第4話 取り戻すために

 ユランは宿の部屋に戻ると、荷物の中から木刀を一本取り出し、柄の部分を握り、感触を確かめる


 「よし!」


 この木刀は護身用に持ち歩いていた物であったが、こんなところで役に立つとはユラン自身も思ってなかった。


 荷物から木刀を持ち出したユランは、宿の裏手にある広場まで来ていた。


 ブンッ!


 木刀を使って素振りをする。


 (おいおい、これはまずいぞ)


 素振りをした瞬間、回帰前、大人の体の感覚で振った為、すっ転びそうになった。

 回帰前の記憶はある為、培った技術や感覚は覚えていた。

 しかし、今のユランは筋力、身体の大きさなど大きく劣っている事から、頭ではわかっていても身体がついていかない。

 

 ユランが時間を惜しみ、素振りを始めたのには訳がある。

 回帰前、聖剣授与式の一週間後に村である事件が起きた。


 魔族の襲来。


 これによりユランの故郷、ジーノの村は滅んでしまった。

 村人もユランを除き、全滅。

 ミュンも助からなかった。


 (魔族の中には知性のあるヤツ『魔貴族』がいた。対抗するためには『抜剣術』は必要不可欠だ)


 抜剣の感覚も覚えているため、抜剣術自体は使用は可能だろう。

 しかし、今のユランは子供の身体であるため、高レベルの抜剣には身体が耐えられない。

 

 (使えてレベル1……それ以上は厳しいな)


 今の状態で抜剣術を用いれば、使用後、数日は動くこともままならなくなるだろう。

 よって、魔族襲来まで一週間しかかい現状では抜剣術を試しに使ってみることもできない。

 使用はぶっつけ本番になる。

 

 (今は、大人の体と子供の身体のギャップを埋めることに専念しよう)


 そう方針を決め、ユランは一心不乱に木刀を振り続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る