@kawakawatoshitoshi

第1話

 沼から何か這い上がってきた。

 河童か?

 いや、裸の女だった。

 ふつう、そんなものを見たら警察か何かに電話するだろうが、何故かしなかった。

 私はとりあえず、女に話しかけた。

「何があったんですか?」

 女は何も言わない。

 とりあえず、たまたま持っていたペットボトルの水を頭からかけて、泥を洗い流した。

 綺麗な女である。

 タオルを渡し、裸のままではいけないので、自分の着ていた服も渡す。

 女は何も言わず受け取る。


 と、そこに一台の車が近づいてきて、中から男が出てきた。


「まだ生きてたのか、この女!生き恥さらさずそのまま沈んでろ!」

 男は叫んだ。

 私は男の迫力に何も言えず、ただ傍観しているだけだった。

 女は震えていたが、眼だけはしっかりと男を睨みつけていた。


「いったい何があったんですか?」

 たずねても、やはり女は何も答えない。

 男は車に戻り去っていった。

 私も自分の連絡先だけ教えて、乗ってきた車に戻った。


 女はまた沼に戻って、泥をかぶった。



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