第34話
「帰ってきたぞ〜」
「クゥ」「アウ」
ログアウト中にトイレと食事を済ませたのと、カプセルベッドに入ってから自分のチャンネルで動画投稿がされているかの確認をしてきた。
「ウルがめちゃくちゃ人気だったな」
「クゥ?」
「ルリに関してはちょっと危ない人達も湧いてたし」
「アウ?」
いくつか投稿した動画の少ししか見ていないが、抽選になるほど人気の新作VRMMOということもあって、どの動画も視聴者の反応は良かった。
昔から見てくれている視聴者も応援してくれてたし、取り敢えずこのままの調子でやっていこう。
「次のコネファンの抽選に当たってる人が、俺のプレイを参考にしますってコメントしてるのもあったしな」
攻略動画を投稿してたからか、そういう視点で見る人は多い。
それでもウルとルリのおかげで前と違った楽しみ方で見てくれる人が多いのは助かっている。
「さてと、どうしようかな」
今は夜だから依頼を受けることも出来ないし、困ったな。
「南の街のダンジョンじゃなくて、外を探索するのもありだな」
確か南の街はダンジョンに挑むプレイヤーが夜でも多いおかげで、この時間も冒険者ギルドをやっているはず。
依頼を受けられるかは分からないけど、一旦行ってみるか。
「何気にこのゲームで夜中にモンスターと戦うのは初めてだし、少し楽しみだな」
こうして俺達は家のクリスタルから南の街へと向かった。
「依頼も受けられるんだな」
冒険者ギルドの依頼掲示板近くに少しプレイヤーが居るが、ダンジョン関係の依頼は無いので、この人達も俺と同じく外を探索するのだろう。
「何の依頼を受けるか悩むなぁ。あと、あの人達はなんだろう?」
俺と同じように依頼掲示板の近くにいるプレイヤー達は皆、大きいカバンを持った人が1人ついている。
「ダンジョンで取れる何かのアイテムなのか?」
でも、プレイヤーにしてはカバンを持ってる人達は全員装備が強くなさそうだし、NPCってこともあり得るな。というかそれが1番可能性は高い。
「すみません、皆さん大きなカバンを持っている人が居ますけど、NPCの人なんですか?」
「そうだよ。外が暗いから明かりを出してくれたり、道案内をしてくれたり、スキルを使ってくれたり、色んなサポートをしてくれるNPCを雇ってるんだ。お金はかかるけどすごく助かるし、ずっとダンジョンの中にいるよりも夜の探索は楽しいからね」
「ちなみにその人達は何処で雇えるんですか?」
「冒険者ギルドの中にいる大きいカバンを背負ってる人がそうだよ。いつも外が暗くなり始めた頃に皆やってきて、良いスキルを持ってるNPCは高いけどすぐ雇われちゃうから、今はもうそんなスキル持ってる人はいないかも。ちなみにフルパーティーでも1人NPCを連れていけるから、そこは心配しなくても大丈夫」
「なるほど、そうなんですね。わざわざ教えてもらってありがとうございました。俺もちょっと見てみたいと思います」
「いいよいいよ。どうせ本人達に聞けば分かることだし、彼らもサポートに特化してて冒険者と組みたがってるからね。たぶん本人達からも言われると思うけど、戦力として数えたら駄目だよ」
教えてくれたプレイヤーとはそこで別れ、大きいカバンを背負った人をギルド内で探してみると、人数は少ないが確かにいる。
「あの、ちょっとお話してもいいですか?」
「お、プレイヤー様、どうされました?」
「ちょっとあなたみたいにカバンを背負ってる人達について詳しく聞きたいんですけど、いいですか?」
「あぁ、もちろん大丈夫ですよ。何を知りたいですか?」
そう言われたので、気になっていたことをいくつか聞いた。
まず、彼らのほとんどは戦闘があまり得意ではないというのが大前提で、冒険者のサポート専門、サポーターだと思えばいいらしい。
彼らは持っている技術やスキルの中に、冒険者と一緒に行動すると便利なものだったり、モンスター相手に役立つものだったり、依頼に役立つものだったり、冒険者を助けてくれる何らかの強みを持っている。
プレイヤーの俺達が来るまでは、インベントリのスキルを持つものが冒険者達に重宝されていたそうだ。
実際に今も重宝されているが、俺達プレイヤーはインベントリを持っているため、インベントリ以外の便利なスキルを持つ者たちが最近はプレイヤー達に向けて自分を売り込んでいるらしい。
あと、もし自分を雇ったプレイヤーが倒されて街に戻った場合は、サポーターが帰還の魔石というアイテムを自分に使うらしく、40万Gの請求が追加でされるらしい。
「これまではわざわざ夜に外へ行く冒険者なんてほとんど居なかったけど、プレイヤー様達はそんなの関係なく探索や依頼に出かけるから。僕達も活躍の場が増えて助かってるんです」
「なるほど、ちなみにあなたはどんなスキルを持ってるんですか?」
「僕は今公開してるスキルとして、夜目、敵感知、採取、伐採、料理があります。特に昨日一緒に行ったプレイヤー様が敵感知と採取、料理のスキルを気に入ってくれて。採取系の依頼に行ったんですけど、今日もこのあと一緒に行く約束をしてくれました」
なるほど、こういう感じでサポーターに合わせて依頼を決めるから、依頼掲示板の近くにいたプレイヤーは皆サポーターを連れてきてたんだな。
「大体分かりました。最後に教えて欲しいんですけど、スキルのこととかいきなり聞くのって失礼にならないですか? あなたには聞いてしまいましたし答えてくれましたけど、こういうのってマナー的にどうなのかなと」
「そうですね。うーん、僕達の様な格好をしている人は基本的に大丈夫だと思います。ただ、スキルが無くても違う部分で冒険者の方に役立つ人もいるので、スキルだけで判断するのは少し危険かもしれないですね」
てことは、一般的にスキルの内容を人に話すのはそんなに軽いことじゃないんだな。あとスキルも過信しすぎるのはよくない、と。
「僕達も好き嫌い、得意不得意はありますし、プレイヤー様に求められても、合わないと思えば拒否することもあります。昨日もプレイヤー様のお誘いを断って少し揉めてたとも聞きますし。流石にプレイヤー様を騙そうとする人は少ないと思いますけど、一応気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。参考になりました」
本当はこの人に1回お試しでお願いしようかなって思ったんだけど、予約が入ってるなら仕方ないな。
「それに、こっちも騙されないように、ね」
プレイヤー同士だとその辺りは気をつけるが、NPCだと明らかに怪しそうな人以外警戒することがなかったので、注意する癖は付けないとな。
「じゃあせっかくだし、サポーターさんを探しますか」
ということで、ギルド内を歩いて回る。
さっき話しかけた人みたいに、端っこにいるサポーターは予約のある人なのかもしれないので、内側にいる人になるべく声をかける。
「すみません。サポーターを探してるんですけどお話いいで……」
「おう。俺は体力だったらそこらのやつよりもあるぜ。スキルも……」
「すみません。サポーターを探してて……」
「はい。私は夜のモンス……」
「すみません、サポー……」
「へぇ、僕は……」
かれこれ7人くらいに話を聞いたが、罠術だったり、魔物学を学んでたり、釣りスキルを持ってたり、依頼によって役立ちそうなサポーターばかりだった。
「でも、やっぱり良いスキル持ちだったり、有能なサポーターはもう他のプレイヤーに雇われてるんだろうな」
この間にもサポーターの人数は減っていて、意外なことにあまり良いスキルを持っていなかった比較的安いサポーターが雇われていく。
自分のスキルや技術をアピールするのではなくて、安さをアピールしてた人は何なのだろうと思っていたが、もしかしたら暗い空間を照らすだけの役割で雇われたかったのかもしれない。
「うわ、悩んでたらみんな居なくなってるな」
冒険者ギルドから出て、街の外の方に出ていくプレイヤーはみんなサポーターを連れている。
「ちょっと街の外までついてくか」
様子を見るために少し距離をとりながらパーティーのあとをついていく。
「うわ、なるほどね。そりゃあ1人明かり役は必要だわ」
街の近くはまだ薄っすら見えたが、少し離れると真っ暗で何も見えない。かろうじて月明かりのおかげで開けた場所は見えるが、雲で遮られたり森なんかに入ってしまえば、本当に何も見えないだろう。
「どうしよ、もう誰でもいいから雇うか。一緒に居ても雰囲気が悪くならなさそうならいいや」
ということで冒険者ギルドに戻り、またサポーターを探す。
「もう端っこにしかいないけど、片っ端から声かけるしかないよな。すみませーん」
「は、はい!」
「サポーターの人を探してるんですけど、空いてますか?」
「はい、僕でよければ是非! ただ、他の人にも聞いてからがいいと思います。一応僕はスキルこそ採掘と採石を持ってますが、ちゃんとした経験の方が全然なくて。夜の探索なんかは全くのゼロです。それでもいいと思ってくれたならお願いします!」
「よし、採用!」
「えっ?」
なんか色々言ってたが、性格良さそうで話も通じる、ここで他の人に話しかけに行ったらまた違うプレイヤーにとられるかもしれない。
「俺がユーマで、こっちがウルとルリ、よろしく」
「クゥ!」「アウ!」
「え、えっと、キプロです、お願いします!」
「たぶん今から朝まではやると思うから、大体8時間くらいかな。その分のかかる料金を教えて欲しいのと、一緒に依頼を探したいからついてきて」
「え、えっと、分かりました。1時間2000Gが基本だから、自分なら1800Gくらい? いや、それだと他の安くしてる人と……」
「行くよー、まずは依頼決めないと」
「あ、はい! 今行きます!」
少し緊張し過ぎな気もするが、こうして俺達はサポーターのキプロを仲間に加えたのだった。
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