第46話
「今日の昼からだったな」
「そうでしたね。僕も少し乗ってみたかったです」
西の街に移動した俺とモニカさんだが、ワイバーン交通を使えるのは今日の昼かららしかった。
あと数時間待てば俺も乗れたのだが、それよりも西の街でオークションが始まるまでブラブラしようということに。
「それにしても北の街とは違って賑わっているな」
「確かに人の数は比べ物にならないですね。オークションがあるってのも理由な気はしますけど」
モニカさんは相変わらず目立っている。いつも目立っているが、人が多いと更に視線が増えるな。
「ユーマ、カジノに行かないか?」
「え、まぁ時間はあるので良いですけど、じゃあ行きますか」
「ユーマもう1回だけだ」
「行きますよ。もうモニカさんに遠慮することはありません」
「そんな、私の金だ! 私の好きに「行きますよー」」
「なぜここに来る前の私はもっと依頼をしなかったのだ!」
5万チップ交換して負けて、次は10万チップ交換しに行った時は流石貴族の娘だと思ったが、聞いてみると全財産が20万Gだったらしく、あと5万Gを使わせないように必死に止めた。
「なんでユーマと魔獣達はそんなにギャンブルが強いんだ!」
「何でですかね。ちょっともう感覚が麻痺してる気もします」
俺もウルもルリもエメラも、なぜか全員勝った。それでも今回はみんな1万チップから始めて、大体50万チップ位になったので、そんなに買ったわけではない。
いや、50倍はそんなにじゃないな、爆勝ちだ。やっぱり麻痺している。そう言えば1回しかゲームに負けなかったかも。
「はい、元々俺達がチップに替えたお金は引きましたけど、あとは渡しましたから、もう行きましょう」
「うぅ、次は勝てる気がするんだ」
プレイヤーは換金時にチップ量を10分の1にした金額になるため、200万チップあったのが結局換金して20万Gくらい。
そこから俺達が最初に払った4万Gを抜いて、あとはモニカさんに渡しておいた。
「もうここで結構時間使いましたし、どうしますか?」
「う、うむ、もう一度だけ、いや、あそこではなく小さなカジ「モニカさん」では防具屋に行きたいな、うん。そうしよう」
という事で、大通りにある防具屋に来た。
「なるほど、最近はこういうのがあるのか」
「どうですか? 何か買いたいのはありました?」
「いや、そういうわけではない。ただ、久しぶりに見てみたくなったのだ。このまま武器屋にも行こう」
「分かりました」
武器屋でもモニカさんは興味深そうに商品を見ていた。
「モニカさんって元騎士だったんですよね。こういう装備のことも詳しいんですか?」
「いや、詳しいかはわからないが、自分で装備の点検はしていたな。まぁ危ない任務に出ることはなかったが」
話をしながら俺も武器屋に売っている武器を眺める。
「ありがとう、私が見たかったのはこれくらいだ。ユーマもどこか行きたいところはないのか?」
「そうですね。では少し雑貨屋に行きたいです」
「分かった」
そして近くの雑貨屋で日用品を多めに買う。
「確かにユーマの家には生活感が少し無かったな」
「俺達プレイヤーは元の世界に戻ってから必要になりますけど、ここでは不要ですからね。あ、あと、調味料も少し買いたいです」
「分かった。少し見て回ろうか」
そこからは砂糖や塩、味噌や醤油などの調味料を探して買っていく。
「どう作っても大体美味しくできるから調味料は必要なかったけど、本気でやるなら必要だよな」
「クゥ!」「アウ!」「……!」
ゲームの仕様が神! ありがとう! と料理嫌いが感謝するほど、ここではただ焼いたものをこれで完成と思うだけで、不思議なことに色々な味付けがされている。
よって凝った料理をしなくても、ただ美味しいだけの料理は誰でも作れるのだ。
なので、調味料を買うのは料理人か俺みたいな物好きくらいだろう。
「そろそろ時間ですね。行きますか」
カジノにいた時間が1番長かったが、その後のショッピングでもある程度時間が経って、もうオークション会場に入れる時間だった。
「そうだな。その特別席とやらは楽しみにしているよ」
「俺がどうこう出来るものではないですけどね。俺も楽しみです」
そうしてオークション会場に着く。
「一般席でのご入場でしょうか?」
「いや、この券を貰ったのでこの2人と魔獣達で入りたいです」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
そう言って連れて行かれたのは、他の人達が座る映画館のような横並びの席とは違い、広い空間に椅子が数席ずつ置かれている、上から会場全体を見渡せる部屋だった。
「お、君は景品を勝ち取ったプレイヤー様だね?」
「チップで交換した事を指してるならそうですね」
とてもお金持ちそうな人が話しかけてきた。
「私は色々な場所でアクセサリーを売っているゲウスラーアクセサリー店のゲウスだ。よろしく」
「どうも、よろしくお願いします」
「君の連れている女性も綺麗だね。下にいる人達とはやはり違うようだ。もちろん君も私達側だよ。はははっ」
そこからはゲウスさんの自慢話が続いた。うちの宝石は凄いだの、貴族も身に付けているだの、庶民には手を出せないくらいの高い商品を扱っているだの、役に立つ情報は特に無かったな。
「おや、まだ君はこの部屋にいるのかい? そろそろ自分から申し出るべきだよ。この部屋にはもう恥ずかしいので来ません、とね。はははっ」
「私はあなたに近づく気はありませんので、どうぞ無視してください」
ゲウスさんに話しかけられた男性は周りの声を気にすることなく、すぐに奥の椅子に座りにいった。
「彼は本来もうここには来れるはずのない人間でね。店も赤字続きでお先真っ暗なのさ」
「ちょっと他の人とも話してみたいので行きますね。失礼します」
「そうかい。では楽しむといいよ。今日はプレイヤー様のためのオークションだからね」
最後の最後まで良い印象を持つことが出来なかったが、ゲウスさんみたいな人がこの世界にもいるということを知れて良かった。
「モニカさんはああいうの慣れてますか?」
「まぁ貴族だと誰しも経験があるだろうな。あんなのはマシな方だよ」
そういう世界もあるのか。俺は聞き流してたけど、貴族だと話の内容を覚えていたりしないと駄目なんだろう。
「ちょっとあの人に話しかけに行ってもいいですか?」
「今日はユーマに付き合うぞ。好きなようにしてくれていい」
「ありがとうございます」
モニカさんの許可も貰ったので、先程ゲウスさんに色々言われていた人に声をかけに行く。
「こんにちは」
「あ、どうもこんにちは。プレイヤー様ですよね」
「はい。さっきは何も言えなくてすみません」
「いえ、ゲウスさんはいつもあぁなので気にしてないです」
ゲウスさんの方を見ると、俺とは違うプレイヤーを見つけて、また大声で話している。
「俺はユーマです。一応テイマーで、今は北の街にある家で農業とかしてます。これ、うちで取れたミルクなんですけど、どうですか?」
「これはご丁寧にどうも。私はマルス宝飾店のマルスです。宝石のカットから加工まで全てオーダーメイドで行っています。ではお言葉に甘えて少しいただきますね。あ、美味しい」
「私はモニカだ。今はユーマの家に居候中だが、昔は騎士をしていた」
そこからは別に隠すことでもないというので、気になっていたマルスさんの話を聞いた。
「借金がありまして、それを返すのに今は精一杯なんです。ただ、その借金も私の店で注文した商品がお客様のもとに届かなかったとかで」
「それはマルスさんのせいじゃなくて運搬側のミスでは?」
「私も責任は運搬のお店にあると言ったのですが、色々やり取りでごたついている間に、ゲウスラーアクセサリーに色んな仕事を奪われてしまいました。いや、奪われたは言いすぎでしたね。私のお店の代わりに彼が仕事を引き受けてたんです」
「話を聞いている限り、マルスは悪くないが」
「そうですね。俺も商品を運んでいたお店に責任があるということで、話は終わりな気がしますけど」
「それが、調査をしたところ運搬をお願いしたお店は既に潰れていたらしく、結局借金は私が払うことになりまして。そしてゲウスさんは借金を背負っている私の状況を何故か把握していて、そのことを周囲に言い触らされてしまったのです。もちろん借金は本当のことなので私は何も言い返すことができず、信用を失くした私の代わりに、ゲウスさんが今まで私が取引していた方達に選ばれました」
なるほど、借金の原因となった運搬会社的なお店は事件が起きた時にはなくなっていて、マルスさんがそのまま借金を背負うことになり、それをゲウスさんに言いふらされて、マルスさんの信用がなくなったのか。
「今考えると計画的なものだったのでしょう。誰も私が宝石を加工し終えて、商品を依頼人の元へ送っている最中だったと証明できる人は居ませんでした。居るとすれば、念の為運搬についていき、おそらくそのまま亡くなってしまった、たった1人の従業員でしょうか」
「そんな事があったんですね」
「ゲウスさんも運搬のお店がなくなっていたことには動揺していませんでしたが、運搬をしていた人達が帰ってこなかったことには驚いていたので、本当に事故にあったのかもしれません」
「なるほど、だからゲウスさんはマルスさんにあまりここにいて欲しくないんですね」
「私は別に彼を陥れるようなことだったり、復讐は考えていないのですが、用心深いのでしょう。ここに来るといつも大声で私のことをあることないこと言いふらすので」
おそらく同業者のマルスさんのお店を潰したかったのか、嫌がらせをしたいのだろうが、ゲウスさんも露骨にマルスさんを避け過ぎではないだろうか?
「ゲウスさんは運搬会社と繋がっているとかって疑われなかったんですか?」
「運搬をしていた人達ごと居なくなりましたからね。誰も真相は分かりません。私は宝石や借金なんてどうでも良かったんです。ただ従業員が生きて戻ってきてくれればそれだけで」
マルスさんは借金を背負いながらも、何度も従業員の捜索依頼を出したそうだ。
「でもそろそろお店の方も頑張らないと。借金を返さないといけませんから」
理不尽な目にあっても、折れずに頑張ろうとしているマルスさんを見ると、少し泣きそうになった。
「ではなぜマルスは借金を背負いながらでもこの部屋に入れているんだ?」
「モニカさん、そんな言い方はちょっと」
「ははは、いいですよユーマさん、当然の疑問なので。質問にお答えすると、私がこのオークション会場が作られる時にいくらか出資したからですね。今日も来る気はなかったのですが、呼ばれたので顔を出しました」
「なるほど、だからか。失礼な質問だった、すまない」
「いえいえ」
こうして話をしていると、会場にアナウンスが入る。
「オークションが始まるらしいですよ」
「お、本当だ。一旦見ますか」
「そうだな」
「では俺達は席に戻りますね」
「ユーマ、オークションは楽しむことが大事だぞ」
「そうですね」
少し暗い空気だったが、モニカさんにも言われた通り、オークションが始まるので気持ちを切り替え、商品が出てくるのを待った。
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