異世界行って世界救ってもモテなかった俺が、現実に帰ったら娘も一緒だった件

ハムえっぐ

第1話 金髪の幼女!

 いきなりクライマックスだ!!


「おのれええええええ異世界人めえええええええええええええ」


 魔王の絶叫が木霊する。

 魔王は確かに強かった。

 それに美人だった。

 めっちゃタイプだった。


 (角が邪魔だが、金色の髪に真紅の瞳!柔らかそうな唇に胸も大きい!元の世界の可愛い女子大生と変わらねえええええええ!


 でも!この世界を闇に満たした貴様は、責任を取らなければならないのだ!


 それに!貴様を倒し王都に帰還すれば、めっちゃ可愛いJKみたいな金髪王女様と結婚して、30年守っていた童貞を捨てれるのだ!)


「ぜってえ負けねえええええ!うおおおおおおおおお!行くぜええええええ!野郎共おおおおおおお」


「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 俺の掛け声に、俺が異世界転移して出会って鍛えたマッスル部隊100人が呼応する。

 全員タンクトップを破り、鍛えた筋肉を露出してゆく。


「来るなあああああああ!汗臭いいいいいいいいいいい」  


 魔王は露骨に嫌な顔をしながら魔法を連弾してゆく。


 さすが魔王だ。

 今まで戦って倒していった、魔王軍十魔将の魔法の数十万倍は凄い。


 魔王城が燃え盛る。

 人も魔族も建物も全て溶けて消える。

 紅蓮の炎が俺達にも浴びせられてゆく。


 だが……


「何故だ!何故貴様等は燃えぬ!?」


 驚愕する魔王。

 足をガクガク震えさせ、声を震えさ、俺達の筋肉を恐れるように後ずさる。


「フッ。俺達の筋肉に魔法は通じん!」


 俺は勝ち誇って、右手の人差し指を魔王に向ける。


「意味がわかんないんだけど!!」


 意味がわからない?

 言っている意味がわからんな。


「筋肉は全てを!剣をも魔法をも凌駕するのだ!俺達童貞の筋肉を舐めるな!!」


 逃亡を図る魔王だったが、俺達マッスル部隊は足も速い。


「ひっ……こ、来ないで……汗を……汗を撒き散らすなあああああああああ」


 それが、魔王の最期の言葉だった。

 俺の正拳突きが、魔王の心臓を貫き絶命したのだった。


「……世界を手にしようと暴れ、この世界の人口を十分の一にした罪さえ無ければ、こんな結末にしたくなかったぜ」


 そんな俺の呟きに、マッスル部隊は皆頷くのだった。


 魔王の亡骸が光に包まれて消えてゆく。  

 そして……


「やりましたね隊長!」

「勇者一行より先に倒しましたぜ!隊長!これで隊長が王女様と結婚するんです!」


「くううううううう。これで、俺達も公爵家に侯爵家に伯爵家に男爵家の令嬢を紹介されて、結婚出来るんですねえええええ」

「隊長の15年がようやく報われるんですね。良かったぜえええええええ」


 皆が涙を流しながら喜んでいる。

 何か言わなくっちゃな。  


「みんなおつかれ!厳しい修行と旅をお前達に強いて、時には盗賊団に間違えられたり、街に入ったら衛兵に斬りつけられたりしたな。

 意を決してみんなで娼館行こうとしたら、いつも臨時休業で涙を飲んだっけ。

 でも!それもこれまでだ!

 ようやく童貞を捨て、結婚して子供を産んで貰って幼女の父親になるという、幼き頃からの俺達の夢が叶うのだ!  さあ!王都へ帰還するぞ!

 せーの!マッスル!!」


「「マッスル!!」」


 そうして俺達は意気揚々として、魔王城を出て……


「ん?ぎゅおわああああああああああああああ」


 俺は何十も降り注ぐ雷に撃たれて気絶した。



 気が付くと、景色が違った。  


「ここ……は?はっ!?街灯だと!?……それにこの音は……車!?」


 夜なのに明るい光が当たり前のようにある。

 そして…… ガヤガヤと人の声が聞こえてくる。


「なんか〜。不審者いっぱい出てるらしいよ〜」

「なんか〜。園児狙われてるんだって〜。キモくね?」


 俺は、異世界に転移したはず……

 なんだ?園児?異世界にはなかった単語だ。

 ここは公園か?見覚えあるな。

 異世界行く前に住んでた街だ。

 マジかよ!戻ってきたのかよ。

 確かに、この景色は間違いなく日本だ!


「ちょっといいかな?」


 俺は声が聞こえてきたほうへ向く。


「ぎゃあああああああああ。不審者ああああああああああ」

「誰かあああああああ。警察ううううううううううううう」


 JKっぽい2人は脱兎の勢いで逃げだした。


「不審者ってなんだよ!……って!俺裸かよ!」


 そりゃ不審者だわな。

 パトカーのサイレンが鳴り響いてゆく。


「ウッソだろ。待て待て、冷静になれ俺。この程度の危機、異世界では毎日だったじゃねえか」


 とりあえず鍛えた筋肉が、こっちの世界でもキチンと機能するか確認するか。

 俺の拳は、公園にあった太い幹の木を豆腐のように貫き通す。

 うん、問題ないな。  


 すると、揺れる木の葉から何かが落ちてきた。


「ちょ!?ふう、あっぶねえ」


 慌てて両腕で手にしたのは……


「なんで、幼女が……金髪の可愛い幼女が木から落ちてきて、しかも寝てるんだよ!!」


 年齢は3歳か4歳ぐらいか?

 幼女は脱力状態で、俺の腕で気持ち良さそうに寝ていた。

 着ている服、なんか異世界の貴族令嬢が着てそうなフリフリだな。


「そこの裸で幼女を手にしてる奴、止まれ!!」  


 あ、やべえ。

 早すぎだろ警察。


「待った!俺は怪しいもんじゃねえ!」

「夜の公園で!裸で幼女抱えてるおっさんが、怪しくないわけないだろおおおおおお!」


 ……ぐうの音も出ねえよ。

 とりあえず逃げるか。


 俺はジャンプした。

 木々を蹴って駆けてゆく。

 なんか轟音がして、俺の背中に蚊でも止まったかのような違和感がしたが気にしない。


「ひっ……銃が効かねえ!?」

「化物だ!?化物が現れたんだああああああ」


 そんな警官の叫びを、化物じゃねえよ!人間だよ!ってツッコみつつ、俺は15年前に住んでいたアパートを目指すのであった。



 俺は膝から崩れ落ちた。


「アパートが……無い……だと!?」


 更地だった。


 マジでどうしよう。

 いや、あったとしても、俺の賃貸契約なんて、当然行方不明になって消滅してるだろう。

 でも、俺の事を知ってる大家の婆さんが居たのだ。

 良い人だったし、服ぐらいは何とかなると期待していたのに……


「どうちたの?」


 甘ったるい舌っ足らずな声が、俺の側で聞こえた。


「おう目覚めたか。お前さん……いやこの言い方はねえな。お嬢ちゃんはどこの誰かなあ?」

「キャッキャ。面白いかお〜」


 俺の出来る精一杯の笑顔に何を言いやがる、この幼女。

 真紅の瞳か。キレイだな。

 こいつ絶対将来美人になるだろうなあ。


「もっとして〜。え~と、マッスル?」

「マッスルじゃねえ!俺の名前は後藤京也だ!」

「キャッキャ。へんななまえ〜」


 このクソチビロリッ娘め、人の名前で笑うなよ。


「そんで〜。お嬢ちゃんは誰かなあ?」


 でも笑い転げるだけで、答えようとしない。

 ハア……マジでどうしよ。

 裸で見知らぬ金髪幼女と、空き地でポツンとしてる年齢は30のおっさん。

 しかも帰る場所も金も無し!

 これ……詰んでね?

 は!?まだ手はある!!


「な、なあお嬢ちゃん。おうちは何処かなあ?送ってあげるよ」


 筋肉が告げる感覚は夜の21時過ぎぐらいだ。

 きっとこの子の親御さんも心配してるだろう。

 家に届け、お礼として服を貰うのだ!


「おうち〜?」

「そう、おうち〜」


 首をコテンとさせる幼女に合わせて、俺も首をコテンとさせる。


「ん〜とね〜」

「うんうん」


 期待に胸が広がる。

 俺の命運はこの子が握ってるのだ!


「わかんな〜い」  


 ニカっと笑って答える幼女。

 その笑顔、可愛いじゃねえかよおおお!

 俺は膝から崩れ落ちた。  


「じゃ、じゃあさ〜。パパとママは何処に居るのかなあ?」


 この子の年齢なら絶対反抗期はまだで、両親大好きなはず!

 俺は藁にも縋る思いで、ラストチャンスに賭けるのであった。

 だが、返ってきた答えは……


「パパ!」


 なんと俺を指差し、幼女は笑顔でそう告げたのであった。


 断っておく。

 俺は童貞である。

 30過ぎたら魔法使いになれるは嘘だった。

 異世界では、魔法使えない人間はゴミクズの扱いだった。  

 30歳の誕生日。俺は一縷の望みを持って過ごしたが、結局魔法は使えないままだった。


 だから!俺と同じ境遇の連中を鍛え!引き連れて!魔王城に急襲したのだ!

 魔王を倒した者に!王女様と結婚して!別に要らない国王の座になるというのは無視して!童貞を捨てるために!


「お、お嬢ちゃんにはわからないかもだけど、俺は子供を作る行為をした事がないんだよ〜」

「ん〜?」


 難しかったか。

 でもこれ以上どう説明すりゃ良いんだよ。

 誰でもいい……助けてくれ。

 そうしたら俺の筋肉に誓って、助けてくれた人の筋肉を鍛えてやろう。  


 ……ん?あ、アレは!?


「あそこ……俺の部屋だった場所……俺のタンスか!?」


 嘘だろ!?土に埋まってたのが、何かの弾みで出てきたのか!?

 タンスの角には、俺のパンツが引っ掛かっている。

 こ、これで服が手に入る! やったぜええ!!

 俺が土に拳を叩きつけると、タンスは上空へ飛び、俺も上空に飛んでキャッチすると地上に戻る。


「中身は……おお!俺のタンクトップもズボンもある!土臭いがこの際仕方が無い!」


 俺は全裸人から、ちゃんとした人になったのであった。


「さて、じゃあこれで後は金と寝床と、この子だ……って!寝てるだとおおおお!?」


 幼女はスヤスヤと寝ていた。

 安心しきったように、俺の腕の中で。

 ……どうしてくれよう? とりあえず、この子の親御さんを探そうかな。

 そう考えつつ、俺は空地の上で寝たのであった。



 パトカーのサイレンの音で目が覚める。

 朝の陽射しも眩しいぜ。

 通りでは、俺を見てヒソヒソ話すおばちゃん達や、見なかった事にして通り過ぎるリーマンや、ビクッとして足早に通り過ぎる小中高生の男女がいた。  


 筋肉の感じから朝8時頃か。

 パトカーのサイレンが遠くなってゆく。

 良かった、狙いは俺ではなかったようだ。

 さて、日雇いならなんかあるだろ。

 っと、その前にこの子を起こさなきゃだな。


「お~い。起きろ〜」

「ん〜。ごはん〜?」

「こらこら、目を擦るな。っと、そうか。飯が必要だったか」


 俺の筋肉も、ぐううううっと音を鳴らす。

 栄養が無ければ、筋肉は死んでしまう。


「ちょっとだけ待ってろ」

「ヤダ!たべたい!」


 無茶言うなよ。

 俺、無一文なんだって。

 異世界なら、ちょっと外に出て魔獣倒して焼いて食うのは当たり前だったが、ここは日本だ。

 魔獣なんていない。


 ん?ポケットに……。

 うお!?一万円札だと!?


「それ、たべれるの?」

「これはお金だ!喜べ!プロテインが買えるぞ!」


「おいちいの?」

「ああ!おいしいぞ!」


 早速コンビニに行って、プロテインを買おう。

 この子には、おにぎりとジュース買ってやるか。


 懐かしいチャーラーンという入店音と、店員の「っしゃいませ〜」の声。

 フッ。日本に帰ってきたって感じがするな。


「わああ。パパ、これなに〜」


 幼女もはしゃいでやがるぜ。


「それはアイスだな。どれか食いたいか?」

「あいしゅ?」

「食ったことないのか?良いとこっぽい服着てるのに」


 俺も15年振りだし、1本食うかな?

 他にもプロテイン9千円分と、おにぎりとジュースも買っておく。


「支払い方法選択してくださ〜い」

「?」


 なんだ?現金以外の選択肢いっぱいあるんだな。

 現金のボタン押して店員にスッと一万円札を出す。


「そこの機械に入れてくださ〜い」


 言われるがままに俺は機械に入れた。

 なんか、色々変わってるんだな……

 外に出て、アイスを幼女に渡す。


「なにこれ〜。つめたくておいちい」

「おう、良かったな」  


 ふう、これで一息付いたか。

 さてと。俺は日雇い探すとして、この子をどうするかだな。


「なあ、ホントに家はわからないのか?」


 プロテイン飲んで、幼女に振り向く。

 が、たった今までいたはずの幼女がいねえだと!?


 パタン……ブロロロという、車の扉を閉める音とエンジン音が俺の耳に入ってくる。


「パパ!たちゅけて!」  


 嘘……だろ!?  こんな瞬時に誘拐だと!?

 なんてこった!俺の筋肉が食事中で油断してる時に!


 助けを求められたんだ!

 なら!助ける!

 それが、俺の筋肉の義務なんだ!


「待てええええ!」


 必死の形相で叫ぶ俺に、誘拐犯の車は更にスピードを上げる。

 だが、それでも俺には追いつける自信がある!

 暴走し、信号無視も続ける誘拐犯の車。

 警戒中だったのか、パトカーも直ぐにやってきた。


『そこの車!止まりなさい!止まれ!』


 誘拐犯の車のせいで、他の車が次々と事故ってゆく。


『そ、そこのおっさん!止まりなさい!止まれ!』


 俺が事故車のボンネットを足場にして跳び越えてると、なんか俺に向けても女性刑事らしき声が聞こえるな。

 だが、そんなのは無視だ。


 俺は跳躍し、誘拐犯の車まで移動すると運転席側のガラスを拳で突き破った!


 ガッシャーン!!


 俺はそのまま車のフロントガラスに突っ込みながら、誘拐犯を地面に投げ捨てた。


 俺の筋肉は傷一つ付いていない。

 プロテインが効いたな!


「パパ!おちょい!」


 何故かプンスカしてる幼女。

 理不尽過ぎだろ。

 助けたんだぞ、俺。


「犯人確保おおおおおおおおお」


 女性刑事の凛々しい声と、パトカーのサイレンが辺りを包み込んだ。


「お父さん!娘さんが心配なのはわかりますが、どんな無茶ですか!」


 やべえ、俺にも絡んできやがった。


「ともかく!事情を詳しく聞きますので署まで同行してください!娘さんも大事ないか病院で検査をしてですね!

 あとそれから、誘拐された場所は何処ですか?もう!今月に入って4件目なんですよ誘拐!

 全部犯人確保して、被害者も無事ですが、どうして立て続けにこの街だけ誘拐が多発するのよ!

 犯人同士の因果関係全く無いのに、連続幼女誘拐事件ってマスコミも騒ぎやがって!

 ああムカつく!男なんてみんな死ねば良いのに!

 って!いない!?」


 女性刑事は結構な美人さんだったなあ。

 でもどうやら、メンタルがきてるっぽい。

 こういうのは関わったら碌な事が無いのだ。

 異世界でもあのタイプが一番面倒だった。

 それに、俺も見知らぬ名も知らぬ幼女を連れてるのだ。

 誘拐犯に間違われたら人生終わる。

 ん?あれ?状況から俺、もしかして誘拐犯……なのか?


 しかし幼女誘拐事件なんて特殊な事件が今月で4件目か。

 しかも全部犯人が別。

 これは……何か陰謀がありそうだな。


 魔王軍や王女様から次々と謀略を駆使され、消されそうになった過去のある俺だ。

 ヒシヒシと、筋肉に嫌な感じが伝わってくる。


 戻ったこっちの世界での平穏な日々を過ごす為にも、俺が陰謀を暴いてやろう。


 そう、筋肉に誓いを立てたのであった。

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