第47話
「モニカさんは目利きはできる方ですか?」
「あまり得意ではないな。ある程度はできるだろうが」
「俺は全く偽物かどうかも分からないなぁ」
「その時は私を呼んでくれ」
オークションが始まり出てくる商品を見ているが、どれも見た目だけでは価値がわからない。装備品は数値があるため分かりやすいが、それこそ宝石なんかはさっぱりだ。
「あの装備はなかなかいいな」
「そうなんですね。俺は使えないなぁ」
「ユーマ、そろそろ話し方をどうにかしてくれ。今まで黙っていたが、まるで私が偉い人みたいではないか」
「間違ってはないですよ?」
「もっと普通に話してくれ」
「分かった。これでいい?」
「それで良い。ずっとムズムズしていたんだ。やっとこれで話しやすくなった」
少し表情の緩くなったモニカさんと話しながら、次の商品にいくのを待つ。
「装備多くない? 俺もちょっと装備品を出品したから人のこと言えないけど」
「プレイヤー様が今1番欲しているのだから仕方ないだろう。しばらくは続くだろうな」
モニカさんの言う通り、永遠とも思われる装備品の紹介が続いた。
「やっと終わった。ここからはこの世界の人が出したものか」
「お、あのダイヤは高いだろうな」
「全然誰も買おうとしないよ」
「あの商品にしては400万Gは安いが、元が高いからな。適正価格の50万G下と言ったところか。今回はプレイヤー様に向けての出品と考えると、普通はあまり儲けようとは思わないはずだが、あの最低価格の設定は、絶対に元は取ろうとしているな」
「な、なぜ私の商品が誰にも買われない!」
少し奥の方でゲウスさんの声が聞こえる。
「やっぱり宝石とかはまだプレイヤーには早いんだな。オークションの人の言う事を聞いて良かった」
「そうだな。お、次は魔法の搾乳機「買う!」」
俺は札をあげた。他には誰もいなかったので50万Gで落札された。
「良かったではないか。お、次は魔法のカーペット「買う!」」
俺は札をあげた。他に誰もいなかったので、これも50万Gで落札された。
「凄いな2つも落札するなんて。お、次は魔法の「買う!」まだ私は魔法のしか言ってないぞ」
俺は札をあげた。他に1人居たが、俺が前の2つを落札しているのを覚えていたのか、早々に諦め、60万Gで落札できた。
「魔法の石鹸か。どれだけ使っても減らないと言っていたが、60万Gの価値があるのか?」
「魔法のが付くだけで価値はあるはず」
「私がカジノに居た時もこういう目をしていたんだろうな」
何かモニカさんが言っているが、あまり聞こえない。次の商品に集中しないと。
「魔法の研磨機か、流石にユーマもこれは「買う!」そうか」
最初の方に何人かと競り合ったが、50万Gから少しずつ上げているのを100万Gの一言で黙らせ、無事落札できた。
「一見ユーマは荒そうに見えて、とんでもない低価格で全ての商品を手に入れているな。どれも普通に買おうとすれば最低1つ300万Gはするぞ。使えなければ持っていても価値は0だが」
モニカさんが何か言っている。けど俺はオークションに集中しないといけないんだ。
「魔法のミキサー「買う!」だろうな。久しぶりに札を上げても疑問に思わない商品だったよ」
俺が札を最初に上げると、もう誰もプレイヤーは上げなくなった。
結局これも50万Gで落札できた。
「お、次は目玉商品らしいぞ。ユーマはお金が残っているのか?」
「え、あぁまぁ500万G以上はあるんじゃないかな」
「そ、そうか」
そして目玉商品が紹介される。
「筋力・頑丈ステータス上昇ポーション(永久)だと、これはユーマも欲しいだろう」
「いや、欲しいけど今回はいいかな。前に全ステータス上昇ポーション(永久)飲んだし。独占するのは良くない」
「先程全ての商品に札を上げた男とは思えない発言だな」
その後は珍しい装備だったり、アクセサリーだったり、ポーションだったり、俺が欲しいとはあまり思わないものが続いた。
「結局魔法のが付く商品は全てユーマが取ってしまったな」
「あれを覚えてしまったらもう戻れないんだ」
「そんな危ないものではないぞ。ただの便利な道具なことが多いはずだ」
モニカさん曰く、今回のオークションはプレイヤー向けということもあってか、そこまで価値のある商品は出ていなかったらしい。
本番は第二回、第三回のオークションで、この世界の人達とも競り合うことになる時だとか。
「それまでにお金は貯めないと。オークションはお金使うなぁ」
「ユーマは10分の1になるだろうし、ここは私がカジノに行って大儲けし、代わりに落札し「モニカさん」いや、でも、私は、カジノに行きたいんだ!」
カジノに取り憑かれたように叫び声を上げる。
「分かった。別に俺もモニカさんを我慢させたいわけじゃないから。カジノに行くなら常識の範囲内で、お金とチップを交換してきてくださいね」
そんな話をしていると、最後の商品も落札されオークションは終了した。
「じゃあもう一度マルスさんのとこに挨拶行こうかな」
「分かった」
「ユーマさんですよね。色々な商品を落札していたのは」
「ちょっとやりすぎた気もしますけど、オークションは大満足でした」
少し話をしながらマルスさんに聞きたかったことを聞く。
「あの、ちょっと聞きたいことがあって、分からなかったら良いんですけど、この手紙に書いてある名前の人って知っている方だったりします? このあとここに居る人達には聞いてまわろうと思っていて」
そう言って宝の地図で見つけた手紙と栞をマルスさんとモニカさんに見せる。
「私は分からないな。すまない」
モニカさんは知らないか。
「え、これはフォルスの字だ。間違いない」
「えっと、何か分かります?」
「オークションが始まる前に話した、運搬の時について行った私の店の従業員の名前だよ。まさか生きているのか!?」
興奮したマルスさんを落ち着かせ、その手紙を見つけた経緯を説明し、とりあえずここで話すのではなく、一度マルスさんのお店に行くことになった。
「もう一度詳しく聞かせてくれないかい?」
「分かりました。その手紙を見つけたのは……」
マルスさんにもう一度、モンスターから出た宝箱の中に宝の地図があったこと、その地図に書かれていた場所に手紙があったことを説明する。
「確かあの時の宝石の運搬先も南の街側だったはず。とりあえず手紙を読んでみるよ」
「分かりました」
マルスさんが手紙を読んでいる間、俺は魔獣達の頭を撫でて心を落ち着かせていた。
「なるほど。予想していたけど、そういうことだったんだね」
「何か分かりましたか?」
手紙に書いてあった内容としては、街を出てすぐに運搬をする男達に宝石を渡すよう言われたこと。
フォルスさんの秘密を相手に知られており、その情報を言いふらさないことを理由に、宝石を彼らに渡してしまったこと。
相手の話が聞こえてきたことが本当なら、この宝石を届け先の人に自分達がたまたま捨てられていた馬車から拾ったものだと主張し、謝礼としてお金をマルスさんと届け先の人から貰おうとしていたこと。
ただ、道中ものすごい大きくて強いモンスターに襲われて、何人もそのモンスターに倒されてしまったこと。
逃げた先で今この手紙を書いていて、次にあのモンスターに出会った時囮にされるのは自分だと思い、彼らにバレないようにこの手紙を地面に埋めること。
そして、この手紙を隠した位置が記されている地図を、彼らが踏み入ることのない、強いモンスター達がいる場所でばら撒くこと。
最後にこの手紙を見つけ出した冒険者に、この手紙を商人ギルドへ、そしてマルス宝飾店へ渡して欲しい事が書かれていた。
「この紙も上質なもので、字も綺麗なことから、この人物は相当レベルの高い教育を受けていたと考えられるね」
「確かに言われてみれば、物覚えもよく、字も初めから綺麗に書けていました。貴族向けの商品の案もいくつも彼に出してもらいましたし。地図も複製のスキルで大量に作ったのでしょう」
俺には分からないが、貴族兼元騎士のモニカさんからすると、気付くこともあるのだろう。
「まぁ今はそれを商人ギルドの方へ持っていくことが大事だろうな」
「ユーマさん、申し訳ないですがこの手紙を商人ギルドへ持っていくことをお許しいただけないでしょうか?」
「それはもう当たり前ですよ。どうぞ持っていってください。また今度お店にお邪魔します。今日はここで帰りますね」
「ありがとうございます!」
もしその手紙を見つけた人物である俺の証言が必要なら、商人ギルドを通して北の街にいる俺のところまで連絡してもらうことにする。
「なんか最後はバタバタしたけど、良い方向に進むといいな」
「あぁ、従業員も秘密を握られていたわけだし、相手も流石に殺すつもりはなかったんだろうが、色々な不運が重なったのだろうな。あまり聞いていて気分のいいものではなかった」
帰りはモニカさんとワイバーン交通を利用してワイバーンに乗ったが、空の旅を楽しむ気持ちにもなれず、あっという間に北の街に着いていた。
「じゃあ今日はオークションに付き合ってくれてありがとうございました。俺はここらで寝ますね」
「あぁ。私も楽しかったよ。あと口調が戻ってるぞ」
「あぁそうだった。じゃあまた起きた時に。おやすみ。ウルとルリとエメラもおやすみ」
「あぁ、ゆっくりしてくるといい」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
家の寝室で皆に見送られて、俺は現実世界に戻ってきた。
「今は14時くらいか」
新しいゲームを始めると、ゲームに合わせた生活リズムになるため、寝る時間も起きる時間もバラバラになる。
「もう今日はすぐ寝よ」
俺はAIに今日の動画作りをお願いして、そのまま布団に入るのだった。
「うぉ、今何時だ?」
時計を見ると21時。7時間くらい寝ていたことになる。
「動画は、出来てるな。もう大体手直しすることもなくなったし、AIの作ったやつ確認なしでそのまま出すか」
最後の確認はこれまでしていたのだが、ここ半年くらいはほぼ直すところがない状況だったので、そのまま予約投稿しておく。
「ご飯もお風呂も洗濯も、色々やることはやったし、行くか」
こうして現実で生きる上での最低限のことを済ませた俺は、またカプセルベッドの中に入るのだった。
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