檸檬を一つ、いただけませんか。

まっしろたまご

檸檬を一切れいただけませんか。

 地面を眺めて生きている。ただただ漠然とした未来への不安を抱えて、誰とも目を合わせぬよう、不安を悟られぬよう、下を向いて生きている。


 ずっと楽しんでいた読書も、アイデアを抑えきれなくなって筆を取ることも、めっきりなくなってしまった。

 ただ、日が登れば憂鬱な体をのそのそと引きずって出かけていき、日が沈めば寂しさや不安に涙を流すだけの日々だ。


 希望はない。先のことを考えるだけで頭が痛くなるから。


 似たような状況にあった誰かが、これを『得体の知れない不吉な塊』と呼んだ。

 なるほど確かに、どろどろと私にへばりついてくる漠然としたそれはまさしく『得体の知れない不吉な塊』と呼ぶに相応しいだろうと合点がいった。


 だが、残念なことに私は借金取りに追われるわけでも病魔に身を侵されているわけでもないのだ。私は怠惰で自堕落で悲観的なだけの落魄れた学生でしかない。


 今から街へでもくり出して、檸檬の一つでも買ってこようか。それでこの不安が和らぐのであれば安いという物。


 いや、やめよう。今は家から出るだけでも足が重くて仕方がない。


 もし、これをお読みの方。よろしければ、檸檬を一切れいただけませんか。まるまるでなくて良いのです。きざんだうちの一つ、一切れだけでもどうか。

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檸檬を一つ、いただけませんか。 まっしろたまご @massiro_tamago

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