第11話 火の人、現れる

 杏奈に火事現場から離れた別の拠点に行くように言われたので、俺とノジャはそこへ向かうことにした。

 杏奈やギルドにいた人たちは被害状況を見たり、リンの加勢に行くために火事の近くに残った。

 ノジャがはぐれると危ないからと、二人で手を繋いで歩いている。普段なら恥ずかしくて仕方ないが、今の状況でそんな事は言っていられなかった。

 街の中はザワついていて、人々は火事が起きている方向を心配そうに見ている。

 ここらでも火は見えていて、規模の大きさがわかる。

「ギルドのもう一つの拠点はここかの」

 カラフルな建物に囲まれた中に、白い壁の建物が建っていた。

 火事のあった現場からは、かなり離れていた。

「ここにいたか」

 杏奈でもリンでもない声がこちらに向かって放たれた。

 後ろを振り向くと、頭上三メートルくらい上に人が浮いていた。近くにいる人たちも、その人を見上げている。

 ノジャはサッと俺の後ろに隠れた。

「見つけるのに苦労したぞ」

 その人の耳はとんがっており、長い三角形を描いている。耳としての機能はありそうな見た目ではあるが。

 ボブヘアーにへの字に曲がった口、短い眉毛。体の線が見える黒いタートルネックを着ていた。線は細いが、男か女かはわからない。

「ヨミに知らせないとなあ」

 首にかけていた笛のようなものを吹いた。音は聞こえなかった。

 その人は上から降りてきて、俺の目の前に立った。

「何ですか?」

「お前に用はないんだよな。後ろのチビを出しな」

 ノジャは俺の服の裾をギュッと強く握りしめた。

「……ノジャを?」

「ノジャ? 何だそれ? 名前?」

 その人はにやりと口を弧にして笑ってから、真顔に戻った。

「いいから、チビを出せって言ってるんだよ!」

 そう叫んで、俺の胸ぐらを掴んだ。

 何だか、この人にノジャを渡してはいけない気がした。ノジャを守るように手を後ろに添えた。

「悪いけど、無理だ」

 手は震えている。

 異世界で誰だか知らない人に歯向かうのは怖かった。リンのように魔法を使えるかもしれない。

 でも、今はこうするべきだと思った。

 自分より弱い子を守るのが兄ちゃんってやつだろ。今、考える時ではないが、家にいる弟のことを思い出した。生意気だけど、大切な弟だ。

「じゃあ、死んでもらうか」

 その人は手を掲げると、手から火が出た。

 俺の体温はそれに反して、下がった気がする。体が震える。殺される。

 そう思った時、その人の手首を掴み背中に退けた人が現れた。

「いてえ!」

 その人……便宜上、火の人と呼んでおこう。火の人はそう叫び体を捻り、俺から離れた。

 火の人が離れると、俺の目の前に赤い髪の青年が現れた。火の人の方を向いている。

 頭のシルエットは横長のひし形のようだった。髪型が特徴的だ。でも、耳がとんがってる火の人や、猫耳の杏奈みたいにザ・異世界という見た目ではなかった。髪色は珍しいけど。

「君、何をしているのかな?」

 青年は火の人に問いかける。

「お前には関係ない! 邪魔するなー!」

 火の人がそう叫ぶと、火の人の体が燃え盛った。

 暑くないのか? 体が焼けないのかとハラハラしたが、そんな事はなく火が出ているだけのようだ。

 赤い髪の青年はベルトに刺していた短剣を握る。

 それを見ていたと思ったら、姿が消えた。

「え!」

 俺は辺りを見渡す。

 火の人の目の前にいた!

「早い!」

 火の人がそう叫んだ時にはもう遅く、青年は火を恐れる事もなく、火の人の首に短剣を当てている。

「ははは! 燃えちまうぞ?」

「問題ないよ。リンに加護をもらっているからね」

 リン? リンの知り合いなのか?

 もしかして、ギルドにいた人なのかも。

「君が、君たちが火事の原因なんだよね? 僕と来てもらおうか」

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