もう忘れていいよ

若福品作

第1話 彼女欲しいとは思わないの?

登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:27

身長:176


神川かみがわ水樹みずき

性別:女

年齢:27

身長:162





山西やまにし太希たいきが夜の自宅でのんびりと過ごしていると家の呼び鈴が鳴る。


その音に太希がインターホンの画面を確認すると1人の女性が映っていた。


この女性の名は神川かみがわ水樹みずき

太希のである。


そんな水樹の姿を見て太希は前回水樹がうちに来たのはいつだったかな?と考える。


「約1ヶ月前か。まぁ、か。」


そう独り言を呟くと太希は玄関に向かう。


そして、扉を開けると水樹が不機嫌そうな顔を太希に向けていた。


「開けるの遅い。11月の夜空は寒いんだぞ?」


そう文句を言うと水樹は勝手に太希の家に上がる。


そんな水樹の背中に1つため息を吐くと太希は扉をしめる。


「太希君。お酒出してぇ。

“前回”私が置いて行ったハイボールがまだ残ってるでしょ?」


そう水樹がこたつに体を入れて注文する。


うちは飲み屋じゃねぇんだぞ?!」


そう太希が不機嫌そうな声を出す。


「飲み屋だとは思ってないわよ。

お金払ってないでしょ?」


そう水樹が返すと太希は無駄な言い合いをやめる。


そして、黙って冷蔵庫からハイボールを取り出すとコップに移して水樹に出す。


そのハイボールを水樹は美味しそうにゴクゴク飲む。


「く~ぅ。美味しい~。」


そう満足そうに水樹はうなる。


「そうだ。ついでだから、何か軽いおつまみでも作ってよ。」


そう水樹が笑顔でお願いする。


「なんのついでだよ。」


そう太希は目を細めて水樹を見つめる。


「いいじゃん、いいんじゃん。

おつまみ料理とか得意だったでしょ?」


そう水樹が右手をバタつかせながら言う。


「“元カノ”が酒飲みのお陰でな。」


そう太希は皮肉ひにくの味をたっぷり入れた声で言葉を返す。


「それは、それは。その“元カノ”に感謝ですなぁ。」


そう水樹は微笑みを向ける。


そんな水樹の微笑みに太希は大きなため息をこぼす。


「お前は本当に変わってないなぁ。」


「それはお互い様でしょ?」


そう水樹に言い返されて太希は「さいで」と言いながらキッチンに戻る。


冷凍ブロッコリーを皿に移して太希は電子レンジで温める。


そんな太希に水樹がリビングから声をかける。


「この写真、まだかざってるんだね。」


その水樹の言葉に太希はリビングに顔を出すと水樹が見つめる写真に目を向ける。


その写真は2人が付き合っていた頃、仲良く並んで撮った写真だった。


「・・・もう…2年経つんだね。

私達が別れてから。」


そう水樹が何か感じるものがある様に言葉を口にする。


「…そうだな。お前はオレとの写真、捨てたのか?」


そう太希が尋ねると水樹は太希の方を見ないで「捨てたよ」と答える。


その返事に太希が返す言葉を探しているとレンジが終わる音が鳴る。


その音に太希はキッチンの奥へと戻る。


1人残った水樹は寂しそうな瞳で楽しそうにしている自分達を見つめる。



太希が作ったおつまみはとてもシンプルな物だった。温めたブロッコリーにマヨネーズとマスタード、そして塩コショウをかけてまぜたものだ。


シンプルだが、これがなかなか旨い。


ちなみに酒に合うかは作者は酒を飲まないので分からない。

酒飲みの読者がいるなら是非とも試していただきたい。


「うん。旨い。」


そう水樹は満足そうにブロッコリーを食べる。


そして、酒を飲む。


「いや~ぁ。幸せとはこの事だねぇ。」


そう水樹は小さく数回頷く。


「幸せといえば、今回もダメだったのか?マッチングアプリ。」


そう太希が尋ねると水樹は表情を暗くする。


水樹は太希と別れてから、マッチングアプリで次の恋を探しているのだが、これがなかなか上手くいかない。


そして、上手くいかないたびにこうやって太希の家でやけ酒を飲んでいるのだ。


「運命の相手という奴はなかなかいないものなのよ。」


そうすねた声で水樹は言葉を返すとコップに残っている残りのハイボールを飲み干す。


「おかわり~!!」


そう水樹はコップを掲げる。


「もう残ってねぇよ。」


そう太希が言葉を返すと水樹はほっぺたをふくらませる。


「買ってきて~ぇ。ダッシュで~ぇ。

今すぐに~ぃ。」


そう水樹が子供の様に我がままを言う。


「やだよ、外寒いし。今日は諦めろ。」


そう言って太希は水樹の手からコップを取り上げるとキッチンの流し台に向かう。


そんな太希の背中に水樹は声をかける。


「太希君は彼女欲しいとは思わないの?」


その水樹の言葉に太希は動きを止める。


「まだ当分とうぶんはいらないかな。」


そう太希は水樹に背を向けたまま答える。


そんな太希の背中から目線をらすと水樹は太希に聞こえないほど小さな声で「強いんだね」と呟く。


それから数時間後に水樹は帰る。


1人になった家で太希は洗い物をしながら先ほどの水樹の言葉を思い出す。


{太希君は彼女欲しいとは思わないの?}


「・・・水樹ぐらい好きになれる相手がいたらな…。」


そう太希は小さく呟く。

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