第3話 黄金の眼鏡と苺姫 その1

 東の離宮の一室。

 薄暗いランプの明かりの中、ヴァニラ色の髪の少年が座っていた。

 視線の先にはクリーム色の髪をした幼い少女がいる。

 ベッドに入って、そろそろ一時間。

 眠りが来てもおかしくはないけれど、幼い少女――フレジェは眠れずにいた。

 窓辺から差し込む月の光は、秘密めいて、静かだった。

 身を乗り出さなければ見ることのできない星も、きっと綺麗だろう。

 フレジェは知っていた。

 空が雲に覆い隠されている日は、泣きたいほど悲しい。

 星が美しく瞬く日は、胸がはちきれそうなほど悲しい。

「《黄金の眼鏡》は良い眼鏡。

 百の秘密と千の知識を持っている。

 どんな願いも叶えてくれる」

 高く澄んだ声が歌う。

 この国では知らない子どもがいないほど、有名な童歌だ。

「本当? お兄様」

 首まで毛布を引き上げて、幼い少女は尋ねる。

 あたたかい毛布は、お日様の匂いがしてホッとする。

「もちろんだよ。

 可愛い僕の妹」

 少年――パルフェは、フレジェのクセのある髪を優しくなでる。

 母である王妃がそうしたように。

「じゃあ、お母様、帰ってきてくださる?

 遠い、お空のお星様になってしまったのでしょ」

 フレジェは口をへの字に曲げる。

 髪をなでてくれた手が止まる。

 自分の目よりも濃い、ラズベリー色の目が困ったように笑う。

「それは……お母様にも相談してみないとわからない。

 空の上は、とてもとても美しいところなんだ。

 神様のいらっしゃるところだから。

 この上なく素晴らしいものなんだよ。

 居心地が良いから、帰ってくるのは難しいかもしれない」

 パルフェは寂しそうにつぶやく。

「お母様にお会いしたいの」

「僕だけでは足りない?」

「だって、お兄様はお名前を呼んでくださらないでしょう?」

 フレジェは毛布を頭まで引き上げる。

 めそめそと泣き出したい気持ちで、心がいっぱいになる。

「仕方がないんだよ、小さな妹。

 それがこの国の決まりごとだからね」

 ルセット王国の不思議な慣習。

 王女の名前は秘される。

 名を呼ぶことができるのは、名づけた者と、伴侶だけ。

「あといくつお日様が顔出したら、お名前を呼んでもらえるの?

 お母様にお会いしたい。

 私の名前は『第一王女様』じゃないわ」

 フレジェは鼻をすすり上げた。

「すぐだよ。

 そんなに時間はかからない」

 大切な秘密を教えるような口調で、パルフェは言う。

「本当に?」

「僕が《黄金の眼鏡》に頼んであげよう。

 どんな願いも叶えてくれる、魔法の眼鏡に」

 兄の言葉に、フレジェは毛布から顔を出した。

「約束よ」

「ああ、約束だ。

 だから安心してお休み」

 ラズベリー色の瞳が優しくうなずいた。

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