村長勇者 ラスボス倒した勇者のクリア後がこちらです
三浦 うどん
第1話 勇者、嫌がらせを受ける
「止めだ! 魔王!」
ゲルトが抑え、ヨアヒムが作った隙をつき、ついに致命的な一撃を与えることに成功した。
少しづつ崩れていく魔王を見ながら、少し感慨にふける。
勇者として召喚されてから七年。思えば遠くへ来たもんだ。
「う~し、これで終わりっしょ」
多分、同じように今までのことを振り返っていたんだろうヨアヒムが言う。
「最後まで油断してはいけませんよ」
相変わらず優等生な発言をマリーがする。
「にゃはは。マリーは真面目だにゃ~」
からかるようにジルケが言う。
「崩れるのも時間がかかりそうです。最後の一撃を与えてやるべきでは」
こんな時でもゲルトは冷静だ。
「そうですね。カケルの〈光の滝〉がいいでしょう。ゲルトは横についていてください」
「あっ、ちょい待ち。今、観測中。あと二分くらい待ってくれっしょ」
マリーの提案をサクッと躱すヨアヒム。お前自由人だな。
「はぁ~。わかりました。終わったら教えてください」
「ラジャラジャ」
「カケル、ゲルト。今のうちに傷を治しておきましょう」
「ああ、頼む」
「ありがとうございます。姫様」
マリーがいるおかげで歴戦の傷跡ってやつとは無縁でいられる。
いつでも玉のようなお肌だ。
「う~し。いいぞー」
ヨアヒムが満足気にしてるが、何が楽しいのかね。魔導士ってやつはわからん。
そんじゃ、お仕事しますかね。
ゲルトと一緒に崩れている魔王に近づき聖剣を構える。
「おい、ヨアヒム。下がってろよ」
「最期の時はどうなるのかが知りたいっしょ」
「カケル。気にせずやってしまいなさい」
姫様の言う通り〈光の滝〉の準備に移る。これ結構タメが長いんだよな。
もう少しで準備ができそうだ、という時に崩れていた魔王が変化を見せた。
ってか、コレ! ヤバイぞ!
「ふふふふふ。余はここで滅びる…しかし、お前らも道連れだ…強制的に転移させてやる。行先はどこかな…深海ならすぐに死ぬだろう…火山の中なら苦しみながら死ぬだろう…異世界かも知れんな…どうせ余は滅びるのだ…ただ、そのまま勇者が幸せになるなど許せん! 最期の嫌がらせだ!」
いや、死ねよ。大人しく死んでくれていいよ。
魔王の最期の転移魔法に捕らえられたのは三人。俺とゲルトと興味深く見ていたヨアヒムだ。
あー、こりゃ、ダメだ。〈光の滝〉が発動するより魔王の転移魔法の方が早い。
とりあえず、遺言を残すべきかね。
「マリー。ジルケ。魔王を倒したことは事実なんだ。それをこの後、大々的に広めてちょっとでも他の国から優位な立場を得ろよ。俺らは魔王と相打ちになったとか言っとけ」
「そ、そんな、カケル! なんですか、諦め早くないですか? 勇者パワーで何とかならないんですか?」
「いやいや、無理言うなよ。魔王の最期の魔法なんだよ。さすがにサッサと解除は無理だって」
なんか姫様は俺に過大評価しているらしい。いや、無理だって。
「よー。姫さん。これ俺っちの魔力を貯めた魔石。転移先で無事だったら道標にするからなくさないでなー」
お前はマイペースだな。ヨアヒム。 つーか、死ぬとか思ってないだろ。
「姫様。ここまでお仕えできて幸せでした。以後の護衛騎士はクルトがよいでしょう。彼なら安心です」
ゲルトはピンチだってのに真面目だねぇ。後任を推薦する余裕すら感じるよ。
「そ、そんな、あなたたち今から起こることがわかっているのですか?どこか、わからないところに飛ばさられるのですよ。深海や火山の中、天空の更に先ということもあり得ます」
マリーは焦っているが、転移魔法に捕らえられている三人は、とても冷静だ。
冷静というか諦めたというか、まあ魔王を倒せたんだからこれくらいはいっか、という思いがある。
それぐらいに『魔王を倒す』というのは人類が望んだ一大ミッションだったのだ。
犠牲が俺たち三人なら安いもんだと考えてしまうくらいだ。
「マリー。即死ではなく、転移の魔法なんだ。運が良ければまた会えるって」
「だなー。連絡まっててくれなー」
「姫様、ジルケ。私たちが死んで英雄にする方が都合が良ければ、それで構いませんよ」
なんか罠にかかった三人の方が冷静で、見送る二人がアワアワしているのがちょっと面白い。
「いや、ちょっ、ちょっと、もうちょっと待ってくれませんか」
「にゃー。何が何だかわかってないにゃー」
そんな会話をしている内に時間になったようだ。魔王の転移魔法が発動する。魔王からしたら負けたけど一矢報いたって感じかね。巻き込まれる方は大いに迷惑だが。
「ふふふ、余の全魔力、そして命を対価に捧げた転移魔法だ!どこか知らない所へ飛んでいけ!お前らをこのまま幸せにはさせん!」
嫉妬というか、逆恨みというか。お前は本当に魔王なのか?すごい小物っぽいぞ?
そんな小物っぽくても転移魔法は発動して…
俺たち三人は森の上空に投げ出された。
♢
「落ちてるー!落ちてるから!ヨアヒム!何とかしろ!」
「あー、ちょっと待つっしょ。まだ墜落死まで二十秒くらいあんだろ」
「私は魔法を使えませんからねぇ。とりあえず掴んで三人で固まっておきますか」
深海でも火山の中でも宇宙でも無いのは助かったが、いきなり命のピンチです。
凄い勢いで地面が迫ってくる! ってか魔法か!? 全力の〈風魔法〉を直下に叩き込む!
一瞬だが浮いた! でも、また落ちた!
「あー、カケル。テンパり過ぎっしょ。大丈夫。地面まで十二秒くらいあるからよー」
「私を見なさい。魔法を使えないから他力本願。ダメなら死ぬと諦めていますよ」
仲間が冷静すぎる! いや空中落下してるからな!
「おっと、あった。ホレ、これを展開しろ。〈落下制御〉が発動するからよー」
どう見ても傘だが? まあ、この魔導士は天才魔道技師でもある。『こういうこともあろうかと!』というアイテムは沢山、持っていても不思議ではない。
「うげっ!」
傘を発動したのだが、反動で変な声が出た。
「これは凄いですね。空を歩いているかのようです」
「いいっしょ。試作品で四つしかなかったから、飛ばされたのが三人で助かったわ」
とりあえす、無事に転移事故を終えたのだ。傘に感謝しよう。
「んー?どーした?カケル?」
そう言って、こちらを見るのは天才魔道士にして、天才魔道技師のヨアヒムだ。身長百六十五センチ、金髪碧眼。肌もメッチャ白く、身長と口調以外は『絵本の王子様』みたいなやつだ。会ったときが十七だったんで今は二十四歳なはず。
「魔王の転移も我らを死に至らしめることはありませんでしたね」
こんな時でも冷静なのがゲルトだ。身長百八十五センチ、青髪青眼、髪は長く後ろで一つに括っている。たまにコイツのようなイケメンに生まれ変わりたいと思うようなイケメンだ。外見も中身もイケメンなのだ。俺の最初の剣の師匠でもある。その時が二十四だったんで、今は三十一歳か。
「周りが森だらけなのはわかったけど、どっか人が居そうな所は見つけたか?早めにここがどこだか知りたい。王国や帝国ならいいけど、連邦や公国だとちょっとマズイことになりそうだしな」
そう言う俺は身長百七十センチちょっと、黒髪黒目、日本人です。召喚されたときが十五だったんで、今では二十二歳だ。
「落下している時に開けている場所を見つけました。あちらとこちらの二か所です。ただ、人里かはわかりませんよ。オークやゴブリンの集落という可能性もあります」
「いや~、行くしかないっしょ。他の候補としては水場を探すってのがあるけどなー」
「ゲルトが見つけた開けている場所に向かおう。最悪、魔物の集落でも今の俺たちには生活ができる場所ってのは貴重だ」
特に反対もなく目標に向かうことにしたのだが…何か変だな。
「魔素が薄くないか?」
「あ~、カケルも気づいたか~。ちょっとマズイかもだな」
これって、かなり弱体化する感じか?魔法も使いにくいし…
「ちょっと移動は止めて現状確認をしよう。言いたくないけど、俺は自分が凄く弱くなってる気がする」
「俺っちもそうだな~、試してないけど三割落ちみたいな感じだな~」
「私はそういうのはわかりませんね。魔法は使いませんし」
♢
「うん、これはヒドイな」
大気中の魔素が薄いせいだろう。魔法がとにかく使いづらい。発動に時間がかかるし魔力も普段より多めにかかる。魔法剣士スタイルの俺にとっては痛い話だ。
「俺っち、ここでは宮廷魔道士の下位クラスだ。あんまし役に立てないっしょ」
いや、弱体化してそれかよ。って感じだが。
「私は戦闘に関しては、さほど変わりませんね。ただ魔力の回復に時間がかかるようになっています。なので継戦能力がかなり落ちています。そこは注意してください。多分ですが、以前のように三日は戦えないでしょう。良くて一日かと」
一日でも凄いと思うんだがね。
「後は持ち物だな。俺のバックは置き去りにしちまったし、あるのはポーチに入ってる分だけだ。予備の武器と着替え、調味料に携帯食料と回復薬。こんくらいか」
「私もバックはありませんし、ポーチの中身はカケルと同じですね」
「俺っちは一応、バックを持ってこれてるからなー。ただ中身は素材と器具ばっか。現状はあんまし役に立たないっしょ。どっかに拠点を設けないと意味がない物ばっかだ」
容量拡張のマジックバックは小・中・大・特大と分かれていて、ヨアヒムが持っているのは中だ。俺とゲルトの持ってるマジックポーチはバック基準でいうと極少になる。
「それじゃ開けた場所に向かうまでに兎とか鹿とかを狩りながら行くか。今後の食糧が不安だし」
「そんじゃ~、野草も採っていくっしょ。植生が同じとは限らないけどなー」
「いいんではないですか」
幸いなことに、まだ昼前のようだ。ある程度の距離は稼げるだろう。
魔王の最期の嫌がらせに対して、五体満足なんだ。そこを喜ぼう。
俺たちの未来はこれからだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます