第4話 バズの裏側

 八雲のPTは基本的に三次元迷宮に潜ることを主軸としていたが、高校一年生から組んでいたPTメンバーである藤咲まひるは個人勢のダンジョン配信者という側面もあった。


 彼女は時折PTメンバーを連れ出して難易度の高い二次元迷宮で配信をすることもあったので、八雲の顔自体は晒されている。ただ彼自体は配信のアカウントを持っておらず、SNSなどもやっていなかったのでネットでの影響力はあまりなかった。


 ただそんな彼の姿が【祝登録者1,000人突破】弱小JC配信者のダンジョン冒険! という配信内で映された。八雲がガーゴイルの脅威から救い出した女子中学生は弱小配信者を自称しているが同接は200人ほど存在し、その中にはまひるリスナーもいた。



『え、これ八雲じゃね?』

『誰だよ』

『やくもんだよ』

『まひるのPTメンバーじゃん。そりゃガーゴイル瞬殺するわけだ』

『確か千葉ダンジョンで制覇記念配信してなかったっけ?』

『千葉てwwwランドしか知らんけどw』

『丸の内ダンジョンで検索かけたらあったぞ。maze-cast.jp/guest/stream745356――』

『ゲスト配信で草。やくもんマジで配信アカウント持ってなかったんだな』

『まひるのPTメンバーの姿か? これが……』



 そんなコメント応酬の中で八雲がゲスト配信しているURLが張り付けられ、まひるリスナーや野次馬たちは彼の配信も見に行き二窓した。それから八雲の配信ではガーゴイルを木に吊り下げての解体ショーが始まった。



『グ、グロい……』

『流石に手馴れてんな』

『こうして、私たちの食卓へと届けられる』

『グロ注意タグつけとくか』

『でもここって丸の内ダンジョンでしょ? 二次元化済んでるんじゃなかった?』

『東京の完全踏破されたダンジョンの三次元化進めてるっていう闇PTのせいじゃね? 知らんけど』



 それから数十分は八雲が手早くガーゴイルの解体を続ける映像がライブされ、その物珍しさで同接は20から50に増えて離脱も起きなかった。



『他の配信でも映ってるけど、二階層入り口の山頂に三次元化されたモンスターが出現してるっぽい』

『くそデカガーゴイルと戦ってるPTいくつかいるね』

『多分ここでコメ書いても八雲には通じなさそう。オラクル使ったのも初めてっぽいし』

『悲報:やくもん、コメの見方わからず』

『高校三年生とは思えない情弱っぷり』

『でも山頂には向かってるな。そもそも何目的で丸の内ダンジョンにまで来たんだ?』

『千葉ダンジョン完全踏破したし、次は東京に拠点移すとか?』



 リスナーたちがあれこれコメント欄で議論している間に八雲は山頂に辿り着き、ガーゴイルの群れとその中心にいるクリスタルガーゴイルの姿を捉えた。



『やくもんいるならクリスタルガーゴイルなんて一発よ』

『かれこれ一時間は経つのにまだ討伐出来てないです、か』

『魔法が効かないことなんてもう誰でもわかってるだろ。それでもじりじり殺す方針なんだよ』

『無能揃いかよ』

『丸の内ダンジョンで近接ジョブなんてTierも知らない初心者くらいだろ』

『いるなら既にジョブ変えて前線張ってるだろうしな。弱虫しかいねぇよ』

『いやー、でも三次元化したモンスター相手は怖いでしょ。ワンチャン痛覚無効が無効される可能性もなくはないし』

『でも二次元迷宮内なら有り得ないんじゃなかった? そういう事例が報告されてるならもう騒ぎになってるだろうし』



 東京の二次元迷宮内に三次元迷宮のモンスターが紛れ込む事例はいくつか上がっているものの、それに殺されて痛覚無効が貫通したという声は一つも上がっていない。むしろ二次元迷宮の設定がある上でモンスターと戦えて素材を持ち帰れるため、配信者の間でちょっとした小遣い稼ぎとして広まっているほどだ。


 それから八雲は魔力切れで下がっていた男性と軽く打ち合わせを済ませた後、クリスタルガーゴイルに肉薄してその頭蓋を槌で殴り砕いた。途端に泣き崩れる悪魔。



『つっっっっよ』

『武器適正あるとはいえ凄いな』

『シーフでハンマーとか脳筋すぎない?』

『やくもんは二次元迷宮でも大体の設定OFFだよ』

『嘘乙』

『痛覚無効OFFとかドMすぎだろ』

『三次元迷宮で鈍るからやらないんだって』

『てか、さっきからやけにやくもん詳しい奴は何なの? まひるなの?』

『まひると京介、どこいった?』

『勘の良いガキは嫌いだよ』

『出て来いよまひる。匿名なんて捨ててかかってこい』



 そして八雲がクリスタルガーゴイルに致命傷を与えて二階層に進む間、彼の配信にサブスクが送られた。送り主は稲星華苑いなぼしかえん。彼女の配信を見る際に広告非表示や限定スタンプなど様々な特典が得られるサブスクリプションが、100年分。



『は????』

『えええぇぇぇ!? 稲星じゃん!!』

『100年wwwww』

『これは余ったやつ視聴者プレゼントですわ』

『でも八雲君情弱だから譲渡もろくに出来なくないか?』

『何で!? カエンナンデ!?』



 そんな衝撃に次いで投げ銭もメイズキャストという配信サイトで贈れる一日の上限である、10万ウェルと共にメッセージが送られた。『東京遠征お疲れ様ですわー! ささやかながらお近づきの印にお贈りしますわー!』


 メイズキャストの登録者数20万人を超す稲星華苑のコメントと共に他のSNSでリンク付きの紹介を受けたからか、配信の同接は一気に膨れ上がり1000を超えた。



『何この人? 華苑様のなんなの?』

『お近づきってことは、PTでも組むんじゃね?』

『お嬢様もとうとう三次元迷宮ってわけか』

『華苑様に紹介してもらってるんだし挨拶くらいしなよ』

『シーフでハンマーは草。ダガーか刀だろ普通』

『所詮千葉でちょっと制覇しただけでしょこいつ』

『華苑様のメイドの方がよっぽど強いよ』

『てか画質わる』

『探索垂れ流しかよ。おもんないわ』



 ただ先ほどまでとは違いあくまで華苑様リスナーということもあり、コメント欄はユニコーンと指示厨で溢れかえった。そんなコメント欄を知る由もない八雲は二階層、三階層共にモンスターを単身で蹴散らして進んでいく。


 二次元迷宮とはいえソロでモンスターを忍者のように誅殺していく様は物珍しかったものの、丸の内ダンジョンの無言垂れ流し配信を見続ける者は余程の物好きである。1000を超えていた同接は急激に下がり、彼が帰還石で配信を終了する頃には100まで落ちた。



『やっぱり闇PTの撲滅を依頼された説が濃厚だね』

『華苑様悲願の江東ダンジョン制覇でしょ。髪色もあからさまに稲星意識のメッシュだし』

『いーや地元を飛び出して大学デビューだね』



 そこのコメント欄に残っていたのは八雲がどのような目的で丸の内ダンジョンに潜り、稲星華苑と繋がりを得たのかを考察する者たちだけだった。そうして八雲の配信も切れて一件落着に見えたが、稲星華苑が100年サブスクを送ったことがネットニュースになってバズってしまう。


 それに二匹目のバズを嗅ぎ分けた切り抜き師たちが八雲の配信内容を短めの動画に纏めて投稿し、それらは数万再生されてトレンドにも乗った。


 その中では黄色のメッシュを入れた稲星華苑の懐刀として紹介された動画が最も再生数が高く、八雲はそういう者なのだという認識は広まった。


 そんな事態になっていることを八雲が知ったのは、翌日の朝に母から叩き起こされた時だった。

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