第10話 火事

 ギルド長に会いに行く。

 それが今の目的になった。まずは、居そうな場所と、知っていそうな仲間に聞くことになった。世界中を飛び回っているらしく、忙しい時には異世界にも行っているらしい。

「とりあえず、惑星間も移動するから、それ専用の旅行許可証を作らないとね」

 俺たちは先程の拠点の応接室にいた。リンは着替えに行っていて、いない。もみくちゃにされた時に、服が破れたみたいだった。

「それはすぐにもらえるのかのう?」

「この街なら、すぐにもらえるよ!」

「そうなのか! 良かったのう。伊吹」

「ん? あ、ああ」

 俺は考え事をしていた。

 これから、異世界を冒険するってことだよな。危ないモンスターはいるし、家には帰れないけれど、内心わくわくしていた。

「心ここに在らずじゃな」

「いや、ごめん」

「謝らずとも良いのじゃ!」

 ノジャは歯を見せて笑った。励まそうとしてくれていたのかも。


 話し込んでいると、外から大きな音がした。

「何かしら?」

 杏奈は立ち上がり、窓を覗いた。

「見えないわね。外を見てくるから、伊吹とノジャちゃんは待ってて」

「はいなのじゃ!」

 杏奈は足早に部屋を出て行った。

 ノジャと久しぶりに二人きりになった。

「そういえば、さ」

「ん? なんじゃ?」

「ありがとう」

 ノジャは何のことかわからないという顔をした。

「俺の事、助けてくれただろ。トラックから」

「あー! あのデカブツか! 気にせんで良いぞ」

「お礼、言っておかないとって、ずっと思っていた」

「気にするな。伊吹」

 ノジャは一瞬、眉を下げたような気がしたが、すぐにいつもの呑気そうな顔に戻った。

 その時、外からドーンと大きな音がした。

「何が起きているんだ?」

 俺は立ち上がり、杏奈と同じように窓を覗く。

「伊吹。焦げ臭くないかの?」

 確かに。

 窓の外を見ると、火の粉が見えた。

「火事かも! 外に出てみよう」

 ノジャはこくりと頷き、俺たちは応接室から出た。

 応接室から出ると人はいなかったが、外に続く扉が開けられていて人だかりが見えた。

 外へ出ると、少し遠くの建物から火が出ていた。その火の粉が窓から見えていたのだろう。人々は火事が起きている方を見て、騒いでいる。

「杏奈はどこだ?」

 俺とノジャは辺りを見渡すが、杏奈はいなかった。

「これは……」

 ノジャはそう言うと、俺の後ろに隠れた。

「どうした? 火が怖いのか?」

「違うが……少しこうさせてほしいのじゃ」

 ノジャは震えていたので、そのままに隠してやることにした。

 

 見渡していると、火事が起きている方角に黒いボブヘアの猫耳少女が見えた。杏奈だ。

 俺たちは杏奈の所へと駆けた。

「杏奈! 何があったんだ?」

 杏奈はこちらを振り向いた。

 杏奈の表情を見て、俺はギョッとしてしまった。

 眉間に皺を寄せ、顔は怒りで満ちているようだった。

「下を見ないで」

「え?」

 そう言われて、つい地面を見てしまった。

 杏奈の足元に黒い塊が転がっていた。

「見ないでって言ったのに」

「これって」

「人よ」

 よく見ると、人の形をしていた。でも、頭がどこにあるかわかる程度で、顔は全くわからなかった。

「火事が起きてる現場から、火だるまになりながら叫びながら走ってきたの。こんなのって、ないわ。普通の火事じゃない」

「火は消しに行かないのか? 消防団みたいな」

「行かせてない」

「なんで?」

「リンが行ってるから大丈夫よ」

 杏奈はしゃがみこんで、その焼死体に向かって手を合わせた。

 いつの間にか人がまばらに寄ってきていて、杏奈はその人たちに焼死体を運ぶようにうながした。

「伊吹? 大丈夫かの?」

 ノジャにそう声をかけられて、ハッとした。

 死体を初めて見た。現実なのに、非現実のように感じられて、ぼーっとしていた。

 恐ろしい。

 今になって、手が震えてきた。

 でも、その手をノジャが握ってくれた。

「何かあったら、わしが守るからの」

「子どもが何言ってるんだよ」

「子どもじゃないのじゃ!」

 ノジャがいつもの調子なので、手の震えは少し治まった気がした。

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