第3話 なんかバズってるらしい

(角をくれてやったのに礼もなしか。まったく、最近の若者はこれだから……)



 9:1とは言いつつもガーゴイルの素材においては最も価値が高い角をあげたにもかかわらず、随分と嫌われたものであると高校三年生の八雲は同意を求めるようにオラクルを見たが、初期物なのでうんともすんとも言わない。


 そもそも八雲はPTメンバー任せでアカウントを持っておらず匿名のゲスト配信なため、同時接続数は2しかなくコメントもなかった。ただ先ほどの女子中学生は同接200ほどあったので、八雲の存在を知ったリスナーが彼の配信を探して辿り着きちらほらと増え始めてはいた。


 それから八雲はガーゴイルの足をロープで括り付けて木に吊り下げ、ある程度の血抜きを済ませてから解体を始める。


 ガーゴイルの肉は筋張っていて食用には向かず、骨も大した魔力媒体にならない。その中で魔力媒体の素材として有用なのが角、次点で目玉や心臓などの内臓系である。ただそれらはナマ物なので保存が効かず、加工にも時間がかかり素人が行うのは骨が折れる。


 肉と骨は使われるにしても猟犬の餌か標本になるくらいなので八雲は手早く解体してビニール袋に包んだ後、魔袋にそれらを雑に突っ込んでいく。それから使い道のある心臓や眼球、それと食用に向くレバーなどは丁寧に分けて魔袋に入れた。



(魔袋様々だな。三次元迷宮にもこれだけ容量デカいの持ち込めればな)



 二次元迷宮内であればどれだけデカい荷物だろうが収納できて保存も効く万能な魔袋であるが、三次元迷宮ではその容量に制限がある。それに魔力の無い外では徐々にその効力を失い、ただのボロ布バッグと化す。


 そしてガーゴイルの解体と仕分けを終えて一息ついた八雲は、ふと思いついたように暗い目で山頂を見やる。



(……もしかしなくても、チャンスか? 下から上がってきてるのがガーゴイルだけとも限らない。その素材が丸々手に入るなら多少の稼ぎにはなる)



 このガーゴイルは恐らく一階層よりも下の階層から出てきたモンスターだろう。ただあの女子中学生でも背後から不意打ちできたのを鑑みるに、石像化していたのは間違いない。


 それから八雲は駆け足で木々を縫うようにすり抜け、山頂の遺跡に辿り着いた。するとその遺跡周りには石像が不規則に並んでおり、擬態を解除したガーゴイルと戦っているPTもいくつか見られた。


 そして遺跡の入口にはガーゴイルの中でも一際大きく水晶のような体と大盾を持つ悪魔が、三人一組で構成されている5PTを相手に守備一辺倒な戦闘をしていた。



(雑魚も多いが強者もちらほら。ただまともな近接系がいないか)



 二次元迷宮においては遠距離から火力を出して殺し切る魔法職が強い環境であり、尚且つモンスターがデフォルメされて殺す感触もないとはいえ斬ったり殴ったりを嫌う者は多い。丸の内ダンジョンに入るようなPTに近接職に熟達したような者はいないのが普通だ。


 ただ遺跡の入り口を守っている巨大なクリスタルガーゴイルは、恐らく魔法系統の攻撃が通りづらい特性を持っている。弱点は物理系統による殴打が有効なのはプレイヤーたちも察しがついているようだが、それを行える度胸を持ち合わせた近接ジョブがいないのが現状だろう。


 少し上がった息を整えてから再び遺跡の入り口へと走り出した八雲は、魔袋から無骨な槌を取り出す。数十キロはある槌を持ち上げて調子を確認するようにぶん回した彼は、それを背負った。


 そして武器の準備を整えた八雲は最後方に位置していたPTで、魔力切れで休憩していた大人の男性に声をかける。



「すみません、自分も参加いいですか?」

「えっ? あぁ、構わないけど……」

「ありがとうございます。FFフレンドリーファイアはない設定ですよね?」

「……ないと思うけど、一応確認するよ」



 するとその男性は片耳に手を当て、PT間で繋いでいたVCでスキルの誤射が起きないことを念のため確認した。そして八雲に困惑した目を向ける。



「え、もしかしてだけど、あれに突っ込む気?」

「見た感じ魔法の効きが悪そうなので、直接叩いてきます」

「えーっ。いや助かるけどさぁ、痛覚無効とはいえ怖くないの?」

「大丈夫です。ただ俺はシーフなので継続戦闘には向きません。一撃当てたら離脱して二階層にすり抜けるので、後は任せます。報酬は不要です」



 男性にそう言い残した八雲は槌を背に引っ提げて前線に出た。



「スプリント」



 シーフのスキルを使い身体をブレさせ更に加速した八雲は魔法射撃中であるPTの間を突っ切り、ガーゴイルの股下を抜けて更に詠唱。慣性の法則を無視し直角に曲がってガーゴイルの背中を駆け上がり、頭上に抜けてからスプリントをかける。


 そのまま槌と共に回転し遠心力をつけての殴打に、スプリントによる加速とシーフのパッシブスキルである奇襲補正もかかった致命の一撃。それで一撃必殺とまではいかなかったがクリスタルガーゴイルは思わず地に膝をつき、頭蓋は割れて青い血が流れ出た。



(クリスタルガーゴイルも悪くはないけど、狙うはゴーレム。装備一新しちゃうぞ~)



 クリスタルガーゴイルはあくまで体表面が水晶化しているだけなので、倒してもあまり多くのクリスタルは望めない。ただクリスタルゴーレムなどの無機物モンスターであれば中までみっちり水晶であり、普段は重すぎて持ち帰れないクリスタルを魔袋に入れられればかなり美味しい。


 なので八雲はクリスタルガーゴイルには目もくれず遺跡に進んで二階層へと向かった。やはりここもまだ三次元化はしておらず、ダンジョン配信も回線が切れることなく続いている様子。



(ぜ、全然いない……)



 だが遺跡の二階層を探索して現れるのはどれもデフォルメ化されたモンスターであり、先ほどまでのリアルが嘘かのようだった。それから八雲は三階層に向かったが、そこも普段のダンジョン配信でよく見るような光景しか広がっていなかった。



(とらたぬ……)



 捕らぬ狸の皮算用で二階層、三階層共に成果はなく、残ったのはガーゴイルのしょっぱい素材のみ。これならクリスタルガーゴイルの分け前を貰っておいた方が大きなプラスだった。これ以上の探索は更に傷口を広げるだけだと思い、八雲は帰還石を握り潰して丸の内ダンジョンから離脱した。



「え、五割ですか……?」



 そして帰還した八雲を待ち構えていたのは受付での徴税だった。ダンジョン内で持ち帰った物品は受付で査定された後、税金を差し引いた金額が返される。物品を持ち帰りたい場合はその査定額にかかる税金を先んじて納めなければならない。ピコン。



「はい。ここは完全踏破された二次元迷宮と認定されていますので、この割合となります。勿論、三次元化が確認されたと報告は上がっていて現在調査中ですが、一旦は収めて頂くのが規則です。後に還付される可能性はあるので証明書は発行致します」

「……そうですか」



 申し訳なさそうに眉を八の字に曲げてそう告げてきた受付の女性に、八雲はそれ以上何も言えずにカードでガーゴイルの素材分の税金を先払いで納めた。八雲が普段潜っている三次元迷宮ならばほぼ無税のため、損した感は否めない。ピコン。


 そしてダンジョン外に出た途端にピコンピコンとうるさいスマホを見ると、何やら元PTメンバーから幾度もメッセージが来ていた。



『やくもん! 配信めっちゃバズってるよ! それにサブスク百年分!』

「バズ……サブスク……なんだ?」



 友人からのよくわからないメッセージに首を傾げた八雲だったが、今は骨折り損のくたびれ儲けのダメージで何も考えたくなかった。既に日も沈み総武線も帰宅ラッシュだろう。


 八雲は普段より三割増しは死んだ顔で駅に向かい、ちらほらと好奇な視線を向けられているのにも気付かず満員電車に揺られ地元である千葉に帰宅した。

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