第10話マルデン村の猫耳少女

マルデン村の猫耳少女


怪我の治療に時間を費やしたことで、マルデン村の近くに着いたのは、日付が替わった深夜2時過ぎだった。

実のところマルデンの森を抜ける間に、何十回も魔物に遭遇したのことも影響している。

が、戦闘の大半はティアナが対応したため、俺の出番は少なかった。

どうして出番が少なかったかというと、出没する魔物が強すぎたのだ。

それでも結構な数の雑魚を倒し、俺のレベルは胸に輝く’3’になっていた。


「一樹くん、夜が明けるまでここで野宿するわよ」


「うん。  言われなくてももう歩けない」


ティアナが近くの茂みから、松ぼっくりによく似た木の実を集めて来て、焚き火を起こした。

パチパチと木の実が爆はぜる音がし、たまに焼き栗のように俺を目掛けて飛んでくるものもあった。

なので俺は直撃を受けないように、距離を取って仮眠することにした。


夜が明けてから、30分ほど歩くと村が見えてきた。

マルデン村はチャベル村より大きく、人の数も圧倒的に多かった。

しかも商人や冒険者らしい人も歩いている。


ティアナは最初に村長の家に行き、マルデンからチャベル村までの間の魔物を退治したことを伝えた。


これで、チャベル村までの物流が再開するだろう。


ただし村長はティアナの説明を聞いている間ずっとFカップの胸を凝視していたので、女神ティアナの神罰が下るかも知れない。


「一樹くん、報告も済ませたし、朝ごはんを食べに行こうか」


「まってました。 もう腹ペコだよ」


村の中心に向かって歩いて行くと、パンや肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。

その匂いを辿って行くと’パンツゴー’というお店が見えてきた。


「ハハハ パンツ・ゴーだって」


俺が爆笑しているとティアナが呆れた顔で


「よく見なさいよ。 看板にはパンツコーって書いてあるじゃない!  ゴーじゃなくてコーよコー!」


と突っ込んで来た。


「ほんとだー。  お腹が空き過ぎて脳がバグってたー」


「とりあえずこのお店に入ってみましょうか」


ドガッ ゴロゴロ ドッシン  ニャウン


店のドアを開けようとノブに手を伸ばした時、突然大きな音とともに何かがすっ飛ばされて、危うくぶつかりそうになった。

よく見るとそれは猫耳少女だった。


キューー


それは明らかに目を回したまま、その場でのびている。


「おい、だいじょうぶか?  おまえパンツ見えてるぞ」


『ほら、やっぱりパンツゴーじゃん』 ← 一樹の心の声


「あらあら、いったいどうしたのかしら」 


ティアナは少女の耳をツンツンしながら、顔をのぞきこんでいる。


「イタタ・・  まったく乱暴な店主だにゃ!  ちょっとお財布を忘れただけなのに思いっきり蹴られたにゃぁ」


猫耳少女はむっくりと起き上がると俺をじっと見てくる。


「おまえー、あたしのパンツを見たにゃ?」


「おい、失礼なことを言うなよ。  お前がパンツ丸出しで転がったんだろうが。  見るのと見えたの違いも分からないのかよ!」


「まあいいにゃ。  ほれ、拝観料を払えにゃ」


「はぁ~?」


俺が呆れかえっていると店のドアが大きな音をたてて開いた。


「おいっ! まだこんなところにいたのか!  さっさと金を取って来て代金を払わないとミンチにして、猫ハンバーグにしちまうぞ!」


「ふにゃ~ 分かったからそれだけは、ゆるしてくれにゃ。 いま拝観料が手に入るところにゃからな」


猫耳少女は俺の方に向きを変えると手のひらを出してくる。


「ほれ、早くするにゃ」


「おまえ、いい加減にしろよ」


「やっぱり、だめかにゃ?  でもでも猫ハンバーグにされるのは絶対にいやにゃ~」


猫耳少女はついに泣き出す。


「猫耳さん、今日は特別にあたしが代わりに払ってあげるわ」


ティアナが猫耳少女の手のひらの上に、銀貨を2枚置いた。


「はぁーーーっ  ありがとうにゃぁ!  この恩は決して悪れないにゃよー」


やれやれ、俺は早く猫ハンバーグ・・ じゃなかった。 普通のハンバーグとパンとスープを食べたいんだ!

猫耳少女がお金を支払ったのに、店主から頭を一発殴られたのを横目で見ながら、窓際のテーブルに腰をおろした。


「一樹くんは何を食べるか決まった?」


「うん。 猫ハンバーグ・・じゃない。 ハンバーグとパンとスープで」


「美味しそうね。  わたしもそれにしようかしら」


結局、二人とも同じものを頼んだ。  あとティアナは、サラダも追加した。

注文してから、十分ほどで頼んだ料理がでてきた。

案外早く提供されたため、人気メニューはある程度の量を、あらかじめ仕込んであるのだろう。


しかし、この店のハンバーグは、びっくりするほどの大きさで、中にはチーズも入っていた。


「うん。  うまい。 これは星三つ★★★ですぅーー!」  と幼いころに見た料理番組風にコメントする。


「なんですか?  星三つって?」  ティアナがサラダをつつきながら、不思議そうにこっちを見て来る。


「いや、別になんでもないです」


俺はちょっと恥ずかしくなって、パンにデミグラスソースをつけて、口いっぱいに頬張った。



・・・

・・


ひさびさに食べたハンバーグに大満足で店を出ると、そこには猫耳少女が待っていた。

これは、コスプレなのか本物なのか。  しかしよく観察してみると耳も尻尾も、それなりに動いている。

じーーっと見つめていたら、猫耳少女がこっちに駆け寄って来た。


「あのにゃ。 君たちは冒険者だにゃ?」


「おぅ。  まぁ駆け出しだけどな」


「やっぱりそうかにゃ」


「だったらなんなんだよ」


「あのにゃ。 あたいを仲間にして欲しいにゃ」


「へっ?」


「あたいは、こう見えても魔法使いにゃ。  仲間にすると何かと便利にゃよ」


猫耳少女はそう言いながら、じりじりと近づいて来る。


「いや、近い近い近いって」


「どうにゃ? 仲間にするかにゃ?」


「いや、間に合ってます」


にゃーーーーっ!  「なんでだにゃーー!」


「あらあら、一樹くんったら。  魔法使いはパーティーメンバーに、なくてはならない存在よ」


「いやだって、こいつ食い逃げ猫じゃん」


シャーーッ


「いまなんていったにゃ!」


「おっ、猫シャーじゃん。  面白れぇー」


傍で見ていたティアナは、大きなため息を吐く。


「二人でじゃれあってないで。 もう先へ行くわよ」


「えっ? ちょっ、休憩しないの?」


「さっきのお店で十分やすんだでしょ!」


「はぁーっ?」


「なんだお前? けっこう軟弱者なのかにゃ?」


「なんだと! このパンツ猫!」



こんな風に罵り合いながら、俺たちはマルデン村を後にしたのだった。




第十一話(謎の迷宮)に続く

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