鍋という食べ方もいいものだ。どうやって食べようか迷いながら、篠木目はスーパーで牡蠣を手に取った。はっきり言っていいお値段だから、後悔のないように食べたい。とりあえず、いいお値段のビールも買った。
家に帰ると、篠木目は迷いに迷った挙句、牡蠣を酢漬けで食べることに決めた。生牡蠣は、新鮮なものしか食べられない。食べられる時に生食をした方がいい。だからこその決断だった。
そうと決まれば、篠木目は大根をすりはじめた。牡蠣の生臭さは、大根おろしに漬けると消える。
牡蠣を大根おろしに漬けながら、篠木目は又庭を待った。段々と、内緒で食べてしまおうか、という、よからぬ思いに襲われる。今なら、又庭は牡蠣を買ってきたことなど知らない。あと一時間は、又庭は帰って来ない。辛抱しきれない。
篠木目の心の中に、二人の自分が現れた。一人は、早くビールを開けて牡蠣の味を堪能してしまえと言う。木賊には、ちゃんと他の料理を用意してある、食べてしまえ。もう一人の自分は、自分は木賊の保護者なのだから、待ってやれと言う。木賊にはしっかりした味覚を付けさせなければいけない。それが、保護者としての自分の使命だと。篠木目は、二重に発される自分の内声に悩んだ。
悩んだ末、篠木目は又庭を待つことにした。一人より二人で食べる方が、食べ物の量は減るが、幸せの量は増える。そう考えたのだ。
「ただいま帰りました。博人さん?なんで玄関で正座してるんですか?」
帰ってきたら玄関で雑念を捨てていた篠木目に、又庭は聞いた。
「こうでもしなければいけなかったんだ。」
事情を飲み込めない又庭をよそに、篠木目は笑顔を綻ばせた。
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