第4話 『完全抜剣』レベル10

 『鎧の魔王』の攻撃は、容易くシリウスの身体を飲み込んだ。


 爆発により発生した煙が晴れると、そこには私が予想した通りの光景が広がっていた。


 ニーナやアニスと同様、シリウスの頭部が爆散し、胴体のみがその場に残されていた。

 

 そして、ドンと鈍い音を立てて、頭部を失ったシリウスの身体が床に倒れる。

 

 終わった。


 全てが終わってしまった。


 世界で唯一『神級聖剣』の使い手だった、神人シリウス・リアーネの敗北。

 

 最早、私たち人類に希望は残されていなかった。


 「ここで撤退しても、結果は同じか……」


 このまま逃げ仰せても、唯一の希望を失った人類は滅亡の一途を辿るのだ。


 シリウス・リアーネは、『魔王』クラスの魔族を討伐できるただ一人の人間だ。


 そのシリウスが敗北したと言う事は……。


 それは、私たち人類の敗北と同義だ。

 

 ガランッ


 私は左手に持っていたサブウェポンを、床に投げ捨てた。


 諦めにも近い心境だったが、最後の悪足掻きをしてみようと思う。


 サブウェポンを捨てた左腕で、右腰に携えていた聖剣の柄を握る。


 本来、聖剣とは『抜剣』レベルに応じた分しか、刀身を露出させることができない。

 つまり、聖剣を直接武器として使う事は出来ないのだ。


 その為、私たち聖剣を扱う者はサブウェポンを使って戦う。


 しかし、


 『レベル10抜剣を使用します──『完全抜剣』を使用した場合──対価は使用者の生命力です──本当に使用しますか?』


 これが、私が今まで実戦において、レベル10……『完全抜剣』を使用しなかった理由だ。

 

 普段、聖剣は『抜剣』の使用確認などしない。

 聖剣所持者が『抜剣』を発動させると決めれば、聖剣がそれに異を唱えることなどない。

 だが、敢えてそれをすると言う事は、『完全抜剣』とは、それほど危険な技だと言う事だ。

 

 「当然だ。使用する」


 私からの了承を得ると、聖剣が黄金の光を放つ。


 左手に力を込めると、


 聖剣は、


 抵抗なく鞘から抜き放たれた。

 

 バリンッ!


 破壊音を立て、聖剣の鞘が粉々に砕け散る。


 鞘が無くなった事で、私の聖剣は納剣出来なくなる。

 抜剣を解除する術がなくなり、後戻りは出来なくなったと言う事だ。


 聖剣とは、使用者のソウルそのものだ。

 聖剣の鞘はソウルを護るための器。

 そして、『抜剣』とは、聖剣の刃(ソウル)を外部に晒す行為……故に、『抜剣』の使用には明確に制限時間が設けられている。

 ソウルを外部に晒し続けて、生きていられる人間などいないのだ。


 私は、抜き放たれた聖剣を両手に持ち、正面に構える。


 聖剣は尚も黄金の光を放ち続け、薄暗かった王の間は眩い光に包まれた。


 「行くぞ……」


 小さく呟く。


 私は、地を蹴り、『鎧の魔王』に向かって疾走する。

 

 これが最後の一撃だ。


 その時、私は……


 今度生まれ変わるなら、せめて強く生まれたい


 私が人生で取り落としたものを……


 大切なものを護れるだけの強い力を……


 などと考えるのだった。

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